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5番勝負3戦目ラップ対決~VS超ド級インテリイケメン・優木尊~①


「ヘイヘイヘイヘイYOOOO! 皆アガッてるかNa~!? こっからはこのDJKUU(クー)がお届けするからHAPPYうれピーよろピュクNe〜~~‼」


「「「「「「「「HOOOOOOOOOOOOO!!!」」」」」」」


 某有名DJを模した扮装をした男子生徒が司会進行役となり、観客もノリに乗って独特な歓声が会場には響いていた。

 変化したのは場の雰囲気だけでなく、ステージの形式もだった。円の形に変化したステージとそれを取り囲むような観客達。

 観客との距離がこれまで以上に近くなっていて、空気や雰囲気がより直接的に伝わってくる。3戦目のラップ対決に相応しいステージだった。


「それじゃあまずは今回のラップ対決バトルを行うイカレた野郎共を紹介しまーすっ‼ まずはこいつ、じゃなくてこの貴公子ッ! 秀麗樹しゅうれいじゅ学園一の甘いマスク、さらには明晰な頭脳に懇切丁寧な紳士的優男っ! しかしその内に秘めるは静かに燃え滾るラップへの情熱やソウルっ‼ 秀麗樹学園の誇る”4傑”の1人──YU~YUYUYUYUYU~優木ゆうき~~~MI~MIMIMIMIMI尊みことォ~~~~~!!」


 ブブブブブーンと騒がしい効果音付きでDJKUUの派手な紹介が終わると、黄色い歓声と野太い声援に包まれながらステージ中央にいる優木は礼儀正しくお辞儀を行っていた。


「精一杯全力を尽くします。どうかよろしくお願いします」


 眼鏡を掛けたその顔は知的さと優美さを兼ね備えていて。ミラーボールの光を受けて輝きを見せる綺麗な金の髪はうなじ付近で束ねられたポニーテール。紳士的で気品の高さを感じさせる立ち居振る舞いもあり、王子様という言葉が最も似合うだろう。

 そしてそれはこいつが──【アポカリプス】の”鬼優きゆう”である時も変わらなかった。


「続いて2人目のイカレ野郎はこいつだチェケラッ! 荒井あらい大我たいが武原たけはら太郎たろうと”4傑”の内の2人を破り、残る2人も喰らい尽くさんとする反逆者!! ジャイアントキリングの体現者、女帝に牙を剥く反抗心ッ、KU~KUKUKUKUKUKUKU九頭竜くずりゅうゥゥゥゥ~RIRIRIRIRIRIRIRIRIRI~倫人りんとォオォォォォォォォ!!」


 俺の紹介も同じようにされて会場が湧く。けれども歓声よりもブーイングの方が凄かった。やっぱり2戦目の勝ち方は駄目だったか。まぁ我ながら卑怯だと思うし。

 まぁもちろん今更そんなことを気にしている場合じゃない。勝てば良かろうなのだ。

 今気にするべきはこの戦いのこと、【アポカリプス】においても主なラップパートを担当する鬼優きゆう、もとい優木に勝つことだ。


「では場も温まる、いや熱くなってきた所で早速ルール説明だYO! ラップバトルを知らない初心者ビギナーの為にも、じっくりと説明するからNa! まずラップバトルってのはシンプルに"ラップの巧さや面白さ"を競い合うモンだ! 先攻後攻を決めて2人でラップを魅せ合ってくれNa! 今回は1戦限りで勝敗を分ける、シンプル過ぎるルールだYO! 審査方法は2人のラップが終わった後でどちらが良かったかを観客オーディエンスに聞いて、その時の歓声の大きさで判断するからNe〜!」


 これといった特殊なルールはなし。正統派のラップバトルか。

 荒井(あらい)とのダンス対決や武原(たけはら)との大食い対決では運の要素も絡んでの勝利だった。

 それが今回の優木との対決では望めない、まさしく実力が問われるものになる。


「ではまずは先攻後攻、どっちがイイか2人共教えてくれYO!」


「九頭竜君、よろしければ先攻を頂いてもよろしいでしょうか?」


「アッハイ」

 

「OK! じゃあ次は16小節2回か8小節4回、どっちにするかNa?」


「ふむ、九頭竜君。DJKUUの言ってる意味は分かりますか?」


「ぃ、ぃぇ……」


「では、簡単に説明させて頂きます。まず1小節は4拍で構成されています。4拍というのは1、2、3、4、と数えることなのですが、4まで行くと再び1に戻って数え直します。つまり、1、2、3、4、1、2、3、4、1、2、3、4、これが何小節かは分かりますか?」


「ぇ、ぇっと……3小節……?」


「お見事、ご理解が早いですね。ですので、16小節の1ターンは、16×4で64拍ということになります。そしてそれを2回行うので64×2で128拍、その間にラップを紡いでいくという感じですね」


 こちらが分かるように惚れ惚れするほど丁寧な説明をしてくれる優木。外見を裏切らない優男ぶりは流石だった。


「ちなみに8小節4回の場合においても8×4で32拍、それを4回行うので32×4で128拍になり、長さで言えば同じです。違うのはお互いの回ってくるターンの回数の多さ、区切りの短さなどくらいですね。ここまでで分からない部分はございますか?」


「ぃ、ぃえ……ありますぇん……」


 まぁ意味は分かっていたけれども、”ガチ陰キャ”を演じるには無知な様を装わなければならないしな。

 しかし何とも分かりやすい説明、流石は優木だ。学園では”クズ”として侮蔑されている俺にも嫌な顔一つせず、しっかり教えてくれる。

 優しさの塊だな全く。少なくとも今のところ敵意や悪意は一切感じない程だ。


「では、今の話を踏まえまして16小節2回、8小節4回、どちらがよろしいですか?」


「じゃ、じゃぁ16小節2回で……」


「かしこまりました。では再確認ですが、僕が先攻、あなたが後攻でよろしかったでしょうか?」


「はぃ……」


「かしこまりました」


 優木は微笑むと「ではKUUさん、それでお願いします」と伝えていた。その裏で、俺は事が上手く運べていると心の中で不敵な笑みを浮かべる。


「よーし先攻後攻も決まった所で皆も待ち遠しいと思ってる頃だろうからNA! それじゃ早速おっぱじめようかHere we go!!」


 待ち侘びたとばかりにDJKUUは叫ぶや否やBGMを流し始める。

 軽快なテンポのEDMが会場に響き、そのリズムに合わせて観客の生徒達も拍手をする。ミラーボールの演出も加わり、会場はラップバトルの雰囲気を高まらせていた。

 ダンス対決の時に比べればテンポは遅いとは言え、この速度に追いつきながら言葉、しかも韻を踏みながらなどの工夫をするとなると相当の即応力や語彙力が求められる。


「では、参ります」


 その声と共に、優木が”スイッチ”を入れる。

 優木の放つ雰囲気が一変し、優雅な微笑みに勝負師としての闘志が宿る。

 俺を含め観衆の注目を一身に受けながら──優木の時間(ラップ)が始まろうとしていた。


「こんなお膳立て感激ですが

 負けは御免だね反撃いくか

 この場に集った若人達に

 魅せるぜ鋭いこの一太刀

 もう後がない? 関係ない 

 土壇場で魅せるがこの勇気

 このみことお見事だってな 

 ブチ上げて変えてやるぜこの空気」


 16小節の内の半分、8小節が終わった。

 この時点で、観客は優木が魅せる言葉(バース)に歓声を所々で上げていた。

 バースを紡ぐ優木もまた、声を低くしてまさにラッパーのそれのような雰囲気を醸し出している。【アポカリプス】での鬼優として魅せる時と変わらない、最初から本気でラップ勝負に臨んでいた。


九頭竜くずりゅう倫人りんとスクールカースト

 最底辺のこのクズ野郎!

 清蘭様の反感買っちまったが

 荒井と武原に勝っちまったな

 その快進撃は認めよう

 会心の一撃は讃えよう だが

 最後に勝鬨上げるはただ一人それは

 最高に場をアゲる俺だお分かり?」


 16小節目を締めくくり、優木の1ターン目が終わった。

 流石だ、と俺は素直に思った。韻を踏むだけに留まらず、リズムに忠実な時もあれば敢えて崩す変化球を使いこなしている。

 そしてラップバトルの醍醐味とも言える相手への蔑み(dis)も欠かしていない。俺の現状や立ち位置を踏まえながら、見事なライムを綴っている。

 次は俺のターン。なお考える間もなくすぐにやってくる。

 観衆はきっとこう思っている事だろう。''ガチ陰キャのクズなんか、ボソボソと言葉にならない呟きをして終わるに決まってる''と。

 だが──それが大きな間違いだ。

 今回のラップ勝負に限り、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 すうっと静かに息を吸い込み、俺は優木の「お分かり?」の直後──口を開く。


「これがお膳立て? 何言ってんだよお前

 とてもご機嫌だね負けてんだぞこの前

 ってか俺のことをクズ野郎だと? 

 まあ認めよう妥当だと

 だがしかし駄菓子そうだとしても

 お菓子みたいに甘く見たお前らに

 俺は勝ってんだぞあれおかしいな?

 片腹痛えなおかしくってな」


 最初は沈黙。

 しかし、目の前で起こっていることにようやく理解が追いついたのか、8小節目で観客からの驚愕と歓喜の叫びが響く。


「この俺倫人背筋をピンと

 胸張って堂々立ち向かうぜ凛と

 徹頭徹尾に決闘決意

 ガチ陰キャじゃねえ勝ち韻を魅せてやる!

 俺は止まらねえ負けの価値ねえ

 罵声は汚ぇされど気にしねえ

 どんな奴の言葉もどこ吹く風だ

 寧ろ俺にとってはありがてえ糧だ」

 

 16小節目を終えた時、優木の時と同じくらいの歓声が聞こえて来た。

 誰も予想していなかったことだろう。まさか''ガチ陰キャ''であるこの俺が、ラップ初心者であるはずの俺が、こんなにも堂々たるライムを綴るなんて。

 周囲の顔を見回しながらも、俺はラップを1ターン目を終える際に優木の表情を伺った。

 その顔は驚愕……ではなく寧ろ()()()()()()()()()()が宿っていて。

 微笑みを崩さないことも加わって不気味さを俺は覚えながらも、優木の2ターン目が始まろうとしていた──。


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