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黒髪清楚系正当派美少女調査大作戦①


 【アポカリプス】のメンバーと共に練習に練習を重ねた土日も終わり、再び月曜日が始まる。

 練習の疲れを取るためにのんびりと授業を受け、つつがなく1日を過ごす。それが"日本一のアイドル"ではなく、"ガチ陰キャ"としての九頭竜くずりゅう倫人りんとのライフスタイル。

 しかし、今日は違った。いや、正確に言うなら今週(・・)からか。

 今の僕……いや、には目標がある。誰にも知られることはない、だけど壮大な目標が。

 

 それは──黒髪清楚系正当派美少女の正体を完全に突き止めることだ。


 先週の成果は図書室にいた地味めの図書委員女子生徒が、屋上の黒髪清楚系正当派美少女と同一人物だということ。俺だって(文字通り)仮面生活を送っているからか、バレないように過ごしていることには敏感だ。

 恐らく、普段の生活では彼女は図書委員の時のスタイルで過ごしているのだろう。あれほどの歌声を持っておきながら、秀麗樹しゅうれいじゅ学園で一切話題にはならないのだから。

 つまり、あの歌声を知るのは現状で俺だけということになる。……ククク。他のカス共はまだ知らないとなると、優越感はさらに増すな。さながら彼女はダイヤモンドの原石という訳だな。

 あとの懸念は、彼女が日によって変装(・・)のスタイルを変えているかどうかか。それに関しては祈るだけしかないが……まぁ──


倫人りんとォ! おっはよーーーっ!!」


 ……この空気を読まない、アホみたいに元気な声……。

 まさか……というかほぼ間違いなく……。


「あ、待って! 顔は上げなくて良いわ! あんたのうんことゴミがコラボレーションしたようなゲロ以下の臭いがプンプンする偏差値-5000兆くらいの顔見たらあたし吐いちゃうから!」


 あぁ。間違いない。

 このカスみたいな物言いと天上天下あたし独尊(・・・・・・・・・)を地で行く傍若無人っぷりは、俺の幼馴染の甘粕あまかす清蘭きよらだ……。

 しっかしまぁ朝からなんつー言い方だ。この邪知暴虐の限りを尽くすカス女に飛びかかって殴りたい所だが、それをすると学園生活が終わる。なので殴らないでおこう感謝しやがれこのカス女が!


「な……なんですか?」


「ふっふーん! 感謝しなさい! あんたにはあたしのアイドルとしての成長を逐一報告してあげるわ! しかも誰よりも先にね!」


「は、はぁ……」


 机に突っ伏したまま、は甘粕さんとの会話を続ける。

 アイドルとしての成長を逐一報告って本人は自信満々に言ってるけど、日本一のアイドル()を超えたいのなら情報を流すとかえって不利になるんじゃないかな? そう突っ込みたい所だけどガチ陰キャだからそんな饒舌なことは言えない。


「それで、気になるでしょあたしの成長?」


「ぃぇ……」


「そうよね気になるよね! だったら言ってあげるわ! あたしね、881(ヤバイ)プロの社長と直々に会ってきたの! そしたらさー泣くほど社長が喜んじゃってさー『こんな逸材がウチみたいな事務所に来てくれるなんて!』だって! いやーあたしのポテンシャルは圧倒的よね!」


 机に突っ伏してるから見えないけど、間違いなく甘粕さんは自信と喜びに溢れる顔で話しているんだろうな……。

 だからこそ余計に可哀想に思える。あんな嬉々として話す甘粕さんの所属する881(ヤバイ)プロは危機的状況にあるんだから……。まぁ時には挫折を味わうのも人生には必要だし、精々頑張ってね甘粕さん。


「ま、とりあえず今日話すのはこれぐらいね! 入るだけでこんなに喜ばれるんだから、如何にあたしが逸材なのか分かったよね! この調子でトップアイドルまで駆け上がってやるんだから、今に見てなさい! じゃあね!」


 ……ふぅ。やっと去ってクラスの中心に戻っていったか。今日もまた話をほぼ聞いてるだけの立場だったのに、周囲からひしひしと感じる恨み節の聞いた視線が痛かった……。

 朝っぱらから猛烈なカスに見舞われた僕だったけど、この日も変わりない日常を過ごして。

 そして、放課後を迎えるのだった。





「よし……いざ探索だ」


 丸眼鏡の奥の瞳を光らせて、誰もいなくなった教室で僕は立ち上がる。

 他の生徒達が部活動に励む中、僕は黒髪清楚系正当派美少女探しの旅に出発だ。

 とは言え手探りだった以前から考えれば、今回からはかなり楽になっている。何せ彼女は図書委員で図書室にいる、これはほぼ確定情報と考えて良いだろう。

 今回からの憂慮すべき点は、朝に考えていた彼女の変装スタイルが複数あることに加えてあともう1つ。 

 彼女と会った時に(・・・・・・・・)どのようにして話すか(・・・・・・・・・・)、だ。

 言うまでもなく、今の僕は"日本一のアイドル"の九頭竜倫人じゃない。"ガチ陰キャ"の九頭竜倫人である。

 ガチ陰キャとは名ばかりじゃない。そこら辺の研究をしていない訳がなく、僕はガチ陰キャの特徴を踏まえている。何やら何度か顔を合わせた相手とは普通に喋れるとか、深夜のアニメでは多いらしいが……。

 一言言っておこう。そんなガチ陰キャは似非だ。偽物だ。贋作だ。

 真のガチ陰キャとは、どれだけ顔を合わせていようがコミュニケーションが捗ることはない。ましてや、学校を代表するような美少女達に都合良く惚れられてハーレムを作ることもない。夢を見すぎだカス共、とではなく俺は言いたくなる。

 まぁ俺のように神に愛された優れた容姿を持っていればありえなくはないが……そうじゃないからガチ陰キャになったとも言える。顔面もカスなら性格もカス、哀れな敗北者、それがガチ陰キャだ。

 つまり何が言いたいかと言うと、"ガチ陰キャ()"のままだと仮にあの子に会えたとしてもそもそも話せないという状況が発生してしまう。果たしてどうするべきなのか……。

 ……ん? そうだ!

 なんて頭が良いんだ! 今後の明暗を分けるであろう名案を思いついた! やっぱり俺は天才だ!! あのカス女なんて比じゃねえ、真の天才だ!  

 俺は教室でうっかり高笑いをしつつ、秘策を実行へと移す。

 そうして全ての準備を整えると、然る後に図書室へと向かった。






「ふぅ……これで良し、と」


 返却された本を元の本棚に戻す。

 図書委員としての仕事をしっかりとこなしながら、黒髪の少女は一息をついた。図書室の広さが広さなので、まだまだ元の位置に戻っていない本は多数ある。

 しかしここで仕事を投げ出す訳にはいかない。しばらく呆けていた後、止まっていた手と足を再び動かす。時刻は16時のちょっと過ぎ、大半の生徒が部活動に励むため図書室に人の姿はなく、自分1人だけがぽつんと存在している。

 この静寂に身を置くのもすっかりと慣れてしまった少女。かと言って、孤独が怖い訳でも寂しさが虚しい訳でもなく、逆に身体の奥底からはある衝動が生まれている。


「駄目駄目っ……」


 この衝動に身を任せられたら、そう感じつつも少女は首を振って邪念を振り払う。

 図書室では静かにするのがマナー、というのもあるが少女にとって衝動に駆られてはならない理由はもう1つあった。そのことを考えると胸の奥がズキッと少し痛む。

 衝動と痛みを忘れるべく、少女は改めて仕事を再開しようとする。

 

 その瞬間──図書室の扉が開く音がした。

 

 こんな時間に珍しいなと思いつつ、先日も利用者が訪れたのを少女は思い出す。あの時はまさかの有名人だったが今度は……?


「っ──!」


 その姿を見た瞬間、少女は手に持っていた本を落としてしまった。

 それは眼鏡の奥の瞳に映るその人物が、先日のあの少年よりも衝撃的だったせいで。




「……こんにちは」



 固まる少女に対しその人物は──九頭竜倫人(日本一のアイドル)は静かにそう声をかけたのだった。




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