20(勇者日誌)
百十一日目
心なしか足取りが軽い。
やはり、装備が前と違って整ったからだろうか。
精神的な安定感が違う。あとは魔力温存の為にポーションを数十個まとめ買いしたのも心理的に効いている気がする。
ユグノーシアに向かうにあたって事前に道も調べたからな。
北の森を抜けて、川を渡った先に見えてくるドドラ火山のふもとにあるとか。
火山の近くと聞くと噴火が怖いが、ここ数百年は全く噴火しておらず、天然の温泉が湧くことから観光地になっているらしい。
温泉かー、良いよな。
最近は戦いばかりだし、美味いものを食ってゆっくり温泉に浸かったってバチは当たるめぇ。
それに観光も出来るって話だから、久々に羽が伸ばせそうだ。
楽しみだなぁ。
百十二日目
ユグノーシアに向かって二日目。
北の森に差し掛かったあたりで見慣れない魔物と遭遇した。
銀色に輝くスライム。
イーエックスライムというらしい。
倒すと強くなれるとかでアーシアさんと武闘家がめちゃ本気で襲い掛かってたけど逃げられてた。
いや、マジで素早くてビビったわ。
まさか武闘家の速度で追いつけないとは。
世界には色んな魔物が居るもんだな。
百十三日目
俺、呪われてるのかもしれない。
なんか攻撃するときになんか剣が黒く染まるようになった。
凄い中二感。いや、マジで何だよこれ。もっと力を込めると赤い電気みたいなのがバチバチ鳴るし、どんな仕組みだ。
というか属性盛りすぎィ! 黒い剣に黒い防具の勇者とか完全に中二病やんけ!
あと心なしか最近、カラスに狙われてる気がする。
歩いてる最中もなんかずっと頭の上の方を飛んでるし、寝てる時も木陰に止まってこっちを見てくるから怖い。
ちょっとマジで呪われてる気がしてきた。
ユグノーシアに着いたら教会に行って呪いを解いてもらおう。
百十四日目
最近は水代わりにポーションを飲んでる気がする。
なんだかんだ戦闘は無傷とはいかないからなぁ。武闘家やアーシアさんもダメージは受けているみたいだし、買い込んで正解だった。
それと一日中歩き続けて森を抜けると川にたどりついた。
そんなところで今日は小休止。
川で魚が取れたので今日はバーベキューだ。
塩漬けにして焼いて食うと美味いんだこれが。
百十五日目
橋を渡って更に進むと火山が見えてきた。
噴気しているようで白くモクモクとした煙が空に立ち上っている。
とても大きな火山だ。恐らくはあれがドドラ火山なのだろう。
橋を渡ったからか出て来る魔物も急に見たことないものに変わった。
歩く木の魔物、燃える岩の魔物、煙の魔物、卵っぽい魔物。
とはいえ、装備の充実した武闘家とアーシアさんの相手ではない。
バッタバッタと薙ぎ倒されていく姿を見てると、勇者が本当にこの世界に必要なのか首を傾げたくなってくる。
……それにしてもカラスが相変わらず鬱陶しい。
近くで見られるから余計に怖いんだよなぁ。
今日なんか夜寝る直前に目が合ったし、おー怖。
百十六日目
やっとユグノーシアに着いたぞー!
到着が夜だったからか何も見えねー。
とりあえず宿は取った。
温泉は明日に取っておいて、今日は早めに寝よう。
百十七日目
改めましてユグノーシア!
山のふもとというか、山に沿って街がある感じだなこりゃあ。
街中のあちこちで風呂屋があるせいか、至る所から白い煙が上がっている。
観光地だからか食べ物屋も多いな。
ドドラ火山名物のドドラ唐揚げを買った。この付近でしか出ない鳥を使っているらしい。熱々で美味い。
流れるように情報収集もしたけど、ここらへんは魔物の被害も少ないみたいだな。
あと、ドドラ火山にはユグノーシアの守り神が住んでいるとか言ってた。酒などの供物を捧げるかわりに街を守ってくれるらしい。
「守り神ねぇ……私も聞いたことないし地域ごとの風習かしら?」
アーシアさんもこう言うように、地域にある伝説的な何かだろう。
それはともあれ、温泉だ温泉。
街の人にオススメを聞いたら『華流の湯』という宿を紹介してもらった。何でもそこの湯は浸かるだけで怪我すら治すとか。早速行ってみたけど、いやー最高だったぜ。お湯がすべすべで、心なしか疲れも取れた気がする。
暫くはここに泊まるかー。
百十八日目
今日は三人とも自由行動の日。
前々から心配だったこともあって教会に行ってみた。
神父さんに呪われてるかどうか見てもらったけど、呪われてはいないようだ。
黒い力を直接見せてもみたけど、勇者パワーですと言われた。
えっ、待って。この黒いの勇者パワーなの?
なんかこう勇者って白い光とかそんなイメージがあるんだけど。
もしかして俺の心が汚れてるから勇者の力も色が濁ってるとか?
……イケメン勇者がゴルドの街を救った時は白い光を放ったとか聞いたし、あり得そうなのが悲しい。
百十九日目
武闘家に修行をせがまれた。
あのねえ、俺はお前のサンドバッグじゃないんだけど。
というか今更ながら武闘家はちょっと常識が無いのかもしれない。
「お願いします! (修行に)付き合ってください! 一人だともう我慢出来ないんです! 何でも、何でも言うこと聞きますから!」
「分かった! 分かったから黙れ!」
街中でこんなことを叫ばれたから周りの人の目がヤバかった。
あれは明らかに俺をロリコン扱いする目だった。
武闘家、ちゃんと全部言え。
というか確信犯じゃねーだろうなこいつ。
ちなみに修行は模擬戦だった。
百二十日目
何でも言うことを聞くそうなので、武闘家には今日一日ノーランドで買った例の服を着るように命令した。
相変わらずスカートは苦手なようだ。
そのまま外に連れ出してやったら「鬼、悪魔、勇者ーっ!」と呪詛を吐かれたが自業自得。
何でもする、なんて安易に言うからだ馬鹿め。
むしろこの程度で済んで感謝して欲しい。
ロリだがこいつの見た目は充分可愛い部類に入るからな。
誰それ構わず修行の為に何でもするなんて言い出したらいつか本当に痛い目見ることになる。
ついでに今日一日でユグノーシアまでに使ってしまったポーションを買い足しておいた。これでしばらくは買い物もしなくて良さそうだな。




