スクールカーストの頂点・甘粕清蘭VSスクールカーストの最底辺・九頭竜倫人
「「レッディィィィィスアァァァンドジェントルマァァァァァン!! 盛り上がっているかああああああああーーーっっっ!!」」
声優志望の男子生徒と女子生徒、そんな2人が務める司会者の声と、それを上回る爆音のような歓声が響き渡る。
放課後に行われる部活も今日ばかりは全て中止になり、全校生徒の全員がここ第一アリーナに集まっている。普段は文化祭など特別なイベントでしか使われないこの場所に、全校生徒2000人がいるのは異例の事態だった。
「いやー凄い熱気ですねぇ!」
「本当ですねー! これは先月に行われた【アポカリプス】のライブ並なのでは?」
「それはないな、うん」
「急に素に戻らないでよ!? ……んっんー! では茶番もさておき、本日の主役お2人に登場して頂きましょう!」
小気味の良い司会者トークが展開された後、アリーナ内の電灯は一斉に落とされ闇に包まれる。
ざわざわと少し沈黙の一歩手前の雰囲気の中──主役は登場した。
「まずはこの御方だぁあああああっ!! 女優、モデル、アイドルetc……芸能界を目指す幾人もの美少女生徒を神に愛されたナチュラルボーンな可憐さで粉砕ッ!! 数多の男子の告白を受けるも"あたしに相応しくない"と無慈悲な一蹴、挙句の果てには不細工扱いで玉砕ッ!! しかし全て許されるッ!! 何故かって? あなた様は可愛いからだッ!! 世界一の美貌を持つ秀麗樹学園の誰もが羨む圧倒的美貌を持つアルティメットスーパー超絶美少女に大喝采をッッッ‼‼ 甘粕ゥゥゥゥゥ清蘭様ァァァァァァァァァァ!!!!」
ちょっと仰々し過ぎる紹介だな……。
そんな俺の感想などもちろん誰も知ることなく、清蘭は皆の前に登場していた。
スポットライト浴びアリーナを揺らすほどの歓声を浴びながらも、ほんの少しも緊張した様子はない。どころか、威風堂々としていて笑顔で皆に応えるのを見ると、まるで芸能界のスターのような落ち着きぶりだ。
中央のステージに伸びる一本道も、清蘭が歩けばさながらレッドカーペットと化す。そんな感じのプロジェクションマッピングで演出がされてるし。左右からは火柱も上がり、ド派手を極めていた。
まだ歓声や賛辞の声も鳴り止まぬ中、本日の主役2人目の紹介が始まる。「チッ」と司会者が舌打ちをしたのは恐らく気のせいじゃない。
「……続きましてはぁ~~~そんな清蘭様と戦うことはおろか、この学校にいることすらもおこがましい男。もう存在自体が七つの大罪に認定されてもいいくらい、とことんクズな男で~~~す。清蘭様と同じ”一般人”でありながらその輝きの差は比べようもない別次元のクズで~~~す。そして最も罪深いのがぁ~~~あの”日本一アイドル”【アポカリプス】のセンターであり、全人類の希望である九頭竜倫人様と全くの同姓同名であること……はぁ、とっととくたばっちまえ。はいクズ野郎、九頭竜倫人で~~~~~す」
やる気がなくなり、代わりに憎悪と敵意を露わにした紹介文を読み上げる司会者。ちょっと温度差ありすぎないか。
そう思っていたのも束の間、司会者の紹介が屁であるかのように俺はえげつないブーイングの嵐に晒される。
「てめえどの面下げてこの場にいやがんだクズがよぉおおおぉおおおっ!!」
「清蘭様と戦える光栄を噛み締めながら無様に惨敗しろクズーーーーっ!!」
「死ねー! 死体をカラスに啄まれろクズ野郎がァァァァァ‼」
「地獄ニ堕チローーーFuck You Son of a bitch!!」
様々な罵詈雑言が僕に飛ばされる。清蘭が登場した時よりも盛り上がってないかこれ。
悪意をぶつけられながら俺もまた一本道を歩く。自身の処刑前にゴルゴダの丘を登ったキリストもこんな気分だったんだろうか。
そうして俺はガタガタと震えながら、身体を時折ビクッとさせてキョドりながら歩いて行く。暴言の嵐の中にそれを嘲笑う声も時折聞こえて来た。
──と、見た感じはガッチガチに緊張している様を俺は演出した。
理由は、少しでも慣れてる感を出してしまって、俺が”日本一のアイドル”の九頭竜倫人だとバレたくはないからだ。俺のファンなら歩き方を見ただけでも分かるかもしれないし。嬉しいやら悲しいやら複雑な気持ちだった。
歩き方だけじゃなく振る舞いの全てから俺らしさを抹消し、ガチ陰キャ感を出さなければならない。石橋を叩いて渡るどころかバズーカで撃ってから渡る位の慎重さがこの場では求められるだろう。
「さてさて、主役の2人が出揃いました! かたや我らが秀麗樹学園でナンバーワンの最高最強の美少女、かたやワーストワンのクズボッチガチ陰キャクズ‼」
「正直勝負なんてする必要あるのか? とも思いましたが、他の誰でもない清蘭様の希望で今回の決闘は実現しました! 感謝しろクズボッチガチ陰キャゴミ虫クズ‼」
「清蘭様との勝負に負けて惨めに退学しやがれクズクソボッチ生きてる価値も意味もないゴミうんこ伝説の超クズーーーっ!!!!」
徐々に付け足していくのやめて貰って良いかな? 周りもその通りと言わんばかりに歓声と罵声で沸いてるし。
しかし、この勝負は絶対に負けられないな。何せ、俺の平穏無事な学園生活の未来がかかっている。清蘭はその気になれば俺を退学させるなんてことも普通に出来るしな。
歓声と罵声、それらが入り混じった大音響をBGMに俺はチラっと横を見る。
清蘭の様子に変化はない。相変わらず歓声に手を振って応える余裕すらある。本当に”一般人”なのかこの女は……。
「それでは皆も待ち切れんって感じなんで、今回の勝負のルールを説明させて貰いましょう!」
おっと、様子を伺ってる場合じゃない。ルール説明はしっかりと聞かないと。
まだ何をするかは分からないけど、ある程度は予想出来る。これは清蘭が”一般人”だからというのもあるが、それ以前に清蘭は俺の幼馴染だ。
”一般人”の清蘭が歌唱力対決とかダンス対決とかをするはずがないし、やったとしてもたかが知れてる。なんせこいつの良い所はマジで顔だけだからな。
歌を歌おうものなら口からボロボロの音符が飛び出すし、ダンスは滅茶苦茶に踊るだけのリズムの破壊者と化す。
要するに、こいつが戦えそうな勝負方法なんてクイズとかその辺くらいだ。だが、仮に歌やダンスが来たとしても俺は勝てる自信がある。自信しかない。この勝負、ハナっから俺の勝利が確約されていると言ってもいい。
心の中で清蘭を鼻で笑いながら、俺は緊張の面持ちを作って勝負の内容に耳を傾けた。
「今回の決闘では、5番勝負を行って貰います!」
ふむふむ、5番勝負か。
「5番勝負の内容はそれぞれ、ダンス、大食い、ラップバトル、演技勝負、そしてモデル勝負となっています!」
……は?
いやちょっと待て。おかしくないか?
大食いはさておき、ダンスに演技にモデルだと……?
おもいっきりアイドルに関りがある内容だ。どういうことだ?
「しかしながら、これは清蘭様とクズの勝負と言えども、そもそもクズが清蘭様と同じ勝負の土俵に立てるだなんておかしいとは思いませんか皆さん!」
え……? ええっ……?
「なので、今回は清蘭様きっての希望で、代理人の方々に参戦して頂きます! それでは拍手で以てお迎えください‼」
いやちょっ、待てぇぇぇ!
もう1から10まで全く理解が追いつかん! どうなってんだ!? 一体何を言ってんだよ司会者ァ!?
当然、キャラ的な問題から俺は指摘など出来るはずもなく。ただオロオロとした演技、というか素の反応を見せるだけで。
──瞬間、後ろでド派手な爆音がした。
振り向けば、噴出した煙と共に、赤、黄、緑、青のスポットライトを当てられた4人の影が見えた。
「オラァァァァァ!! 俺様が参戦だぁあああぁあああッッッ!!」
赤のスポットライトが当たる人物は、姿が見えるや否や学生服を荒々しく取っ払い、鍛え上げられた上半身を惜しげなく魅せる褐色イケメン──2荒井大我
「どうも皆様。しっかりとご期待に応えられるように頑張ります」
青のスポットライトが当たる人物は、荒井とは打って変わって冷静にお辞儀をして挨拶をし、物腰柔らかな甘いマスクを魅せる柔和イケメン──優木尊
「すっげーーー! ライブにも負けない凄い熱気だなーーーっっ!!」
緑のスポットライトが当たる人物は、2人とも異なってまるで子どものように跳んではしゃぎ、キラキラと無邪気な顔を魅せる元気イケメン──武原太郎
「やぁ皆。精一杯頑張るから、見ていてくれると嬉しいな」
紫のスポットライトが当たる人物は、また3人とも被らず控えめな態度が立ち居振る舞いに表れ、謙虚さの滲み出る顔を魅せる菩薩イケメン──雲間東
秀麗樹学園では清蘭に次ぐ 絶大な人気を誇る4人──”4傑”の姿がそこにあった。
まさかの助っ人参戦に、会場は揺れていると錯覚してしまうほどの歓声が反響する。
俺にとっては。
こいつらの登場はあまりにも予想外で、衝撃的過ぎた。
俺は、この4人と5番勝負をしなければならない。
……つくづく、甘粕清蘭という女はカスだ。
俺との対決を望んでおきながら、他人任せにして。
しかも、その道に特化してる奴ばかりを手駒に揃えて。
自分は、一切戦う気がない。
こんのぉぉおおぉおおおカス女がああぁああああぁあああッッッッッ!!!!!
勝利を確信してほくそ笑む清蘭に、俺は心の中でありったけの叫びをぶつけずにはいられなかった。
何せこの4人……荒井大我、優木尊、武原太郎、雲間東は──俺のかけがえのない大切な仲間達
──''日本一のアイドル''である【アポカリプス】のイアラ、鬼優、ShinGen、東雲、本人達なのだから。