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疑いようのない事実


「はがっ……はががががっ……がぁっ!!」


 外れてしまった顎を何とか自力で戻す俺。

 激痛がジンジンと襲い来るが、そんなことよりも。


「……嘘だろ……!?」


 目の前の現実に、俺は改めて信じられないという顔を作る。

 今一度"SMM"の表示をじっと見つめるも

 【エデン・エクスカリス 性別 女】

 その表示はやはり変わらなかった。

 エデン・エクスカリスは──女だった。


「どうしたんデスか?」


「あぁ、えっと……エルミカちゃんにちょっと聞きたいことがあるんだけど良いかな?」


「なんデスか?」


「エデン……は、お兄ちゃん何だよな?」


「ハイ、そうデスよ?」


「……でも、こっちの表示には……女って書いてあるんだよ」


「へぇ~そうなんデスか」


「うん」


「……」


「……」


「ぴきゃあぁああぁああああっ!!?」


 今度叫んだのは俺ではなくエルミカの方だった。

 笛をおもいっきり鳴らしたような甲高い叫び声が数秒響き、その後口をパクパクとさせてエルミカは驚きを隠し切れずにいたようだ。

 まぁそりゃあお兄ちゃんが実はお姉ちゃんでした、なんて驚かない奴の方が少ないだろう。ってかいないそんな奴。


「どっ、どどどっどドユコトなのデス?」


「この文字、読めるかな。これ、日本では『女』を意味するものなんだ」


「そっ、そそそそっそんな! これは何かの間違いデス! きっと政府のランボーなのデス!」


「それを言うなら陰謀だな……けど」


 間違いという可能性は無きにしも非ずと言った所か。如何に"SMM"が超高性能診察機械とは言えども、100%間違わないなんてことはあり得るか? いや、ない。

 "日本一のアイドル"である俺ですらも練習ではミスることがあるのだから、"SMM"だってミスる時もあるだろう。【男】と表示されるべき部分を【女】と表示してしまった、なんて珍しくもないことなのかもしれない。


 そう考えると、俺はどんどんと冷静さを取り戻していった。

 顎が外れるくらいまで叫ぶ必要なんてなかったんだ。若干損したような気持ちが湧いて来たけど、まぁ深追いはしないでおこう。


「とりあえず、エデンの性別の話は置いといてどんな症状なのかを見ていこうか」


「そっ、そそそそうデスね!」


 まだ衝撃が抜けきっていないのか、エルミカはまだ狼狽えている。ここから知ることになるのはエデンの症状の具体的な中身だから、もしも重症だった場合驚きのあまり気を失うんじゃないか……。

 そんな不安が頭を過りつつ、俺はエルミカにも内容が伝わるように再び文面を声に出して読み上げた。


「【スリーサイズ B92 W57 H87】……」


 画面をスクロールさせ、次に下から見えて来た文字。そこで俺は再び詰まった。

 胸に関しては、清蘭きよらの時よりも10cmも大きな数値をエデンは叩き出している。 

 ほ、ほほぉ……。も、もしもだが……仮にエデンが女だとしたら、かなりイイ身体つきをしているな……。"アルティメットシカゴフットワーク"をしている時も、その巨峰が遠慮なしに揺れまくっていたことだろう。

 そんな邪念が頭の隅……というかほぼ全体に波及してしまうが、しっかりと読み進めねば。止まっていた口を動かす。鼻の下は伸びないでくれ。


「【体温36.5℃ 1分間の心拍数58 状態は至って健康 正常です】……あれ?」


 正常、だと? 一体どういうことだ……?


「エルミカちゃん、エデンは健康らしいぞ……?」


「そ、そんな! だって確かにお兄ちゃんは胸が苦しいって言ってたんデス!」


「そうだよな……」


 必死の剣幕で叫ぶエルミカを見る限り、とても嘘をついているとは思えない。

 となれば、やはり"SMM"の調子がどこか悪いのだろうか? エデンを女と表示したかと思えば、何故かスリーサイズまでも無駄に教えてくれるし、胸の苦しさを訴えているのに異常なしと診断したり……どこが高性能なんだこのポンコツめ。

 悪態と共に蹴りをくれそうになるも、俺は思い留まる。ある可能性が頭に浮かんだから。


「もしかしたら、服が邪魔でちゃんと診断出来なかったのかもしれない」


「服……デスか?」


「あぁ。精密機械な分、ちょっとしたことでエラーを起こしてるのかもしれない。だから一度エデンの服を脱がせてみて、診断させてみよう」


「そっ、それはっ……ちょっとっ……!」


「ん? どうしたんだエルミカちゃん?」


「いやっ……あのっ……そのっ……」


「大丈夫だよ。エデンの裸を見たことに関して誰にも言わないからさ。任せてくれ」


 如何に同姓と言えども、知り合って間もない奴に服を脱がされて裸を見られるってのはそんなに気分の良いことじゃない。エルミカはきっとエデンが気を外するかもと思って俺に物申そうとしたのだろう。

 だが今は手段は選んじゃいられない。エデンの命が第一だ。俺も野郎の裸など記憶に留めたくはないし、手早く済ませて助けてあげないと。


「よいしょっと……」

 

 まだあわわわとしているエルミカを尻目に、俺はエデンを"SMM"の中から出すと制服のボタンから取り外し始める。ブレザータイプなのでボタンは少なく、すぐに全部を外すことが出来たのだが……。


「ん?」


 次に見えて来たのはカッターシャツ……ではなく、学園指定のセーターだった。春になってとっくに暖かくなっているはずなのに、今でもこれを着込んでいる生徒というのは珍しい。寒がりなのか?

 少し苦労したものの、これを脱がせてようやく白色が見えてくる……かと思ったのに、またもセーターが現れた。どうやらエデンはかなりの寒がりらしい。流石にちょっと面倒だ……。


 しかしすぐさま気持ちを切り替えて、俺は2枚目のセーターを脱がせていく。さーてようやくカッターとご対面……のはずだったのに、"二度あることは三度ある"だ。3枚目のセーターもエデンは着込んでいた。


「うおおぉおおおぉおおっ!?」


 流石にちょっとイラッと来たので、俺は半ば素早くそして強引に3枚目を脱がせる。その際、バランスを崩してしまって、エデンに覆い被さる形で倒れ込んでしまっていた。

 ようやく白のカッターシャツが姿を現したというのに何をやってるんだ俺は……! こういう時こそ冷静にならねば──


「……ん?」


 身体を起こした俺が目にしたのは、確かに白のカッターシャツだった。

 ただ、何だか妙に……胸の辺りに厚み(・・・・・・・)がありすぎる(・・・・・・)。それ以外では細くさえも感じる身体の中で、胸の部分だけが不自然に盛り上がっているというか……。

 ……。…………。………………。

 何だか、嫌な予感がする。俺の危険を告げる本能が「このカッターシャツを脱がせるな!」と全力でアラートを鳴らしているのが余裕で分かる。


 だが、それでも……。エデンの病状を明らかにする為に、このカッターシャツは脱がせなければならない。きっと、大胸筋を重点的に鍛えすぎたんだエレンは。そうに違いない。

 俺はそうして無理やりに自分を納得させると、カッターシャツのボタンを1個1個丁寧に外していき……。初めて肌色の部分を目にする。

 まるで女の子のような丸みを帯びる肩周り。

 艶めかしささえも覚える腰つきにへそ。

 そして……胸の辺りにあったのは、鍛え抜かれた大胸筋。


 ──などではなく、可愛らしい桃色の下着に支えられている見事な2つの山だった。


「か……かか……!」


 叫びはしなかったものの、俺の顎は再び外れた。

 100万歩、いや何千何億歩譲ろうとも、あれは大胸筋などではない。見事なまでに丸い形を描いているあれが大胸筋などと言うのであれば生物学が根底から覆されるだろう。

 苦しそうなエデンの呼吸に合わせ上下する双丘に、俺は思わず生唾を飲みこむ。官能的、煽情的、そう表現するしかない2つの山の地殻変動に俺の目は吸いこまれっぱなしで。

 そのせいで、気がつかなかった。


「はぁ……はぁ……ふぅ……落ち着いた……。ありがとう、エルミカ。の為に……あっ」


「あっ」


 エデンがすっかりと、意識を取り戻していたことに。


「──きゃぁあぁああぁああぁあああぁああっっ!!」


「ぶげほがあぁああぁああぁああぁああああっっ!!」


 女の子らしい、というかまさに女の子。

 そんな悲鳴をあげたエデンに、俺は盛大に手痛い一撃を喰らっていたのだった。



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