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保健室にて色々と。


「……あった、保健室!」


 清蘭きよらをお姫様抱っこしたまま校内を疾走していた俺は、ようやくお目当ての場所に辿り着いた。

 思わず声を出してしまったけど、ここに来るまで多くの好奇の目に向けられたことを考えれば恥ずかしさなんて微塵も感じなかった。

 

「すみません! 急患が……っ」


 走って来た勢いそのままに扉を開けて駆け込むも、中には保健の先生も含め誰もいなかった。くそっ、こんな時に……!

 顔が真っ赤になるほどの原因不明の高熱、3月14日に初めて清蘭がこうなっちまった時にもっと気をつけておくべきだった。俺が病院に行くように促してさえいれば、対処法も分かったのに……。

 そんな後悔の念が湧きつつも、俺はすぐに首を振って気持ちを切り替える。


「大丈夫、その為の……保健室ここだろ!」


 俺は自分にそう言い聞かせると、清蘭をとあるベッドに運ぶ。

 それはベッドとは名ばかりの超高性能診察用機器、通称"スーパー()メディカル()マシーン()"と呼ばれるものだった。見た目はただのベッドだが、そこに診察させたい患者を寝かせて付属しているボタンをポチっとな。するとアラ不思議。


「おぉ……相変わらずスゲーな」


 感嘆の声を漏らした俺が見ているのは、ベッドの周辺の床が割れたかと思えば、そこから這い出てきた卵形の医療用カプセルだった。中心はちょうどベッドがすっぽりと入るようになっていて、清蘭を乗せたそれはしっかりと包み込まれた。


【診察を開始しますか? (はい) (いいえ)】


 画面に表示されたメニューに、俺は「もちろんだ」と言うと(はい)をタッチする。赤外線、CTスキャン、レントゲン、ありとあらゆる機能で清蘭の全身が調べられていく。

 この"SMM"の利点は病院での診察よりも早く、そして病院以上のクオリティで診察が出来る所にある。診察待ちの名医が診断したかのような結果がすぐに知れるというのは非常に有用だ。

 どうしてそんな超ハイテク機器がウチにあるんだろう……そんな疑問が頭の隅に浮かんだ所で、"SMM"の画面に【診察完了】の文字が表示されていた。


「えっと……【3年A組 出席番号1番 甘粕あまかす清蘭きよら 性別 女 身長157cm 体重44kg】……これはあいつの基本情報だな。相変わらず44kgか……シンデレラ体重ってやつだな。どうやって体型キープしてやがんだこいつ」


 清蘭のプライベートな情報にコメントしつつ、画面を指でスクロールさせ俺は読み進める。重要なのはそこではなく、もちろん今の清蘭の容態だ。

 早くそこを知りたいのだが……これを作った開発者が律儀なのか変態なのか、次に目に入った情報に俺は固まった。


「【スリーサイズ B82 W56 H83】……」


 どうしてスリーサイズなんかを乗せる必要があるのか。超高性能故の機能なのか開発者が変態なのか、いや変態だろこれは。

 しかし服の上からだと分からなかったけど、案外胸あるんだな清蘭……。中学生までは貧乳でよくからかってたりもしたけど、徐々に"女"になってるんだな……何だか感慨深いものがあるな。

 って何考えてんだ俺は。余計な邪念は捨てて、早く清蘭の容態を……。


「あった、これだ」


 ようやく知りたかった情報が載せられていた。普通順番が逆だろ……と、そんな文句は胸の奥にしまい、俺は文面を口に出す。


「【体温38.7℃ 1分間の心拍数126 アドレナリン、ドーパミン、エンドルフィンの過剰分泌が見受けられます】……か。やっぱり何かの病気だ清蘭は! 原因は何なんだよ!?」


 俺はさらに画面をスクロールさせ、清蘭の高熱の原因を探ったが……。


「なん……だと……!?」

 

 最後に表示されていた文章は、まさかの【原因不明 該当する病無し】。超高性能のはずの"SMM"も、どうやらお手上げのようだった。


「クソッ! こんなのどうすればッ……!」


 苛立ちのあまり、俺は隣のベッドに拳を振るっていた。

 確かに清蘭はカスみたいな性格だし、今朝もこれまでもコイツの傍若無人で自己中で横暴極まりない言動には振り回されっぱなしだった。

 それでも……コイツはたった1人の俺の幼馴染だ。俺が"日本一のアイドル"としてではなく、"ただの九頭竜くずりゅう倫人りんと"として接することの出来る数少ない存在なんだ。それに……


「まだ……だからな」


 俺はまだ、アイドルとして輝く清蘭の姿を見ていない。

 『覚悟しなさい! あたしはこれから──アイドルになるわ!!』って、あの日お前は根拠も何もねえのに自信満々な顔をして言ってたよな。

 ……見たいんだよ。俺は。

 どんな時でも、自信に満ち溢れてて。

 どんな時でも、誰の言葉にも惑わされずに。

 いつも自分の道を自分で決めて突き進んで来たお前が、どんなアイドルになるのかを。


「……待ってろ。必ず治してやる。"日本一のアイドル"に、いや俺自身の魂に賭けて……!」


 俺は拳をグッと握り締めると、決意の表情を浮かべた。

 火照った清蘭の顔を今一度見つめるた後に、保健室を出て──

 

「ふぎゃあっ!?」


「おぐっふっ!?」


 ……行こうとした矢先に、誰かとぶつかってしまった。割と強烈に、しかも……衝撃と共に激しく痛みが生じたのは、俺の大事な部分(・・・・・)だった。

 もう頭の中からは先ほどの決意など容易く消え去り、あるのは己の将来への不安だった。子を成せないようになったらどうしよう……と両手でまさぐってみたが、どうやら無事みたいだ。激痛の最中で俺は安堵した。


「あいたたた……す、すみませんデス……」


「い、いや……俺……の方こそすみません……」


 危ない、痛みのあまり色々と注意力が頭から吹っ飛んでるな……。ハッキリ"俺"と言ってしまった。すぐに言い直したけど、相手が訝しがってなければ良いんだけど。ってか相手のことも心配しないと。

 ()は涙が溢れまくってる視界を拭い、あちらの方を確認する。こっちがこんなに痛い目に遭っているのだから、あちらも相当痛いに違いな──


「ハフッ……」


 次の瞬間、僕はそんな間抜けな声を上げていた。

 ぶつかってしまった相手はまさかまさかの人物で……その上2人組(・・・)だった。

 1人は床に倒れたままぴくりとも動かないが、寝顔からもイケメン度が分かる男子生徒──エデン・エクスカリス君で。

 もう1人はぺたんと尻もちをついて、おでこの辺りを両手で押さえて痛がっている女子生徒──エルミカ・エクスカリスちゃんだった。

 

「だ、大丈夫デスか……? お怪我はありませんデスか……?」


「あ、あぁうん……僕は大丈夫だよ……」


「あぁ、良かったデス……。もしもワタシのせいでお怪我なんてしちゃってたらどうしようと思ったデス……」


 うひょおぉおぉおぅ……なんつーマジ天使……! ぶつかったのに自分じゃなく相手の心配をするなんて、なんて良い子なんだ……! ただエルミカちゃんも涙目になるくらい痛がってるし、罪悪感で胸が痛い……!

 ん? っていうかおでこの辺りを痛がってるよね? っていうことは、僕のアレとエルミカちゃんの顔が……いや、今は考えないでおこう。そんなことより、エルミカちゃんの用事を聞かないと。


「エルミカちゃ……エクスカリスさんはどうしたの?」


「あっ、そうでしたデス! お兄ちゃんが、胸が苦しいって倒れたのデス!」


「な、なんだって!?」


「ワタシ、保健室に身体のこと調べてくれる凄い機械があるって聞きましたデス! デスので、お兄ちゃんを背負って急いでやってきたデス!」


「わ、分かった! すぐに準備するよ!」

 

 清蘭が倒れたと思ったら今度はエデンもかよ! 落ち着いて"ガチ陰キャ()"モードしてる場合じゃない、ともかくエデンも"SMM"で診察して貰わないと。

 清蘭がまだ中に入ってはいるが、四の五の言ってはいられない。原因不明である以上は、このまま"SMM"に入れていても意味はあまりないし……。


「ん?」


 焦りに染まっていた俺の顔は一転、きょとんとしたものになる。

 先ほどまで茹でダコのように真っ赤に染まっていた清蘭の顔は普通の肌色に戻っていて、しかも苦しそうだった呼吸も今は穏やかで、何なら気持ち良さそうに快眠してるくらいだ。

 ディスプレイに目を移すと【状態は至って健康 正常です】とそんな文字が書かれていて……。俺のさっきの心配と決意を返して欲しくなった。とりあえず清蘭を"SMM"から出してそこら辺のベッドに放り投げると、俺はエデンをエルミカの代わりに運んだ。

 へぇ……。案外軽いんだなエデン。それに触った感じもそんなに筋肉がついていない。まぁだからこそ体力不足とか技術不足っていう弱点があるんだけれども……まぁそれは置いといて。


「これで良し……と。少ししたら結果が出るよ」


「ハイ……おとなしくここで待つデス」


 "SMM"に後を託し、エルミカを安心させる為に俺は話しかけた。とは言え、やはり兄が心配なのだろう、不安の色は顔から消えてはいなかった。


「胸が苦しいって言ってたけど、エデン君は何か持病があるのか?」


「じびょー……?」


「あぁごめんね、子どもの時から抱えてる病気のことだよ」


「それならば、ワタシの記憶にはございませんデス。お兄ちゃんは滅多に風邪も引かないぐらいのご健康でしたデスから。さっきお昼ご飯を一緒に食べてて、急に胸を押さえて苦しい苦しいって言い始めたんデス……」


「そっか……」


 話を聞く限り、もしかすると清蘭と同じ症状なのかもしれない。清蘭も病気どころか馬鹿のくせに風邪とは一切無縁の超健康児だったけど、あぁなってしまったし。エデンもよく見れば顔も真っ赤で苦しそうにしてたし……。


「まぁ、ともかく今は"SSM"の結果を待つしかない。何か詳しい病名が分かれば、それはそれで専門の病院に連絡するとか対処が出来るし、大丈夫だよ安心して」


「ハイ……ありがとうございますデス」


 あ、涙ぐんでるからってついその場の流れでエルミカの頭を撫でてしまった。これ誰かに見られてたら病院に連絡するその前にまず俺が警察に連絡されるな……。

 と、一抹の不安を抱いていた所で、【診察完了】の文字が表示される。さて、読んでいくと行くとしようか。身長の関係でエルミカは見られないし、俺が内容をしっかりと口にして伝えるとしよう。


「診察が終わったみたいだよ」


「そうなのデスか!? お兄ちゃんはどうなんデスか!?」


「待って、今読むから。えーっと【1年D組 出席番号5番 エデン・エクスカリス 性別 女 身長162cm 体重47kg】……ん?」


 文面を落ち着いて読んでいた俺だったが、どこかに引っかかる部分があった気がする。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を軽く読み流したような気が……。

 念の為、同じ文をもう一度読むことにしよう。今度は読み間違えることのないようにさらに慎重且つしっかりと、で。


「【1年D組 


 出席番号5番 


 エデン・エクスカリス 


 性別 女 


 身長162cm 体重47kg】」


 ……。


 性別 女


 女


 女


 女……。





「──女あぁああぁああぁああぁあああああああっっっ!!!??」




 衝撃のあまり、顎が外れてしまうほど俺は叫んでいた。





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