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白雪姫と美女と野獣の王子様  作者: 宵宮祀花
二幕◆転調のオブリガート
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小さなしあわせ

 夕食と風呂を済ませ、自室に入ると、小羽は変装を解いた。

 白髪も紅い瞳も、部屋にいるあいだは誰の目にも触れることはない。


「……? 誰だろう……」


 充電をしようと鞄からスマートフォンを取り出すと、通知が点灯していた。開いて見れば相手は雪男で、改めてよろしく頼むという内容と、それから。


「……お出かけ……」


 次の休みに、二人で出かけないかというお誘いが並んでいた。

 慌てて文字入力画面を開き、慣れない操作で返信を打ち込んでいく。


『ぜひ、ご一緒させてください。どこにいきましょうか?』


 送信して数分後、相手から返事が届く。


『よろしければ、中央公園にでも。天気も良さそうなので、ゆっくり過ごしませんか』


 雪男の言う中央公園とは、その名の通り街の中心にある大きな公園だ。

 ピクニックエリアやドッグラン、人工キャンプ場とアスレチックが一箇所に集まった、街中でもアウトドア風の休日が楽しめる場所だ。


「あの公園かぁ……」


 複雑な表情で、ぽつりと呟く。

 小羽にとってあの公園は、苦い思い出の場所でしかない。

 数年前ストーカーに襲われただけでなく、中学時代にいじめっ子集団に待ち伏せされ、大怪我を負った場所でもあるのだ。しかしそんなことは、雪男の知るところではない。行きたくないなどと言えば理由を話さなければならないだろうし、いじめやストーカーの話など会ったばかりの人間につらつら聞かせることでもない。

 一つ深呼吸をすると、平静を装って文字を打ち込んでいく。


『それならわたし、お弁当作っていきますね』


 自分の心の問題は当日までに自分で処理しようと気を落ち着かせ、小羽はそれだけ返した。また数分後、相手から返事が届く。


『宜しいのですか? では、楽しみにしています』

『はい。わたしも、楽しみです』

『そろそろ良い時間ですね。あまり夜更かしさせては申し訳ないので、これで』

『お休みなさい』

『お休みなさい。良い夢を』


 雪男との会話が並ぶチャット画面を暫し眺め、小羽は小さく笑い声を漏らした。

 ふんだんにある絵文字も一切使われておらず、スタンプは最初の確認で送られてきた一つだけ。余計な雑談もせず、会話は俳句並みに短い文のやりとりだけ。それでも言葉の端々から伝わる彼の優しさがうれしくて、顔が緩んでしまう。

 正面ホールで会話をしたときの優しい声音が思い起こされる文面は、彼の人柄が表れているかのようだ。


「お出かけ、楽しみだな……」


 ベッドに潜り込み、温かい気持ちのまま目を閉じる。

 この日は久しぶりに悪夢を見ることなく、夜明けまで熟睡することが出来た。

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