【アポカリプス】10thシングル──『C.C.C.』──①
「ひ˝ゃ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝っ˝っ˝っ˝!!! 倫˝人˝様˝~˝~˝~˝~˝~˝~˝尊˝い˝っ˝っ˝っ˝っ˝!!!!!」
「あ˝は˝は˝は˝は˝は˝は˝は˝は˝は˝鬼˝優˝き˝ゅ˝ん˝がこ˝っ˝ち˝見˝て˝る˝ぅ˝う˝ぅ˝ぅ˝ぅ˝ぅ˝!!!!」
「うぴょぎゃ˝あ˝あ˝あ˝っ˝っ˝イ˝ア˝ラ˝あ˝ぁ˝あ˝あ˝会˝い˝に˝来˝た˝よ˝ん˝ほ˝ぉ˝お˝お˝お˝お˝お˝お˝お˝お˝お˝!!!!」
「S˝h˝i˝n˝G˝e˝n˝ち˝ゃ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝ぁ˝ぁ˝ん˝ん˝ん˝生˝ま˝れ˝て˝来˝て˝く˝れ˝て˝あ˝り˝か˝と˝ぉ˝お˝お˝あ˝あ˝あ˝!!!!」
「東˝雲˝さ˝ぁ˝ぁ˝あ˝あ˝あ˝ん˝ん˝あ˝な˝た˝は˝と˝う˝し˝て˝東˝雲˝さ˝ん˝な˝の˝お˝お˝お˝ぉ˝ぉ˝ぉ˝ぉ˝お˝!!!!」
光の中に現れた5つのシルエット。逆光に目が慣れその正体が分かった瞬間、両国国技館はビリビリと震えるほどの歓声に包まれた。
中央には【アポカリプス】の中心だと疑う余地もない白銀の髪をした男──九頭竜倫人が、不動の佇まいを魅せつける。
その右隣には倫人と対照的な煌びやかな金の髪を優雅に決めた男──鬼優が、これまたいつもと同じような優美な笑みを浮かべている。
左隣には猛々しく燃え盛る炎を彷彿とさせる髪形をさらに派手にした男──イアラが、まるでこれから戦いに挑むような眼力で前方を睨み付けている。
右端にはその緑の髪を若干パーマ気味にしてアレンジした男──ShinGenが、メンバーの中で一番目立つ形で手を振っている。
左端にはいつもと変わらない黒の髪をこれまたいつも通りに仕上げた男──東雲が、飾り気のない素朴な笑みを会場に向けている。
【アポカリプス】……"日本一のアイドル"と称される彼らが、同じ舞台に立つ。普段は学生としてプライベートを隠しているのでこのようにして一堂に集うのも貴重な彼ら。その姿を久々に目の当たりにし、今日ここに集まった選び抜かれた精鋭達は発狂とも言える盛り上がりを見せていた。
しばらく歓声が鳴り響き、【アポカリプス】の皆もそれに応えるような時間の中で
「うっさ!! 何なのこいつら!? 全員スピーカーでも搭載してんの!?」
「うぅ……そういう訳じゃないと思いますけど、でも凄く元気な方達ですね……」
甘粕清蘭と能登鷹音唯瑠のただ2人だけは、苦悶の表情を浮かべていた。もちろん、そんな顔をしていると周囲からは「ノリが悪い」だの「【アポカリプス】の皆を前にしてなんて顔してんの!」とか怒られそうではあるが、ファン達は既に全意識を彼らに向けていて2人のことは一切意にも介していなかった。
「全く、倫人達が出たってだけで大げさだなぁ~。そりゃあ少しは……いや結構倫人格好良いけど、でも何もここまで馬鹿騒ぎするモンなの?」
「まぁ、流石は倫人さん達ってことでしょう。実際、やっぱりこうして見ると何と言いますか、オーラが圧倒的ですね」
「ふーん、オーラねー。まぁあたしもアイドルになればあれくらい訳ないけどね! 倫人達もまだまだ甘いわ!」
謎の上から目線で胸を張る清蘭に「あはは……」と苦笑いをする音唯瑠。しかし、再び【アポカリプス】の皆を見つめるその目は、最初に彼らに向けた時のものとは違ったものとなっていた。
「今回の衣装……凄いですね」
「へ? そーなの?」
「はい。だって……あれじゃ、踊れないですよ……」
いまいちまだ理解出来ていない清蘭に、清蘭は絶句気味に答える。
新曲である『C.C.C.』衣装なのかと目を疑う程、倫人達の纏う衣装は奇抜なものだった。グレーに近い色合いのシンプルな布一枚の、ローブのようなそれは首から足先までをしっかりと包み込んでいる。加えて、上半身の部分は3つの留め具のようなもので固められている。音唯瑠はそれを例える言葉を知らなかったが、その衣服に近しいものを挙げるとするならば──拘束衣と呼ぶのが相応しかった。
さらに特筆すべきは、肩からかけられた巨大な鎖、そして両足首に繋がれた鉄球付きの足枷。と、踊るのにまさに足手まといと言った装飾品の数々だ。こんなものを身につけていては踊ることはおろか碌に動くことすら出来ない。
その格好の異様さに気付き始めたこともあり、彼らに熱い声援を送っていたファン達も徐々に静まり返っていく。熱狂の坩堝と化していた両国国技館は一転、波紋の浮かんでいない水面のような静寂に包まれた。
「……改めまして、今回は俺達【アポカリプス】の10thシングル、『C.C.C.』の初披露ライブに来て下さりありがとうございます」
水面に波紋を穿ったのは、メンバーの中央にいた倫人だった。感謝の言葉を伝えると全員が全く同じタイミング、同じ深さまで頭を下げる。そして、順番に話し始めていた。
「【アポカリプス】として活動を始めて3年目、こうして鬼優、イアラ、ShinGen、東雲、大切な皆と共に10thシングルという節目の曲をリリース出来て本当に嬉しく思っています」
「今回の新曲『C.C.C.』は、僕達【アポカリプス】にとっても新たな試みとなっているものです。それはこの見た目からも分かると思いますが、曲の方はさらに鮮烈な衝撃があるかと思います」
「正直に言うと、俺様はまだこの曲に関しちゃ納得のいってねえ部分もあるんだが……今日のパフォーマンスはもちろん全力全開だ。お前らもしっかりとついてきなァ! じゃねえと許さねェぞォ!!」
「『C.C.C.』はねー、色々新しいことに挑戦してて、オレはすっごく楽しいって感じたんだー! だから今日のライブじゃそれを皆にも伝えられるように頑張るねー!」
「格好もかなり独特だと思うけど、皆が言ってるみたいに曲の方はこれまでにない演出や変化があって、とことん斬新だと思う。まぁ論より証拠ってことで、見守ってくれたらって俺は願ってるよ」
倫人、鬼優、イアラ、ShinGen、東雲と順に変わり、曲の雰囲気や自身の抱負を語っていく面々。
拘束衣のようなその見た目以上に目新しいパフォーマンスとは。無言の中でファン達の期待は膨らんでいく。清蘭と音唯瑠もまた、彼らの姿に釘付けとなっていた。
「俺達がここまでやってこれたのも、偏に支えてくれるジョニーズ事務所関係各位の皆様、そして……常日頃応援して下さるファンの皆様のおかげ様です。この場をお借りして、改めてお礼を申し上げます」
再び倫人が口を開くと、もう一度深々と全員で頭を下げる。
そして、次に顔を上げた瞬間には既に彼らの顔つきは準備が整っていた。
この場にいる全員を魅了し、自らが輝く光になる──その準備が。
「それでは魅せさせて頂きます。【アポカリプス】10thシングル──『C.C.C.』──」
倫人が静かにそう告げると、遂に『C.C.C.』の時間が始まった。




