ボクの気持ち、ボクの決意。
ボクは大山田白千代。
日本有数の大企業"大山田グループ"を率いるお父さん、大山田黒影の1人娘にして、実質的な後継者。将来は"大山田グループ"肩書きだけで語ればそんな感じ。
じゃあ、ボク自身はどんな人間かを話すと、ちょっと独特になるかも?
まず、ボクがボクのことを言う時は「ボク」を使う。これは、幼い頃からお母さんがいなくて、お父さんに育てられた影響だ。お父さんが「僕」って自分のことを言ってたから、それを真似して「ボク」を使うようになった。今はもう慣れちゃったけど、子どもの頃は周りの子との違いに驚いたこともあった。
だけど、ボクが驚いたのは一人称だけじゃない。それからボクは、自分が"大山田"であるが故に色んな部分が他の人と違うことを知っていくことになる。
それはそうとして、ボクはお父さんが大好きだ。"外"じゃ"大山田グループ"を率いる者として厳格に振る舞いながらも、家庭ではボクを愛してくれている。例えるならデレデレ~っていうくらいに、ボクのことを愛してくれている。
今にして思えば……既にボクが物心ついた頃からいなかった、死んじゃったお母さんの分まで、お父さんはボクを愛してくれていたんだと思う。だからこそ、お父さんは度が過ぎるくらいボクに対して過保護になってしまったんだ。そうして……ボクは鎖に縛られる日々が始まった。
中学生になってから、まず友達と遊ぶのが制限された。
小学生の時のようにボクが遊びに行こうとすると、収入や学力とかその友達の家庭事情に至るまでを調べ上げるようになり、そしていつもお決まりの一言をお父さんは言う──「こいつはお前に相応しくない」と。
今も子どもだけど、もっともっと子どもだったその時のボクは当然納得がいかなかった。お父さんに歯向かって無理やり遊びにいこうとしたけど……でも無駄だった。お父さんの派遣するボディガードの人達がボクを"守った"から。
友達と遊ぶこともなくなり、ボクは徐々に孤独になっていった。それでも、学校生活の中ではまだやり取りが出来るから、ボクはそれを楽しみにして学校に行くようになった。
その中で、ボクも他の子と同じように知ることになる。もしかしたら……これが"恋"かもしれないっていう感情を。
何気なく体育の授業をやってる時。ふと見かけたサッカー部所属の男の子に目を奪われた。カッコいいな~と思いつつ、気づけば日常生活の中でもその男の子を目で追うようになっていた。その子のことを見見る度に、胸がドキドキして顔が熱くなって……変な感じになっていた。
家でもポーッとするようなことが多くなって、病気かと心配したお父さんに病院に連れて行ったこともあるけど……そこから、気づかれた。ボクが"恋"をしているんじゃないかって。
『白千代、もうあの男のことで悩まなくても良いぞ』
ある日、夜ご飯を食べている時にお父さんにそう言われてボクはドキっとした。
誰のことだろう……そんな疑問を挟む必要もないほど、"あの男"が誰なのか分かった。そして……お父さんにそう言われた翌日──ボクの初恋だったかもしれない人は、家庭の事情で転校していった。
その日、ボクは初めて自分の部屋ですすり泣いた。お父さんを初めて、嫌いになりそうだった。友達と遊ぶのも禁止されて、恋が恋になることすら許してくれなくて。
出来ればその日の内に、大山田の家を飛び出てやろうかとさえも思った。でも、お父さんの"力"の前にボクの抵抗は儚いもので、結局四六時中ボディガードの人が見守ってくれていた。
中学生の頃に一度、高校生の頃に一度、大学生の頃に一度。ボクの恋の蕾のような想いは、お父さんによって閉じられていた。そうなってくると、そろそろ諦めもついてくる。ボクは……"恋"を知ることなく、このまま結婚するんだなって。
そんな時に──キミは現れたんだよ、九頭竜倫人君。
ハワイの休暇中。焼けつくような太陽の下に身を晒していても、全く暑いとも感じないくらい冷え切っていたボクの心。それに、キミは熱を灯してくれたんだよ。
でも、それも仕方のなかったことなのかもしれない。だって、あの時キミはボクの胸を揉んでいたのだから。男の人に胸を揉まれる……そんなの初めての経験過ぎて、恥ずかしいとか色んな想いが湧いて来た。それで体温が上がってたのかもしれない、上手く話せなかったしね。
成長するに従って、ボクには別の悩みが生まれていた。
それは、お母さん譲りの大きな胸だ。
中学生の頃はそうでもなかったけど、高校生になるとボクの胸はどんどんと大きくなっていった。人の視線を集めるようになったのは、ボクが"大山田白千代"だからだけじゃなく、確実にこの胸もあると思う。
特に……男の人の目線は感じるようになった。そうなってくると、"そういう目線"にも敏感になる。ボクの身体を舐め回すような、そんな嫌な感じの目線。高校時代に好きになったかもしれない人も、少なからず"そういう目"をしていた。
……でもね……。倫人君、キミはボクの胸を揉むまでしているのに、なるべく"そういう目"をしないようにしていたね。たぶんアイドルの立場もあったからだと思うけど……うぅん、違う。キミは、ボクのことを気遣って、"その気"を起こさないようにしていたんだ。
そんなキミに出会ってから、ボクに再びあの胸のときめきが訪れたんだ。
でも……正直言うと、今回も駄目だろうなって諦めてたんだ。ホワイトデーのあの日にお父さんに見られて、見事な背負い投げを決められて……あぁ、またボクの想いは、鎖されてしまうんだなって。
それをキミは──覆してくれた。
"日本一のアイドル"【アポカリプス】……そのメンバーである"九頭竜倫人"がまさかキミだったなんて、思いもしなかった。
ラジオでボクの悩みを聞いてくれて、その後にShinGen君を通じて連絡を取ってくれて……そこでも、泣いてるボクの話を聞いてくれて。
そして、あのライブで……証明してくれたんだ。倫人君自身がどういう男の人なのか。
変えさせてくれたんだ。ボクも、お父さんも。
ボクがお父さんの想いを知って。
お父さんもボクの想いを知って。
あの日、ボクとお父さんを救ってくれた。倫人君の揺るぎない輝きが、ボク達を照らしてくれた。
それから、ボクのドキドキも止まらなくなった。キミのことを思い浮かべる事に、胸の中からうるさいくらいに音がする。ハワイの日光を浴びている時よりも、身体が熱くなる。
だから……キミに一度フラれたくらいで、ボクは諦めない。お父さんもようやく認めてくれたキミだから──ボクも、諦めない。
その為に、ボクもなるよ。
自分の武器を最大に生かせるものが何なのか、考えたら答えは簡単だった。
お父さんの許可を貰うのも本当に大変だった。1年以内に結果が出せなかったら、潔く止めるっていう約束だってした。
でも必ず、追いついてみせるよ。もう1回、キミに告白して──今度こそ、ちゃんとした"恋"が出来るように。お父さんお母さんみたいに、ラブラブになれるように。
「こんにちは~。先日電話した大山田白千代です~」
そう言ってボクは──881プロの扉を開いた。




