ごはんは大事
中央公園前のバス停からは、公園東口がすぐ目の前に見える。車止めを避けて入るとすぐ石畳で舗装された遊歩道が伸びていて、その先になだらかな丘のようになった芝生広場がある。
休日にはピクニックに訪れる家族連れやカップルが多く見られるのだが、小羽は、まさか自分がその一組になる日が来ようとは夢にも思わなかった。
「この辺りにしましょうか」
「はい」
大きな木の根元にレジャーシートを敷き、腰を下ろす。広場を見渡せば同じようにピクニックを楽しんでいる人が点々と見える。現在地は小高い位置にあるため、遠くのアスレチックエリアまで見渡せるのだが、其処では子供たちが夢中になって遊んでいる様子が見えた。
「お口に合うと良いのですけど……」
二人のあいだにバスケットを置き、蓋を開ける。
「……随分と、可愛らしいですね」
「ごめんなさい……男の方には、少女趣味過ぎましたよね」
自分でも思っていたことだったが、それでもやはり少し落ち込みはするもので。小羽はしゅんと俯いて呟いた。だが、横から手が伸びてきて、リボンで飾られたロールサンドを一つ取り出すのが見え、思わず目で追いかけた。
「謝らないでください。私との時間のために作ってくれたものに、不満などあるはずもないです。……頂いても?」
「は、はい、どうぞ」
お手拭きを手渡し、小羽も自分の手を拭きながら緊張の眼差しで見つめた。
小さなリボンがほどかれ、一口サイズに丸めて作ったロールサンドが形の良い唇へと運ばれる。咀嚼し、喉へと通されるその一連の動作を見守っていると、雪男が「美味しいです」と呟いた。
「良かった……たくさんありますから、どうぞ」
「ええ、頂きます」
小羽も一つ手に取り、一口囓る。自画自賛にはなるが、自分の好みを参考に作っただけあって、とても美味しい。次は事前に相手の好みを聞いて好きなものを作ろうと心に決めた。
今回はうっかりお出かけの約束に舞い上がって、肝心なことを聞きそびれてしまったのだ。
「あの……日月さんは、食べ物はどんなものがお好きですか?」
大半食べ終えたところで、小羽はまたうっかりしてしまわないうちにと訊ねてみた。雪男は顎に手を添えて考えてから、ぼそりと。
「トマト料理、でしょうか……」
そう呟いた。
トマト料理は小羽の好物で、最初は都合の良い聞き間違いかと思った。だが続けて「熱を通すと甘くなるところが好きですね」と言ったのを聞いて、表情を輝かせた。小羽がトマト料理を好きな理由も同じだった。
幼少期、トマトの酸味が苦手で食べにくそうにしていたのを、雅臣があれこれ調べて調理をしてくれたことで甘みを強く感じられるようになり、そのときから大好物になった。思い出の味ということもある。
「わたしもです」
「小羽さんも……?」
「はいっ」
「そうですか……趣味が合いますね」
うれしそうに頷く小羽に、雪男は自分でも意外なほど穏やかな口調で答えた。




