16(勇者日誌)
百一日目
(何も書かれていない)
百二日目
(何も書かれていない)
百三日目
目が覚めた。
信じられないことに生きているようだ。
……絶対死んだと思ったんだけど。
まだちょっと記憶が混乱してるから、とりあえず、明日。
百日目にあったことをまとめようと思う。
百四日目
起こったことをつらつら書いていく。
百日目、魔物たちが攻めてきた。
慌てて街の外に飛び出したら、文字通り軍勢が迫ってたわ。
ただ、例の白髭ジジイ魔法使いの姿は無かった。
代わりに数の暴力というか、倒しても倒しても魔物が現れたのを覚えている。
武闘家とアーシアさんが無双してたけどキリがない。
俺も兵士さんと協力して討伐してたけど、マジで終わりが見えなかった。
というか俺も中々頑張ったと思う。
兵士と戦うワーウルフを背後から切り伏せ、兵士を襲うスライムを貫き、兵士に殴りかかってたブルーゴーレムの体の隙間目掛けて一閃し、兵士目掛けてブレスを吐くかおまじんを横からざっくり。おまけに兵士にモリを突き付けるハーフマーマンもばっさり。
……チキン戦法? うるさい黙れ。勝ちゃあいいんだよ!
というかこれだけ数が居る中で正面から戦えるかぁ!
正面から戦ってる間に俺がやられるわ!
いやまぁ、武闘家とアーシアさんは正面から戦ってたけどさ、あの人らは例外だから。
というか武闘家の動きが凄かった。
この前覚えた盾っぽいやつでブルーゴーレムの攻撃を正面から受け止めたり、盾を投げつけて敵を昏倒させたり、かと思えばオーラを纏って転がり迫るかおまじんを正面から殴り飛ばしたり。
ヒーローものの主人公か何かかあいつは。
アーシアさんはアーシアさんでアイスやフレア、アイシクルやメガフレアなどの氷と炎の魔法を巧みに操り、的確に魔物を撃ちぬいている。
ビューティフル。
うん、比べたら負けだ。自分に出来ることをしよう。
そんな感じでせこせこと魔物を倒した。
で、それから数時間くらい戦った頃だろうか。
朝方は晴れてたのにこの頃には曇りになっていて。
ダメージはともかく、割と真面目に疲労感がピークに達した頃にようやく魔道老ゼメスが出てきた。
疲労させてから登場とは卑怯だぞジジイって言ったら「背後から斬り捨てたやつに言われたくないわい!」って言われた。解せぬ。
兎にも角にも勝負だ。
こっちには魔法殺しの薬という秘策がある。勝てると分かってる勝負なら何も怖くない。
とか思ってたんだけど、ここで俺はあることに気付いた。
……どうやってゼメスに薬を浴びせかけるんだ?
相手が居るのは空中だ。上空数十メートルの高さに浮いている。うん、俺はとどかない。
となると撃ち落とす必要があるわけだが……どうやって?
そんなことを考えてたら空にいたジジイが十メートルくらいありそうなクソでかい豪火球を作ってた。ギガフレアというらしい。
しかもそれを地上目掛けて撃って来やがった。アーシアさんが気付いて、同じくギガフレアで対抗してたけど撃ち負けて、それを武闘家が巨大な盾を召喚してどうにか防いだけど、ここで悲報。
武闘家とアーシアさんが共にオーラと魔力を使い果たしてしまったらしい。
二人同時に力尽きて倒れてたけど、待てや。
しかもジジイの矛先が何故か俺に向いたし。そうされる心当たりはあるけど待てや。
聞いちゃくれなかった。
返答とばかりに大量の火球と、闇の球が降り注いできて死ぬかと思った。
しかも避け切ったら今度はもっとでかい火球と闇球が降り注いできたし。
何発か直撃したわ。すぐにポーション飲んだけど。
それを何度か繰り返したけど、駄目だった。近づく方法が思い浮かばんのよ。
そうこうしてたら相手も業を煮やしたのか、また巨大な火球を作り出した。
で、それを俺目掛けて撃ってきて、どこにも逃げ道がない状況になった。
いや、もう終わりかと思ったわ。対抗手段がないし。
リアルに豪火球が近づいてくるのがスローモーションに見えた。多分、死の間際だったからだろう。ゾーンってやつだな。
視界一杯に降り注いでくる炎がゆっくり近づいてきて、周囲を見まわせば絶望の表情を浮かべる兵士達や、炎に飲み込まれそうになる俺を見て目を見開いている武闘家とアーシアさんが見えた。
とにかくどうにかしないとと、咄嗟に剣を抜いたのを覚えている。
そして剣を全力で振り下ろしてーーーーその後の記憶がない。
……何で俺、生きてんの?
あれだけの火球が直撃したらどう考えても丸焦げどころか、灰になると思うんだけど。
もしかして斬ったのか? いや、でもアーシアさんと武闘家が二人がかりで止めるような技を斬れるとは思えんし……。
そもそも、王国は無事っぽいけどあの後どうなったんだ?
百五日目
お見舞いに来てくれた武闘家達から事の顛末を聞いた。
……信じられないことに俺、あの豪火球を斬ったらしい。
極大の黒い光が出たとか何とか、中二病かよ。
ついでに鋼の剣が跡形もなく消えたとか言ってたけど、今気づいたわ。確かに剣が無い。
なんてことだ……俺の二千八〇〇ソルが。
あと魔道老ゼメスは捕らえたらしい。例の魔法殺しを使って、今は城の特別な独房に入れているとか。
ゼメスが捕まったのを見て魔物達も蜘蛛の子を散らすように撤退していったそうだが、うん。
どうやって捕まえたのか知らんけどよう捕まえたな。
百六日目
身体はとうの昔に回復してたけど検査入院という名目で病院に押し込まれていた俺だが、ついに今日退院した。
しかも今日は丁度、魔物の軍勢に勝利したことを祝う宴をするらしい。
会場に行ってみたら、主役の登場だとか言われてめっちゃ酒を注がれた。
周りの兵士のおっちゃんやにいちゃんがスゲー気が良くてめちゃ楽しかったわ。
そうそう、こういうのだよこういうの!
豪華な飯を食って、一緒に戦った仲間と酒を酌み交わす。最高だぜ。
武闘家とアーシアさんもお酒を飲んでた。
武闘家って酒飲んでいい年齢だっけ? まぁ、今日ぐらいいいか。
「ゆーしゃー……いっしょに、のみまひょー」
武闘家は顔真っ赤にしてフラフラだった。多分、二日酔いになるやつだと思う。
「ふふっ、もう一杯。まだまだいけるわっ!」
対してアーシアさんだけど、やべえ。アホみたいに飲んでるのにまるで酔ってなかった。
周囲に大男が何人か酔いつぶれてるのを見るに、多分競争でもしてたのだろう。
そんな具合にめっちゃはしゃいだ。
いや、まぁ途中から眠ってしまった武闘家を介抱してたけど、でも楽しかった。
百七日目
城に呼ばれたけど、武闘家が中々部屋から出てこなかった。
入ってみたら案の定、二日酔いだったらしい。
武闘家曰く「やばいです、痛いです。頭が割れるみたいに痛いです。何ですか、二日酔いってこんなに頭がガンガンするんですか、うっぷ」とのこと。
仕方ないので同性のアーシアさんに武闘家の看病をお願いして俺一人で城に行った。
城に着くとトンカー王の元にすぐに案内されて、めっちゃお礼を言われた。
そしてお礼として剣と防具を貰った。
……防具が黒でやたら中二病っぽいのは気になるが、置いておこう。
まずは剣。
魔力を通しやすい剣だそうだ。かなり高価らしい。
試しに火炎斬りをしようとしたら普段の倍くらいの出力が出た。つよーい。
続いて防具。
旅人の服に近いが、素材は耐久性に優れるドラゴンの皮をなめして作ったらしい。軽くて丈夫だとか。
……中二病っぽいけど実用性ええやん。
総評、神かな? 多分普通に買ったらめちゃ高いだろうし。
王様は太っ腹なことに、他の二人の武器や防具も用意してくれるらしい。
神だったわ。顔はどう見てもヤのつく自由業の親玉だけど神だわこの爺さん。
一応、本当に良いのか聞いてみたら「この程度の出費で平和が手に入ると思えば安い買い物じゃわい」とのこと。かっけぇ。
しかも今後は困ったらいつでも相談していいよと言われた。それと魂のオーブとやらはこっちでも探すから見つかり次第連絡するよーとのことだ。
おいおいマジかよ、大盤振る舞いじゃん。
日記書いてる今もテンションがハイだぜー! なんたって国の後ろ盾が出来たからな。
割と本気でこの国に住んでも良いかと思い始めてきた。
百八日目
二人にも武器と防具が届いたらしい。
武闘家には動きやすさと防御力を兼ねそろえたオレンジ武闘着と、指ぬきグローブ。
アーシアさんには魔法力を高める白いローブと、世界樹の木で作られた杖。
装備した二人が嬉しそうに見せてくれた。
似合ってる似合ってる。
それと、改めてアーシアさんから話があると言われた。
聞いてみたら「私を仲間にしてください」らしい。
今更な話だ。思わず武闘家と顔を見合わせたわ。
いやまぁ、確かに暫く一緒に行動しましょうだから、正式に仲間とかは決めて無かったけどさ。
でも今更だろ、もうとっくに仲間だよ。
そう答えたら感極まったらしいアーシアさんに抱き着かれた。
百九日目
三人で次の旅の目的地について話し合った。
アーシアさん曰く、今いるドドランド大陸の北にあるユグノーシアという街に行きたいらしい。
近くに火山のある温泉街だとか。
へー、良いじゃん。最近は戦闘漬けだし、ゆっくりできそうだ。
行こう行こう。
百十日目
それなりに長くいたトンカー王国だが、お別れだ。
俺達が旅立つという話を聞いてか、沢山の兵士達が見送りに来てくれた。
スライムに襲われてたライアン、ワーウルフに噛みつかれてたジャスティン、ブルーゴーレムに殴られてたザスティン、かおまじんに跳ね飛ばされたロドリゴ。
ありがとう、お前たちのことは次の目的地に着くくらいまでは忘れないぜ。
さぁ、次の目的地は温泉街ユグノーシアだ!




