お茶会に行こう 3
連れてこられた書斎は大きな図書館のようだった。
これを書斎というならば図書館同様に司書がいる意味はなんだろうと真剣に思ってしまう。
大きさからして書斎と図書館を合わせたような造りだし、この屋敷に書庫はあっても図書館がないのは父親が書斎としているからなら納得だわ。
「アレクサ、待っていたよ。」
そう言って書類から一切目を離すことなくお父さまは言った。
私はウィルに促されるまま応接用のソファーに腰かける。
お父さまはウィルが近づいたタイミングでメモを渡すと席を立ち、私の向かい側のソファーに腰かけた。
「時に、アレクサ。今度の週末は予定が何かあったかな?」
「いえ、ございません。」
わかっているであろう形式だけの会話をする。
お父さまの用件より大事な事など子供の私にはないのだから。
「長らく煩わせていた姫君からの攻撃もこちらで対処致した。安心して自室に籠るといい。」
「ありがたく存じます。」
「こちらの不手際だから感謝されることじゃないよ。それに書庫では使用人たちの出入りが激しいからね。落ち着いて勉強などできないだろ?」
「お心づかいに感しゃいたします。」
「今日はめでたい日だからな。さらに褒美を出そうと思う。何が望みかな?」
「とくにございません。ただ誕生日を覚えてくださっているだけで幸せでございます。」
「なるほど、困ったね。私では頼りにならないということかな?」
「いえ、そんなことはないですが」
「何でも申してみよ。考えるだけでも楽しいからね。」
しょげたお父さまにつられて考える。
そういえばさっき鍵がかけられる研究室付きの温室が欲しいと思っていたんだった。
「研究室付きの温室がいいなー」
「研究室付きの温室だな。どんな感じがいいだろうか?」
心の声が漏れていたのか、お父さまが考え込みウィルに紙を用意させた。
様々な薬草を育てることができること。
光や空調管理ができて管理人として専門家を雇いたいこと。
研究室には様々な実験ができること。
自重を忘れ思いの丈をぶちまけてしまった。
少し待つとお父さまはまとめた書類をウィルに渡しいい笑顔で了承してくれた。
「少し先になってしまい待たせてしまうが1日でも早く渡せるように努力するよ。」
「ありがたく存じます。」
「親らしくしないと顔も忘れられそうだからね。」
「そんなことはございませんよ。」
美形の顔を忘れることは難しいからね。
変なこどもだと思われていないことに安堵する。
「コックス侯爵夫人の教育は君に合っていたんだね。」
「夫人は素晴らしい感性をお持ちの方でしたから。」
「まったく同じ教育をして2つ上の姉よりも礼儀作法や勉学ができるというのは本人の努力だと思うのだが?」
「お姉さまは個性的な感性を持っておりますので。」
「私もコックス侯爵夫人の態度や教育姿勢にはやや気になることが多くてねそろそろ暇でも出そうかと思っていたんだよ。すると先日突然先触れもなしにここに乗り込んできて、自分にはお嬢様の教育は向かないので辞退したいと申し出があってね。どうしてだろうね?」
「申し訳ございません。私が怒らせてしまいました。」
「いや、いいんだよ。ただ出しても戻ってくるレッドキャップをどうしたものかと思っていたら自ら出ていくことを決めてくれてね。助かったよ。」
「うれしく存じます。」
一瞬スッと目を細めたお父さまは再度どうしてだろうね?と聞いてきた。
可愛げがなくてすまんね、お父さま。
どうしてこんなに怪しまれるのかわからないので最近使えるようになった読心術を駆使してみようかな。
"王族の血が濃いからか?"
お父さまの疑問の意味がわからない。
王族は優秀ってこと?
"賢すぎる子供は王宮に回収されてしまうかな。どうするべきか。"
私が優秀すぎる件について考えていらしたようです。
以上、現場からでした。