"打倒!4傑&甘粕清蘭"スペシャルトレーニング~1日目~
「よし、誰にもつけられていないな?」
「もちろんです、師匠!」
「段ボール箱を被って完全ステルスしてましたデス!」
「……それはどっから仕入れたステルステクニックなんだ?」
「古来より、日本では忍者が段ボール箱を被って潜入していたと聞きましたので……安心して下さい。誰にも勘づかれておりませんから」
「そ、そうか。なら良いが……」
変に自信満々なエデンとエルミカ、それに周囲に人の姿も気配もしないのを確認する限り本当にバレていないらしい。段ボール箱を被って移動するなんて伝説の英雄か頭のおかしい奴しかやらないような方法でよくもまぁバレなかったもんだ……。
それはまぁともかく、気持ちを切り替えて2人の指導だ。現状を嘆くよりも受け入れること……そうすることが俺の平穏無事な学校生活、平和な日常を取り戻す為の最短ルートだ。その為にも、気合を入れてエデンとエルミカを一人前に仕上げるとしよう。
……心を、鬼にしてでもな。
「さて、2人共。特訓を始める前に、いくつか約束して欲しいことがある」
「「はいっ!」」
「まず1つ目。ここでの特訓のことは誰にも言わないこと。ここで何をしたのか、俺に指導して貰っていたこと、そういうことを含めた諸々のことだ」
「守ります!」「守りますデス!」
「よし、じゃあ2つ目。どんな特訓であっても決して音を上げない、投げ出さない、逃げ出さない、諦めない、良いか?」
「もちろんです!」「もちろんデス!」
「「よしよし、それなら最後に。どんな時も、自分の原点を忘れずに特訓に励め。以上だ。この3つを絶対に、何が何でも、天地神明に誓って守れるというのなら……俺が指導してやる」
「はいっ! もちろん俺は守ります! 絶対にあなたの指導についていってみせます!」
「ワタシもデス! テンチシンメーに誓いますデス!」
2人の表情から、瞳から、本気だというのが伝わってくる。重大な秘密はあるが、嘘はつかないような2人だ。とりあえずは信じるとするか。あとは……。
「……分かった。それじゃ、始めるとするか……"打倒!4傑&甘粕清蘭"スペシャルトレーニングをな」
エデンとエルミカ次第、だ。
俺は不敵な笑みを作ると、容赦なく2人に地獄のスペシャルメニューを味わわせていくのだった。
「あ、あの……」
「何だ?」
「20分以上、ずっとこんなので良いんですか……?」
「ワ、ワタシもそう思いますデス。さっきからずっとこれで……」
「はいブブー。さっきの誓約を忘れたのか? どんな特訓であっても音を上げない、に抵触してるぞ。黙って集中して行うんだ」
「は、はい……」「分かりましたデス……」
まだ納得がいっていない様子だったが、2人は特訓メニューを再開する。
──ストレッチという名の、特訓を。
俺の地獄のスペシャルメニュー、そのオードブルはただのストレッチだった。本当に比喩でもなんでもなく、ただのストレッチだ。
とは言え、少し中身は普通のものと異なる。動き自体は同じだがそれにかける時間が長い。
普通10秒や長くても30秒ほどで左右を入れ替えたり次の部位に移るストレッチ、それを俺は1分間もやらせていたのだ。今2人がやっているのはアキレス腱を伸ばす所だ。
「集中しろよ。じっくりと意識を伸ばす箇所に向けて、浸透させていくんだ」
俺の言葉に従い、瞳を閉じて集中を高めていく2人。先ほどは不満を少し口にしていたが、今はもうしっかりと取り組んでくれているようだ。
「ふむ……」
アキレス腱伸ばしを終えて次に行っているのはシンプルな前屈だ。
2人とも元々柔らかいのかしっかりと180度まで開脚し、さらには上半身が地面にくっつくほど。とは言えこれもまたじっくりと1分間だ。
しばらく学園の人工芝の匂いを味わう他にないが、そこは我慢してもらうとしよう。
「あっ……!」
「どうしたエデン?」
「いやっ……あのっ……そのっ……」
何か異変が起きたらしいエデンだが、口をまごつかせて中々言い出さない。どうしたんだ? 何だか顔も紅くなってきているし……もしや具合でもまた悪くなったのか?
「エデン、俺に出来ることがあったら何でも協力するから遠慮せずに言ってくれ」
「で、ですが……」
「師匠の言うことには逆らうな。言うんだエデン」
「うぅ……分かりました」
多少強引だが、エデンからの言葉を引き出すとしよう。悪く思うな。
ますます顔を朱に染めるエデンだったが、ようやく覚悟が決まったのか口を開き始める。
「……ラが」
「ん?」
「ブラが……外れてしまったんです……」
「なるほど、ブラか」
ブラか……ブラね……。
……。
「マジ?」
「はい……本当です……」
「そうかそうか……」
えーっと……つまりは……。
エデンのあの二つのお山が、零れ落ちそうになっているってことね。
あーなるほど完全に理解したわ。
いや、落ち着いてる場合じゃないな。このままだと外れたブラの影響でエデンから俺の理性を崩壊させるような声が漏れてくるかもしれない。
そうなると俺が指導するどころじゃなくなるのでやむを得ない。機械的に処理していくとしよう。シロさんの(おっぱいを揉んだ)時の経験を経て、俺の精神力はさらに鍛え上げられ、磨かれた。
その結果に生まれた鋼の精神力を発揮するモード……その名も"メンタルロボットモード"を発動する──!
「エデン、ヨカッタラオレガブラヲナオスゾ」
「そんな、師匠のお手を煩わせる訳には……!」
「イイ、キニスルナ。オマエハストレッチニシュウチュウスルンダ」
「……分かりました……お願いします」
ヘイジョウシン。ヘイジョウシン。
オレハハガネノセイシンリョクヲハッキシ、エデンノウンドウヨウジャージノナカニテヲツッコンダ。
「ひあっ……!」
「ドウシタ?」
「す、すみません。師匠の手が思ったより冷たかったので……」
「ソウダッタカ、スマナイ」
エデン二アヤマリツツ、オレハテヲジョジョニウエニハワセテイク。
ソウシテイルトベツノカンショクガオレノテニアタル。ヤワラカクアタタカイエデンノハダデハナク、ヒモジョウノホソイナニカ……コレコソガ、エデンノシタギだった。
「エデン、コレガソウカ?」
「は、はいそうです……」
ミミモマッカニソメタエデンノコタエヲキクト、オレハユックリトエデンノシタギヲツナギアワセヨウトシタ。シカシ……。
「ひゃっ……!? あっ……はぁっ……し、師匠っ……痛いです……!」
「ス、スマン。ヤリカタガイマイチワカラナクテ……」
シタギヲツケナオスナンテコトハウマレテハジメテダッタオレハカッテガワカラズ、エデンノアマイコエヲヒキダスバカリデマッタクシンテンガナカッタ。
マ、マズイ……。コノママデハ、ロボットメンタルモードスラモオーバーヒートシカネナイ。
フダンハオトコトシテフルマッテイルブン、ソンナエデンノダスアマクヨウエンナコエハ、ギャップモアッテハカイリョクガハンパジャナイ。
ハ、ハヤク……シナイト……オレノメンタルガキカイカラ……ケダモノニナッテシマウ……ソレダケハサケナイト……!
「ウオオォオオオォオオオオオオォオオオッッッ!!」
「ひゃぁああぁんっっ……あっ……直りました」
よっっっしゃあぁああぁああ!! 今すぐ退避ーーーーっっっ!!
エデンの下着をつけ直せるとすぐに俺は彼女から距離を取った。
あ、危なかった……。あと5秒もエデンのエッチな声を聞いていたら、メンタルロボットモードからメンタルビーストモードになっていた。
そうなれば俺は何をしでかしていただろうか……下手したら師匠失格どころか人間失格だった。
「あ、ありがとうございます師匠!」
「い、いや気にするな。エデンやエルミカが集中してトレーニングに取り組める環境を作り出すのも師匠である俺の役割だからな。じゃ、じゃあもう1回集中するんだ」
「はいっ!」
エデンの尊敬の眼差しに逆に心が痛い……。エデンの下着をつけ直している最中に理性を失いかけたなど、そんなの知ったら幻滅してまた「この不逞の汚物が!!」とか言われるに違いないし……まぁ、事なきを得たということで俺も忘れるとしよう。
たぶんエデンの感触と温もりはそう簡単に忘れらないだろうが……。
ひと悶着あったものの、その後もエデンとエルミカは身体の各部位を伸ばし続けた。
そうして30分が過ぎた頃、俺は合図を送った所でようやくオードブルは終わった。
「ふぅ、ようやく終わったデス……」
「疲れはしないが、中々骨の折れるメニューだ。さて師匠、次は何をするんですか?」
「……終わったかどうか、お前達が決めるんじゃないぞ」
「えっ? 一体どういう意味で──ひゃあっ!?」
エデンの口から女の子らしさ全開の可愛らしい悲鳴が漏れる。
その理由は……俺が彼女の太ももを不意に揉んだからだった。
「ひゃっ、あっ……ひああんっ……ふぁっ……あっああぁっ……!」
眼光を鋭くした俺は太ももをまさぐり続け、その度にエデンは秘密を忘れさせるほどの甘い嬌声を上げて身体をビクっと反応させる。
顔も先程のように紅潮し、淫らな息遣いとなっていたが俺は止めなかった。
遂にメンタルビーストモードに覚醒してしまった……のではない。これは必要な確認だ。
「甘いな、エデン」
「ふえっ……?」
「まだまだ筋肉に硬さがある。ほぐれ切ってないぞ。最初からやり直しだ」
「そ、そんな……!? わた……俺は……!」
「エデン、今からするのは超過酷なトレーニングなんだ。半端なストレッチしてると筋肉痛どころじゃない、下手すれば筋肉断裂するぞ。これは脅しでも何でもねえ、俺自身の経験談だ」
「っ……!」
「まぁ怪我をしたのは俺じゃないが、それでも何人も筋肉をやっちまった奴を見て来た。良いかエデン、超一流ってのはな、ストレッチから超一流なんだよ。肝に銘じときな」
エデンの太ももから手を離し立ち上がると、俺は睨み付けるような瞳で彼女に釘を刺す。反論の余地すらも許さない、気迫の表情で。
すると流石にこちらの言うことが正しいと思ったのか、エデンはグッと歯を食いしばると「はい……」と消え入りそうな声で返事をしていた。
「あとエルミカ、もちろんお前もほぐし不足だ、エデンと一緒にやり直せ」
「ぷきゅえっ!?」
「異論は認めない。それともエデンみたいに触られて確かめて欲しいか? 時間も勿体無いからさっさとやるんだ!」
「は、ハイィィィ!!」
エデンとは異なりエルミカは勢い良く返事をするとすぐさまストレッチを再開する。その後、渋々エデンもストレッチを始めていた。
ちなみにエルミカに口だけで注意したのは、万が一にもこの場面を新聞部に撮られた時の対策だ。
エデンはまだ男だと周囲からは思われてるからともかく、エルミカの身体を触ってる所を撮られたとしたら……確実に社会的に俺は死ぬだろう。
まぁ見た感じから身体がほぐれ切れてないのが分かったのは幸いだった。ストレッチも苦手なのか、ちょこちょことサボってたしな。
「……よし、十分伸び切ったみたいだな。じゃあ、今日はここまでだ──」
スペシャルトレーニング1日目を、俺はそう言って終了させた。
結局2人の身体がトレーニングをするのに耐えられる筋肉のほぐし具合になるまでは2時間もかかってしまっていた。
……全く、先が思いやられるもんだ。俺の平和な日常が戻ってくるまでは、時間がかかりそうだ。




