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掴むおっぱ……突破口


「ちょ、ちょっと待てShinGen(シンゲン)! お前今なんて言った!?」


「え? 『今度からオレがやる大食い企画のスポンサーやってくれてる会社の娘さんなんだー! 何を隠そう、あの大山田グループの娘さんなんだよ!』って言ったよ?」


「全部言わなくても良いって! そ、それよりも本当なのか……? シロ……大山田グループの令嬢さんと知り合いって言うのは?」


「本当に本当! さてはまだ信じてないな~リンちゃん!」


 いや、そりゃあ信じられる訳ねーだろ!

 だってさぁ、だってだぜ? ほぼ間違いなくシロさんが応募してくれたと思われる悩み相談のお便りを読んでいたら、さらにシロさんとShinGenが知り合いだって言うんだぜ?

 どんな偶然だよ全く……。俺が口をあんぐりと開けていると、ShinGenは自分の携帯を弄り出す。


「あっ、お前今本番中だぞ! 携帯弄ってんじゃ……」


「ほいっ!」


「ん?」


「ほらっ、オレの【ココア】のフレンド一覧!」


 いきなり画面を見せてドヤ顔を決めるShinGenに俺は困惑するしかなかった。しかも、何故ココアのフレンド一覧なんだ?

 ……おー。やっぱり友達多いなこいつ。【アポカリプス】の皆と仕事関係の人と家族と清蘭きよらしかない俺とは大違いだ……。違う、別にぼっちなんじゃない。"日本一のアイドル(九頭竜倫人)"というキャラを作り過ぎたが故に近寄り難いだけだ。

 と、一瞬抉られかけた心の傷は既読無視し、俺はShinGenのフレンド一覧をスクロールして見ていく。


「……あっ、ホントだ……」


 そして、それを発見すると共に素のリアクションが漏れ出た。

 おっとりとしていて、マイペースな雰囲気が漏れ出る整った綺麗な顔。白の絹糸のような髪の毛はロングウェーブヘアーに仕上がっていて、そして無防備に零れる胸元。

 そんなアイコンの隣に、しっかりと【大山田おおやまだ白千代しろちよ】と書いてあった。


「でしょでしょ! ちゃんとシロちゃんとオレはココ友なんだよー!」


「シロちゃん!? あの人のことそう呼んでるのか!? 年上だぞ!?」


「えーでもシロちゃんから許可貰ってるよー? ほら、証拠!」


「……本当だ……」


 な、なんて奴だ……恐ろしい子ShinGen……! 見せて貰ったやり取りは、シロさんと知り合いどころか確かに友達と言うしかないフランクなものだった。というか、シロさんはメッセージ上でも語尾を伸ばしているのも驚きだ。話し方に引っ張られてるのか……?


「ShinGenが大山田さんとココ友なのは分かった。それはそうとして、本題に戻るぞ」


「あっ、そだねオッケー! えっとーおっぱい揉まれてからドキドキするようになってそれが恋なのかどうか分からないっていうのと……」


「もう少しオブラートに包め」


「あ、あれか。お金持ちの家の子だから恋だったとしても親が許してくれるかどうか分かんないってヤツか! そうだったそうだったー!」


「まぁ、この手の相談が俺達に届くなんて思ってなかったけど、しっかりと考えねーとな……」


 そう、本当にしっかりと考えなければならない。

 俺の答え次第では、シロさんを深く傷つけることになってしまう。今もシロさんが聞いていると思うと、尚更緊張してしまう。どんな風に答えればベストなんだろうか……


「でもさー、始まり方がどんなのでも、恋は恋じゃない?」


 と、俺が考え込んでいる所に相方が率直な意見を口にしていた。


「そうだな……確かにそう言えるかもしれないな。でも、本人は戸惑っているんだから、早急に結論を出すのもどうだろうか?」


「いやいや、出しちゃっても良いでしょ! 戸惑いも恋の内なんだから!」


「そう……なのか?」


「始まりがおっぱい揉まれちゃったことなんでしょ? でも、それ以降もその揉んだ相手のことを思い出してドキドキするなら、それは恋だってば! あーだこーだ頭で考えても、心が出す音には敵わないってオレは思うけどなー!」


 勢い良く持論を展開するShinGenに、俺は圧倒された。

 何の迷いもなく、真っ直ぐと突き進む。それがShinGenの良さであり、悪く言えば馬鹿とも言えてしまうのだけれど。


「……そうだな。お前の言う通りだ」


 この時ばかりは、それがプラスに動いた。

 きっと、気持ちを肯定してあげるのが俺は怖かったんだ。シロさんのあの時の告白を、俺は心のどこかで本気じゃないと決めつけていたんだ。胸を揉まれることで始まる恋なんて、あり得ないと思っていたから。

 だけど……ShinGenの言葉でハッとした。シロさんが俺に抱く気持ちは、確かに恋なんだ。だとすれば、俺はそれに真っ直ぐに向かい合うしかない。向かい合わなきゃ"日本一のアイドル"の名が廃る。いや、もっともっと根っこの部分だ。男として、俺は胸を張れない。

 あの時言いそびれた言葉を、シロさんにいつか伝えにいこう。ちゃんと、自分の気持ちを伝えて、ケジメをつけるんだ……。でも、それの難易度が高すぎる。


「じゃあ、どんな始まり方でも恋だとして、親を納得させるにはどうしたら良いんだろうな」


 そう、こっちの問題だ。俺の場合、シロさんの親……大山田おおやまだ黒影くろかげさんに滅茶苦茶嫌われてしまっているからな。ってか本当にあれは質問も悪い気が……ってもう過ぎたことは考えるな。確定した過去じゃなくて、未来を変えるんだ。


「親を納得させる為にかー、とことん話し合う?」


「それはもちろんそうだけど、それだけじゃ足りないような気もするな」


「じゃあ、勝負する? 親と娘の熱い筋肉バトル!」


「脳筋かよ。イアラじゃないんだから……別の案があるはずだ」

 

「ん~……じゃあ、もう恋人の方も乗り込んで話し合うしかないんじゃないかな?」


「まるで結婚の許可を貰う時みたいだな……だけど、それしかないような気もするな」


 くっ、やっぱりそっちしかないのかよ……。だけどなShinGen、お前は知らないだろうがそのステージを俺はとっくに超えちまってるんだよ。親父さんとシロさんのおっぱいの話したら日本伝統の1本背負い喰らって背中いてえんだよ。痛みが甦って来たわ。

 何とかしなければ、そもそもシロさんと会うことすらも出来ないだろう。シロさんと秘密裏に連絡を取り合うことが出来れば何とかなりそうだが……一体どうすれば……ん?


「ククク……ハハハハハッ……!」


「リンちゃん?」


 そうだ、あるじゃないか! 

 ないと思われていたシロさんへの道が。

 彼女に真っ直ぐ真っ直ぐと続く攻略ルート、見える見えるぞシロさんのおっぱ……じゃなくて突破口が! いかんいかん消え去れ煩悩よ! だが……まさかこうも上手い具合に攻略のヒントがあるなんてな……。 


「クククククハーハッハッハッハッハッハ!!」


「り、リンちゃん……?」


 駄目だ……まだ笑うな……堪えるんだ……しかし……。ありがとう神よ、今回の試練は俺が"日本一のアイドル"と言えども、自力では突破不可能なものだった。

 それでも最後に勝つのはこの俺、九頭竜くずりゅう倫人りんとだァーッ!! 勝者はこの九頭竜倫人ッッッ依然変わりなくッッッ!!

 

 と、こんな風にここから俺のテンションがおかしくなったこともあり、本日の放送回は"【アポカリプスの】大暴露ラジオ"でも"本番中に上半身裸になるイアラ暴走回"や"東雲しののめ鬼優きゆうがドン引きするほど大号泣回"に並ぶ屈指の()回となっていたのだった。



ココア:Connect(コネクト) Commu(コミュ)nication(二ケーション) Appli(アプリ)cation(ケーション)の略称である。


メッセージ交換アプリとして日本を中心に幅広く使われており、今では連絡手段として不動の地位を確立している。メッセージを送るだけでなく翻訳機能やスタンプなども備えている。

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― 新着の感想 ―
[一言] え、シロさん一番最初にりんとと会った時、りんとアイドルの格好の時でしたよね?てっきり、アポカリプス自体を知らないのかと思ってました。それとも、その時も隠してたっけ?
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