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突然の対決!? エクスカリス兄妹!!①


 一旦、状況を落ち着いて整理してみよう。

 まず現在時刻、4月7日火曜日午前10時26分。

 続いて天気、雲一つない春の陽気を堪能出来る快晴。

 続いて今いる場所、授業中は誰も来ないであろう秀麗樹しゅうれいじゅ学園の自然エリア。

 最後に今の状況、暖かな日差しを浴びて眠り、起きたら幼女が覆い被さっていた。

 ……よし、俺は混乱していない。正確に現況を把握出来ているな。


「──いや明らかに最後おかしいだろ!!」


 少し間を置いて、俺は高らかに叫んだ。

 状況を把握出来ていたとしても、最後の項目だけがありえなさすぎる。アイエエエ!? ヨウジョ!? ヨウジョナンデ!? 

 リアルヨウジョショックを起こして意識が飛んでる……場合じゃない! 目下一番の問題から目を反らしてはならない。俺は再び目を彼女の方に向ける。


「おごっ……」


 その声は、口から自然と零れてしまっていた。

 状況に混乱し切りだったので気づかなかったが、俺の身体に乗っかって眠っている幼女は可愛さ120%と言わんばかりのえげつない可愛さだった。すやすやと微笑みを浮かべたまま眠るその様に庇護欲を掻きたてられずにはいられず、思わず彼女の頭を撫でようと腕が伸びる。


「って、ダメだろォ!」


 しかし、彼女の空のような水色の髪に触れる直前で俺は叫ぶと同時に両手を地面に叩きつけた。ギリギリ自制心を働かせていないとヤバかった……。

 馬鹿か俺よ! シロさんの時から学習してねえのかお前は!? シロさんの時は胸でヤバかったけど、今回は別の意味でヤバいんだぞ! 幼女に触れるって、もう字面だけでヤバいだろうが! どこかで聞いたが、"Yesロリータ、Noタッチ!"の精神を今は貫かないと、シロさんの時も死ぬ気で守った社会的地位を即失うことになるぞ!


「……ふぅ」


 一度深呼吸をすると、それだけで俺はかなり落ち着いた。どうやら俺にそっちの趣味(・・・・・・)はなかったらしい。シロさんの時のように限界寸前に陥ることもなく、ホッと安堵の溜息を漏らした。

 とは言え、この幼女を視界に入れすぎると危ないことに変わりはない。この引き寄せられるような魔力、清蘭きよら能登鷹のとたかさん、そしてシロさんといった俺の心に深く刻み込まれている3人に比肩するほどのものだ。

 となれば触らぬ神、もとい幼女に祟りなし。物理的な距離を広げて離れよう。これまでの驚きのおかげで身体も目覚めたし、とりあえずこの子を起こさないようにしつつ立ち上がるか……。


「……なんで?」


 立ち上がった俺だが、状況にあまり進展がないことに疑問符を浮かべた。

 というのも、立ち上がったはずなのに幼女は俺の上半身にべったりとくっついたままだ。あれれ~おかしいな……? と、不思議に思っていたが、よくよく見れば小さなお手々で俺の制服をしっかり掴んで抱きついていた。

 これは困った……無理に引き離せば起きるかもしれないし、制服だけ脱いでトンズラしようにもこんな風に抱きつかれていたら脱ぐことすら出来ない。かと言ってこのまま放置していたらいずれ起きるかもしれないし……何この八方塞がり?


「ふみゃあ~……」


「はぁ……俺の苦労も知らずにこの子は気持ち良さそうに眠ってるし……良いねえ子どもは悩みがなくて……」


 再び寝息を漏らした幼女に、つい俺はオッサンのように愚痴を零していた。年かもしれない。

 仕方ない。このまま妙案を思い浮かぶまではこのままでいよう。なるべくこの子の方は見ずに、瞳を閉じて精神集中だ。大丈夫、俺は"日本一のアイドル"の九頭竜くずりゅう倫人りんとだ。如何にマジ天使な幼女に抱きつかれ、すやすやと可愛らし過ぎる寝顔を無防備に晒されていようと俺の集中力を持ってすれば──!


「ふみゅふみゅ……」


「うへへへへへ……」


 などと、その気になっていた俺の姿は最高にお笑いでございました。

 俺の瞑想はものの10秒ほどで終わりを告げ、今ではもうこの子の健やかな寝顔の前にすっかりと篭絡されてしまっていた。

 いや、だってさ、しょうがないだろ。"可愛いは正義"なんだよ。こんなマジ天使で可愛すぎる寝顔、見惚れなきゃ逆に失礼ってモンだ。数々の子役やロリ系で売り出してるアイドルを見て来たけど、この子ほどマジでエンジェルしてるのは見たことがない。もしもそういう系統で売り出せば、瞬く間にトップに躍り出るだろう。


「おね……お兄ちゃん……」


 と、未来予想図を描いていたら追加の寝言だ。うひょああぁかわええ~……。こんな妹がいたら強くなれる理由を知れるわ……。


「ん、妹……?」


 デレデレしきりの俺だったが、ふとあることに気がつく。

 現在進行形で俺に抱きついている、マジ天使なこの幼女。この子に見覚えがあって……。


「あ、そっか。この子……"エルミカ・エクスカリス"ちゃんか」


 と、間もなく俺は答えを導き出した。

 空から落ちて来たのではなく、この幼女はれっきとしたウチの生徒だったか。顔ばかりに見惚れてたけど、冷静になって見るとちゃんと制服着てるし。

 唯一違うのは……髪型くらいか。入学式の時に見たのはツーサイドアップだったけど、今は片方は結んでもう片方は結んでいないという、なんというか物凄く中途半端な状態になっている。ワンサイドアップにしているのだろうか? いや、髪の束ね方からしてツーサイドアップの途中だったと見た方が正しいだろう。ともかく、この幼女はエルミカちゃんだと今更ながらに俺は理解した。


「あっ……」


 それと同時に、顔から血の気が引いていった。

 この状態を誰かに見られたら、非常にマズい。先ほどの清蘭きよらの件があって、まだ俺を探しているかもしれないあいつらのこともあるが……。

 それ以上に見つかるとヤバいのは間違いなくこの子の兄、エデン・エクスカリスの方だろう。

 新入生代表スピーチの時に何の恥ずかし気もなくエルミカちゃんをお姫様抱っこしたりする辺り、2人は深い絆で結ばれていると見て良いだろう。というか完全にシスターをコンプレックスしてそうな顔つきだったし、もしも見つかったら俺は血祭りにされそうな気しかしない──

 

「──おい、貴様」


 ……。

 いや、違う。今のは聞き間違いだ。

 その風貌からエデン君はほぼ100%「おい、貴様」とか言いそうな感じだけど、今のは違う。そう、俺の強烈な被害妄想が脳に作用し、生み出した幻聴に違いない。


「おい、聞こえているのか。そこの貴様」


 ……はい。聞こえてますおりますとも。

 でもこれは幻聴だ。"ガチ陰キャ"特有のクソデカ独り言なんだ。だが如何に俺……いや"ガチ陰キャ()"と言えども、独り言でキャッチボールはハイレベル過ぎてちょっとな……イマジナリーフレンドを作るようになったら、なんというかもう真人間には戻れなさそうな気がするから……。


「……三度目だ。聞こえているのか、と尋ねているのだ、そこの貴様」


 そうですね。三度目ですね。仏の顔も三度までって言うからね。

 だがすまんイマジナリーフレンド仏君。今ここで答えたら、俺は現実と向き合わなくちゃいけなくなる。となると、もう分かってるんだよ。10秒後くらいには戦闘パートが始まっちゃうのが。それだけは駄目だ。そもそも校則で乱暴沙汰は駄目だし、法律でも決闘罪は立派な罪だし、そんなことしちゃうと俺の人生詰みだし、だからここは引き下がってくれ仏君──


「ッ──!?」

 

 頑なに後ろを振り向こうとはしなかった俺だったが、その時ばかりは振り向かざるを得なかった。


「……問答は……終わりだ。我が妹から離れろ……下賤の輩め」


 髪の色と同じ紅蓮の炎のような紅を瞳に宿して。

 全身から怒りを迸らせて殺意すらも放つイケメン──エデン・エクスカリスに。


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