【番外編】秀麗樹学園新聞部2年・文野春佳のメモ①
私の通う秀麗樹学園は都内屈指の人気を誇る私立校である。
特筆すべき点を挙げるなら生徒の大半は芸能界に入り、スターを目指す者がほとんどだということだ。私のようにマスコミ関係の仕事を志す者は稀であり、さらに何もしない普通の高校生──いわゆる"一般人"と呼ばれる生徒はもっと少ない。
しかし、長年の間その通称……いや蔑称と言うべきか。ともかく、"一般人"を見下して良いという風潮は程なくして消えるかもしれない。それは先日起きたとある一般人同士の直接対決が理由として考えられる。
蔑称として呼ばれる"一般人"の中でただ1人、それが蔑みの意を含んでいるどころか尊敬の念を込めて使われ、生徒の人気と注目を独占した女子生徒……甘粕清蘭
新聞部に代々引き継がれる歴代"一般人"リストの中でもダントツの嫌悪と侮蔑を浴び、この学園に渦巻く暗く濁った感情を一身に受けていた男子生徒……九頭竜倫人
この2人の繰り広げた、後に"革命の灯火"と呼ばれる対決は、この学園を魅了し、それに留まらずSNSを通じて全国にも伝えられた。
さらに話はそこで終わらない。あれだけの美貌を持ち、各事務所から引く手数多だったにも関わらず芸能界に一切の興味を持たなかった甘粕清蘭が、あの対決を経て遂に「アイドルになる」と宣言した。彼女がアイドルを志したとなると、この秀麗樹学園、いや芸能界は大いなる波乱に飲み込まれることになるだろう。世はまさに大革命時代に突入したと言っても良い。
差し当たり、今回のメモで残しておきたいのはアイドルを志した彼女にとって最大の強敵となる相手だろう。無論、現在の女性アイドルグループ筆頭は【Cutiy Poison】ではあるが、男女を問わずに人気の頂点に立つグループとなれば文句なしで【アポカリプス】になるだろう。
というわけで、改めてメモに彼らの情報を書き出す。ネットがあるのだから問題ないと後に言われてしまうかもしれないが、【アポカリプス】の人気のあまりサーバーが飛んでしまう日が来るとも限らない。こういった時はメモ書きに限る、と私は常に言い聞かせている。
それはそうとして、いい加減に書いていこう。年齢、身長、体重、ヘアスタイル、性格、アピールポイントに加え、アイドルとしての各項目を10点満点で(私の独断でだが)採点する。
【イアラ】
・年齢 17歳
・身長 183cm
・体重 79kg
・ヘアスタイル 炎を彷彿とさせる逆立った赤い髪
・性格 男もとい漢らしさに溢れる熱血漢 脳筋
・アピールポイント 見る者を圧倒するダンスに男らしさ溢れる言動 鋼の肉体に褐色肌
・歌唱力 7
・ダンス 10
・身体能力 10
・ファンサービス 6
・容姿 8
・演技力 4
【アポカリプス】の特攻隊長と言えば言わずもがな彼だ。
南米系の血がルーツにあるらしく、肌の色は日本人にしては珍しい褐色肌。しかしそれが尚更彼の肉体美を映えさせている。
ダンスの上手さは【アポカリプス】内でも一番と言われるほどで、力強さとテクニックが見事に融合したその踊りはまさに圧巻の一言。ダンスに全力を尽くすあまり歌う時に少々声が乱れがちなのが難点だが、それは他のメンバーがよくフォローしてくれている。
古き良き男らしさが好きな層から人気があり、メンバー内では一番男子人気も高い。その強面な見た目からファンサービスはしないように思えるが、色々と文句は言いつつもしっかりと応える。ツンデレなのかもしれない。
メンバーへの想いは中々明かさないが、仲良くはやっている様子。特にShinGenには手を焼きつつも口うるさく構うので、「イアラ君マジおかん」「兄弟みたい」と専らの評判。良いぞ、もっとやれ。
【鬼優】
・年齢 17歳
・身長 175cm
・体重 70kg
・ヘアスタイル 綺麗に整えられた金髪
・性格 誰に対しても丁寧な紳士 密かに毒舌
・アピールポイント 知性溢れる見た目からは想像も出来ないラップ
・歌唱力 8
・ダンス 7
・身体能力 7
・ファンサービス 9
・容姿 10
・演技力 ?
鬼優という男はギャップまみれだ。
まず名前が鬼優という厳つさであるのに、【アポカリプス】のメンバー内では最も知性と品性を感じさせる立ち居振る舞いをしているのだから。誰に対しても敬語を扱う所に、幼い頃からの英才教育を感じずにはいられない。
そんな彼のギャップは、歌の時に最高潮に達する。荒々しく激しく、本来イアラが担当するんじゃないかと思うようなラップが、彼の口から飛び出すのだ。普段の柔らかな声色が低くなり本場のラッパーを思わせる激変ぶりを聞くと驚かずにはいられない。なお【アポカリプス】に提供される楽曲のラップ詞は、鬼優が全て作詞しているのだという。そこに普段の彼の面影があるかもしれない。
紳士的なその雰囲気から女性人気は高いが、ラップのギャップに惹かれた男性人気も高い。
メンバーとの関係はもちろん良好。特に東雲との"柔らかコンビ"は「一生見ていたい」「円盤はよ」など単品での映像化を待つファンがいるほどである。
【ShinGen】
・年齢 17歳
・身長 165cm
・体重 65kg
・ヘアスタイル 目に優しい緑色の短髪
・性格 天真爛漫を地で行く 子どもっぽい(褒め言葉)
・アピールポイント 底なしのスタミナと元気 甘え上手 大食い
・歌唱力 5
・ダンス 9
・身体能力 10
・ファンサービス 10
・容姿 7
・演技力 0
【アポカリプス】で一番弟にしたいのは? と聞かれたら迷わず彼だ。
「精神年齢が小5で止まったまま成長した」とはイアラの弁。しかしそれに納得せざるを得ない純粋無垢っぷりと弾ける笑顔でファンの心を鷲掴みにする。アイドルにおいて大切なのは笑顔とは言われるが、そこに関して言えばShinGenに敵う者は後にも先にもいないだろう。
ダンスにおいては巧さは1歩及ばないものの激しさに関してはイアラに負けず劣らずだ。しかし彼の場合面白いのは歌唱力の部分だ。ぶっちゃけて言うとさほど上手くはない。素人に毛が生えたようなレベルだ。しかし、元気で明るい笑顔がそのまま宿ったようなその歌声に魅了されるファンは数え切れない。短所にして長所と言うべきだろう。
特筆すべき点はさらにある。イアラに匹敵する身体能力に加え、ファンサービスの良さだ。ライブ映像などを見るとファンに対してわざわざ背をかがめて握手したり、笑顔でウインクをしたりとマジ天使。それ故にあまりカメラを見ないのはご愛敬だ。
人懐っこい性格ゆえにメンバーとは仲良しを通り越して兄弟のように接している。イアラとのコンビが特に人気だが、他のメンバーとの絡みももちろん多い。
【東雲】
・年齢 17歳
・身長 176cm
・体重 71kg
・ヘアスタイル 青色だが髪形自体はかなり無難
・性格 他の4人に比べるとかなり一般的
・アピールポイント 縁の下の力持ち 器用貧乏
・歌唱力 7
・ダンス 7
・身体能力 7
・ファンサービス 9
・容姿 7
・演技力 10
【アポカリプス】に何故か紛れ込んだ一般人。そう揶揄されるのが常の彼の心中や如何に。
顔立ちや能力といった部分では、まぁアイドルをするに足る基準点はクリアしているのかもしれない。しかしながら、彼が所属するのは【アポカリプス】だ。イアラ、鬼優、ShinGenとキャラクターの強い3人の後に続くと、東雲はどうしても霞んでしまう。
だが、それこそが彼のスタイルと言っても過言ではない。霞んでいるのではなく、自ら霞みがかっていくのが東雲という男だ。メンバーのサポートは常に的確で、ハモりなどを担当した際にあちら側がズレるとそれに合わせて音程を変えるという離れ業をやってのける。ライブ中などではなく普段の練習映像などを見ていると、より彼の縁の下の力持ちっぷりが拝める。
しかしそんな彼が主役になる時がある。それこそが"演技"だ。演技力という項目を作ったのは彼の為だけである。初出演・初主演のドラマではその演技力は垂涎の輝きを放ち、低迷する局を瞬く間に救う異例の大ヒットを記録した。かくいう私もドラマの続編が楽しみで仕方がない。はよ。
【九頭竜倫人】
・年齢 17歳
・身長 177cm
・体重 72kg
・ヘアスタイル 人界から隔絶した存在を想起させる輝かしい銀髪
・性格 寒気を覚えるほどクール 神々しさを感じるほど高尚
・アピールポイント 存在の全て
・歌唱力 10
・ダンス 10
・身体能力 10
・ファンサービス 10
・容姿 10
・演技力 10
【日本一のアイドル】とは誰か。それを尋ねられてこの名を挙げられない者は最早日本人ではない。そう断言出来るほど、現在過去含めて頂点に立つアイドルと言えば彼しかいない。
神に選ばれた容姿によって小学6年生の頃から日本で名だたるイケメングランプリを制覇しつくし、その後ジョニーズにスカウトされ、ジュニア時代を経ずに異例のデビュー。イアラ、鬼優、ShinGen、東雲を従えて【アポカリプス】を結成すると程なくして日本中を魅了した。
最早なんと言ってのか、特筆すべき点がありすぎて逆に語ることが出来ない。歌唱力もダンスもファンサービスも、アイドルとしての全ての能力が突出しておりさらにその進化は止まることを知らない。
グループ名の【アポカリプス】、これには人類の終末的な意味合いもある。しかし、それがどうしたと神に反逆でもするかのように九頭竜倫人はそれを覆してみせた。アイドルの完成系にして未だに歩みを止めない彼は、生きながらにして現人神にでもなろうというのか……。
こんな風に書いてしまうと他のメンバーはお飾りのように思えてしまうが、九頭竜倫人本人は非常に仲間想いであり、先のような書き方をされることを心底毛嫌いしている。慈悲深さも神とはまさに言葉を失う程だ。
改めてまとめてみたが、メンバーが強い。強過ぎる。
確かに甘粕清蘭は疑うことのない美少女だ。1000年、いや1万年に1人の美少女と言っても過言ではない。
しかし……彼女はこれから、この頂きに挑んで行くのだ。エベレストよりも高い【アポカリプス】という頂点に、果たして彼女はどう戦いを挑んで行くのか。
今後も甘粕清蘭、【アポカリプス】、そして九頭竜倫人。彼らには注目していきたい所だ。
1月某日
秀麗樹学園新聞部2年 文野春佳




