手違い
手違いが人生を狂わせた。
神の間違いは困ったものだ。
「番号票を取ったらおかけになってお待ちください。」
未だに信じられないが、いや信じたくはないのだがどうやら神殿にいるらしい。
知らない場所だなーと思っていたら目の前の官吏がそう言ったから。
ここ神殿なんだー、なんて市役所みたいなところだろーと順番待ちをしていたら職員が言う。
「お名前をどうぞ」
「鏡 真実です。」
「かがみ、まみさんですねー」
東と書いてある名札をつけた職員は目の前のパソコンと台帳のようなものを使って何か調べていた。
あれー、間違いかーとぼやきながらいくつかの資料を持って席を離れてしまった。
またすぐに戻ってきてご移動をとだけいって場所を移ることになった。
なんだ、なんだと思っていたら奥から上司と思わしき方がソファーに座り書類をいくつか並べていた。
「かがみさま、大変申し訳ありません。」
私を応接室とかかれた部屋に連れてきた職員とその上司らしき職員が深々と頭を下げた。
「先に私は佐伯と申しまして、隣におりますのが部下の東と申します。鎮魂神殿日本支部庶務課の課長をしております。」
この世界の全てが支部で本部でございますと付け加えていた。
俗にいう天国と地獄の検問らしい。
役所は役所でも死役所みたいだ。
事務処理を神様たちがアナログにしてるのをみたエンジニアな魂がシステム化して今の大勢を作り上げとか、カッコいいなとか思ってしまった。
「かがみ まみさま、この度は手前どもの手違いで巻き込んでしまい申し訳ございませんでした。」
「手違いとはどういうことでしょうか?」
「はい。順を追って説明させていただきますと」
佐伯さんから今回の謝罪の経緯について簡単な説明を受けた。
昨日、かがみ まきという女性がなくなったと知らせが入り、回収課の職員が向かったところ暴走。
近くにいた精神が希薄な魂だった私の体を乗っ取り追い出してしまったとのこと。
決して名前が一文字違いだからではないと信じてる。
本当ならアホらしくて泣ける、ドライアイだけど。
ブラック企業のような職場で疲れきっていた私は抵抗することなく入れ替わってしまった。
神殿に保護のため連れてこられたが職員の休憩時間だったこともあり引き継ぎされずにそのまま3日放置されていたらしい。
1日魂が戻らないと定着してしまい、予定していたかがみ まきさんの魂は回収できないし私も戻せないとのこと。
3日も放置されてるとは神殿恐ろしいな。
仕方ないので今後のお話をするためにこの部屋に呼ばれたみたい。
「つきましては、かがみさまに3つご提案させていただき採用していただく存じます。」
決定事項のように3つの中から選べというが、死んだ魂を元には戻せないから最大限の誠意なんだとも思うけど、傲慢ではないのかと釈然としないが提案を聞く。
目の前に1枚プリントが差し出された。
「まずは輪廻転生の理に沿い前任者が行うはずだったレーンに乗ってもらうことですが、あいにくかがみさまの魂との兼ね合いで均衡が崩れてしまうためオススメできません。ただの拷問になりますから。」
「輪廻転生ってあるんですねー。」
「そこですか?ゴホン、次にこの神殿職員になることなんですが正直今のかがみさまの魂の疲弊が激しくすぐに動くことができませんのであまりオススメできませんね。ここはだれでも、いつでも働けますから。」
「動けないほど疲れてる魂、ですか。」
「大変ご苦労なさったのだと思います。さて、最後の3つ目なのですが一番危ないです。こちらからは書類作成、引き継ぎ、引渡しまでしか関与できずその後どうなるか未知でごいます。オススメしません。」
「ん?でも、推したいのはこれですよね?いいですよ、なんでも。」
「左様でございます。かがみさまのご理解に感謝いたします。」
めっちゃいい笑顔だ。
なんだろう、こわい。
「未知だから危険ということですよね?それは普通のことではないかと思いますので感謝されるほどでもないかと。」
「手前どもの勝手に付き合わされて、ほぼ選択肢もない状態ですので最大限のお力添えはさせていただきたく存じます。」
またもやめっちゃいい笑顔で言われたけど、これは課同士の争いに巻き込まれそうな予感。
平和に、平和にが一番なんだけどな。
「よくわからないですが、よろしくお願いいたします。」
あえて何も言うまい。
そう思うあたり私も少しは何か思うところがあるらしい。
事務処理の手続き書類等を作成するために二人は部屋から出ていった。
ひとりになり考える。