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突然の対決!? エクスカリス兄妹!!③


「くっ、離せっ!」


 乱暴に手を振り解くとエデンは距離を取る。顔には明らかに狼狽と驚愕が貼りつけられていて、どうやらこちらの変化を本能的に感じ取ったようだ。

 "ガチ陰キャ()"から"日本一のアイドル()"九頭竜くずりゅう倫人りんとに、それを知らせた訳ではないのに、警戒して距離を取ったのは大した奴だ。だが……。


「もう一度言ってやる。まだまだ未熟だよ、お前は」


「ハァ……ハァ……何?」


「"アルティメットシカゴフットワーク"をその歳で使えるとは大したもんだ。けどな……お前は『使えてる』だけで、『使いこなせている』訳じゃねえ。そんなんじゃ、4傑の荒井あらいは倒せない。断言する」


 先ほど抱いた感想を、俺は再び口にする。

 告げた言葉は全て正直なものだ。嘘は一つとしてない。

 ……まぁ、それが嘘かどうかは、あちらにとってはどうでも良くて。


「ハァ……ハァ……取り消せよ、今の言葉ぁぁぁああぁあああっ!!」


 真実だろうがそうじゃなかろうが、激昂に値する挑発だったのだから。激怒の叫びを張り上げながら、エデンは今一度"アルティメットシカゴフットワーク"を披露する。

 先ほどと同じように足音だけが周囲に響きながら、その姿は目には映らなかった。トドメの一撃が止められたのもまぐれ……そんな風に思っているのかもしれない。


「……仕方ねえ。実践で教えてやる」


 俺は溜息を1つ吐く。

 それに込められたのは、エデンに対する呆れの意と。

 ──もう1つ、今から訪れるであろう疲労への覚悟であった。


「っ……!!?」


 次の瞬間、俺の瞳はハッキリとエデンの顔を捉えていた。こちらを見て、これまでの中で一番の驚きの表情を作っているエデンの顔が。

 これまで姿を一切見ることも叶わなかったエデンのイケメンフェイス。それが見えるようになったのは……


「よぉ、随分とのんびりしてやがんな」


 俺もまた──"アルティメットシカゴフットワーク"を行っていたからだ。


「貴様っ……ハアッ……何故っ……!?」


「何故もこうも出来ることをやってるだけだ俺は」


「ぐっ……ハアッ……貴様のようなっ……醜悪な輩がっ……ハアッ……!」


 超高速で動きながらも普段と変わらないように話す俺。しかし、エデンの方はとっくに余裕などなく、喋るのもままならないほど忙しなく酸素を取り込んでいた。

 体力の限界は近い。そう悟ったからなのか、


「はああぁあああぁああっ!!」


 睨み合いが続いていた中、エデンは俺に仕掛けてきた。まず足の自由を奪おうと思ったのか、横から刈るような形のローキックを繰り出して来た。


「おっと」


 それを俺は難なく躱す。"アルティメットシカゴフットワーク"を乱すことなく、流れの中で軽く足をひょいと上げるだけで。


「うおおぉぉぉおぉおぉぉぉおっっ!!」


 後に二の矢が飛んでくる。回転の遠心力を利用した側頭部(テンプル)狙いの裏拳。


「よっと」


 が、それも俺は余裕で回避。今度は柔軟性を見せつけるかのように身体を反らし、リンボーダンスのような要領で裏拳が視界を通り過ぎていくのを見送った。


「だあぁああぁあああぁあああぁあああぁあああっっっ!!」


「──!」


 三の矢は大技、跳躍からの踵落とし。

 しかし、二度あることは三度あるというもんだ。その大技ですらも、俺は躱していた。大技には大技を、といった具合で華麗なバク宙を決めるという方法で。

 地面に足をつけたその時、俺はもう"アルティメットシカゴフットワーク"のステップを刻まなかった。体力的に厳しくなったから……ではなく。


「ハアッ……ハアッ……ハアッ……!」


 エデンの方が既に限界だったからだ。

 必死に呼吸するエデンを見下ろしながら俺は問いかける。


「なんだ、もう限界か?」


「ハアッ……ハアッ……クソッ……!!」


「気持ちがまだ途切れてないのは分かった。そんじゃ3回目、"まだまだ未熟だよ、お前は"」


 3回目となるその言葉に、悔しさを如実に表して歯をグッと食いしばっていたエデン。しかし、素の後にガックリと項垂れると「……俺の……どこか未熟なんだ……?」と掠れた声で尋ねて来た。やっとこさこのじゃじゃ馬(ルーキー)は話を聞く気になったようだ。

 それならば、俺は学園の先輩として。そして、芸能界の先輩としてアドバイスをしようと口を開く。


「お前の未熟な部分は主に3つだ。まずは……まぁ俺が言わなくてもお前自身が一番分かってるだろうが"体力不足"だな」


「ハァ……体力不足……ハァ……」


「確かに"アルティメットシカゴフットワーク"はかなり体力を使う技術だ。だが、世界に名だたるトップダンサー達は、パフォーマンスをする中でこれを幾度も披露し続けている。今までの俺達の攻防はほんの1、2分くらいだったが、彼らはこれを通算で30分は容易に行うことが出来るからな。如何に体力不足なのかが分かるだろ」


「ハァ……ハァ……ハァ……」


「2つ目に、さっきも言ったがお前は"アルティメットシカゴフットワーク"を『使えてる』だけに過ぎない。俺が言った『使いこなす』っていうのは、完全に自分のものにするってことだ」


「ハァ……どうすれば……ハァ……『使いこなす』になる……?」


「お前、最初に"アルティメットシカゴフットワーク"を披露した時に、中々俺に攻撃してこなかったろ。あれは様子を伺ってたか余裕を見せつけていたのかと俺は思ったんだが、実はそうじゃない。お前は超高速の動きの反動で自分の身体が言うことを聞かなかった。だから身体が慣れるまでに待たなきゃいけなくて、それからようやく攻撃に転じたって訳だろ?」


「ハァ……ハァ……あぁ……」


「ま、攻撃したその頃にはさっき言ってたように体力不足のせいでもう碌に動ける時間も残ってなかったんだけどな。……じゃあ最後に3つ目。正直言うと、俺はこれがお前の一番未熟な部分だと確信してるぞ、エデン」


「っ……?」


「最後にお前が俺に向かって放った踵落とし。あれは狙いが全くついていなくて避けるまでもねえ代物だった。だが、俺はバク宙なんかするぐらい大仰に避けた。何故だか分かるか?」


「ハァ……ハァ……知らぬ……強いて言えば……ハァ……格の違いとやらを知らしめたかったのか……?」


「違う。馬鹿かお前は」


「馬鹿っ……!?」


「良いか、"エデン・エクスカリス"。お前が何を目指してるのか知らねえが、芸能人になる上で、いや人として成長していくにあたって、大事なことを教えといてやるよ」


 怒りすらも含んだ声と瞳を向けて、俺はエデンに告げる。


「目の前ばかり見てんじゃねえ。周りのことを、忘れるな」


 そう言うと俺は身体に捕まっていたエルミカをそっと引き離し、エデンの目の前に差し出しす。

 あれだけの超高速バトルを繰り広げたというのに、今でもすやすやとマジ天使な寝顔を浮かべたまま眠っていた。


「……エルミカ……っ!」


 それを見て、ようやくエデンも分かったらしい。

 あの時の踵落とし。あれを俺が避けなければ、()()()()()()()()()()()ということに。

 呆然としつつも受け取る意志を見せたエデンに、俺はエルミカを手渡した。幼女をお姫様抱っこしながら渡すなんて人生初だったけど……それはそうとして。


「体力不足に修練不足、そして周囲への気遣いを忘れない。それをまず克服していけ。4傑を倒すとか清蘭きよらを倒すとか、そんなことをほざくのはそれからだ──坊主」


 エデンに最後にそう告げると、俺はその場を後にした。

 やはり、授業というのはなるべくサボらないようにしよう。そう思えたエデンとエルミカとの出会いだった。



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