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白雪姫と美女と野獣の王子様  作者: 宵宮祀花
幕間◆追想のベルスーズ
32/75

白雪姫の王子様

 痛む頭を抑え、首を傾ける。と、ベッドの横に置かれたサイドボードの上に、見慣れない花籠があるのに気付いた。純白の花だけで構成されたプリザーブドフラワーの籠だ。花粉が落ちないよう透明なビニールで覆われていて、籠も花も白い中、リボンの緋色が差し色になっている。


「紗夜ちゃん……このお花は、紗夜ちゃんが置いてくれたの?」


 紗夜は涙を拭いながら顔を上げると、小さく首を振った。


「私が来たときにはもうあったわ。看護師さん曰く、あなたを病院まで運んでくれた匿名の人が、あなたにって届けてくれたのだそうよ」

「そう……誰なんだろう……?」


 小羽の疑問に答える代わりに、紗夜は花籠から小さなメッセージカードを取り出した。


「差出人は書いてないけど、こんなのならあるわ」

「なぁに?」


 カードを受け取り、頭を起こすと痛むので、代わりに腕を顔の前まで上げて見る。カードには、一言だけ書かれていた。


『白雪姫へ』


 繊細な文字で、見舞いらしい言葉もなにもなく、本当にそれだけが書かれているようだ。


「白雪姫……」

「思い当たることがあるの?」

「……うん」


 そうは言っても、意識を失う寸前に、そう呟く声を聞いたというだけ。声の主もわからず、ただ年上の男の人だろうということしかわからない。


「そう……差出人は、さしずめ白雪姫の王子様ってところね」


 紗夜は伝えなかったが、看護師たちが「ものすごいイケメンが美少女を抱えてきた」「王子様がお姫様をお姫さま抱っこで運んで来た」と色めき立っていたのを覚えている。勿論、そんなふうに言い出したのは、小羽の容態が安定してからのことだが。

 彼女らの言を総合すると、思い当たる人物が一人いる。そしてそれが正しければ、確かに王子様だろうなとも思う。しかしいま小羽に伝えたところで、どうなるわけでもない。


「いつか、会えるといいわね」

「うん。会って、ちゃんとお礼がしたい」


 運命の王子様と出会ってすることがお礼とは。小羽らしい答えに、紗夜は密かに苦笑する。

 だがそれなら尚のこと、心当たりをただ単に引き合わせるだけではいけない。きっと小羽のことだから、お礼を言ったら其処で満足して、それ以上を相手に望んだりしないだろう。


「それなら早く舞台に復帰して、たくさんの人に見てもらわないといけないわね」

「ありがとう、紗夜ちゃん」


 純粋な心配と好意だと受け取り、うれしそうに微笑む小羽に、紗夜も優しく微笑んで見せた。

 胸の内に秘めた想いに蓋をして。決して漏らさぬように。


 紗夜の心の支えは、小羽を守ること。

 そして、小羽を誰よりもしあわせにすること。そのためならどんなことも厭わないという、昏い本性を笑顔の奥に隠して。紗夜は愛しい小羽の頬を撫で、うっとりと微笑んだ。

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