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5番勝負2戦目大食い対決~VS超ド級無邪気イケメン・武原太郎~②



「さぁ! いよいよ準備の方が整って参りました~!」


 司会がそう言うと共に、俺と武原たけはらは超巨大ケーキがそびえるテーブルに移される。向かい合うような形で座るが、ケーキのあまりの巨大さに互いの姿すら見ることが出来ない。まぁきっと武原は目を爛々と輝かせていることだろう。

 にしても、こうして改めて目の前にするとなんという存在感、食べる前から吐き気がしてくる。だが弱気になるな俺。

 まず重要なのは武原のペースに付き合わないことだ。こいつのペースに付き合ってたら腹がすぐにケーキまみれになる。

 あくまでも自分のペースを守り、用法用量を守って正しく完食する……それだけが俺の勝ち筋だ


「では、勝負開始のカウントダウンといきます! 5! 4!」


 大丈夫だ。イケる。さっきのダンス勝負でもかなりのエネルギーを消費した。俺の腹はスッカスカ、2.6kgのケーキも確実に入る。


「3! 2!」


 俺は”日本一のアイドル”、九頭竜くずりゅう倫人りんとだ。

 これくらいどうってことねえ……! だからよ……。


「1! スタートォォォォォォっっっ!!」 


 ──食べるの……止まるんじゃねえぞ……。




 

 


「うっぷ……」


 勝負開始から5分が経った頃、俺は今にも吐きそうな顔で項垂れていた。

 敵は想像以上に強大だった。

 そして……想像以上に俺の胃袋は小さかった。

 

「うんまあぁぁああああいっ!! やめられない止まらない~~~~っっっ!!」


 そして……本当にお前人間か、と、俺は半分死んだ目であちらの様子を窺う。

 食べ始めてから今に至るまでペース全然落ちておらず、嬉々としてケーキを口に運ぶ……いや最早放り込んでいる武原。既にケーキは半分以下にまで減っている。

 対して、こちらの進行具合は全体の4分の1ほど、。しかしもうこれ以上はお腹いっぱいだし、何よりも俺の舌が「もう甘いものは食いとうないでござりんす!」と泣き喚いている。

    

「な、なんという食いっぷりだぁぁぁ~武原たけはら太郎たろうっ!! 勝負が始まってからというもの、この男は一向にペースを落とさずにケーキの山を開拓し続けているっ!!」


「ケーキがどれだけ泣き叫ぼうと食べるのをやめないその様はまさに食卓の破壊者っ!! 食卓の専制君主だ~~~!!」


 本当にそれだよ。こればっかりは司会の2人には同意せざるを得ない。

 普段の学校生活では”ガチ陰キャ”としてぼっち飯を送ることが常の俺だが、弁当がどうしても用意出来なかった日は食堂に行くこともある。

 その時に見る武原の食事風景というのは、ある種秀麗樹(しゅうれいじゅ)学園の名物だ。ファンである女子(いつもだいたい12~13人ほど)と共にテーブルを端から端まで独占し、上には所狭しと並べられた食事の数々。

 女子と一緒に食べる……のではなく、テーブルの上に並べられたそれらは全部武原が食べるものだった。食堂のメニューはもちろん貰ったお弁当まで、何から何まで全部武原が1人で食べ尽くす。周囲の女子などそっちのけでご飯にばかり目を輝かせて。

 


「うっひゃあぁああああここすんげえええうめえええええええっっっ!!」


 食事、食事という行為それ自体が大好きな武原。

 今も楽しんでいるようで何よりだ……。

 もう隣で無様に死んでいる俺のことなんて忘れて、食べるのを楽しみ尽くしていた。

 

 腹は限界に近く、武原の食べるペースは一向に落ちない。こればかりは俺の負け……なのか……。


「ねえっ、クズ君っ!」


「……へ?」


「はいっ!」


「……へっ?」


「なんか辛そうな顔してるからさ、このすっげえ美味い所食べて元気出しなよ! ほらっ、あーんっ!」


 諦めかけたその時だった。

 武原が突然話しかけて来たかと思えば、こちらにケーキの一部を差し出しているのだ。まだ俺が到達していない部分で、フルーツてんこ盛りだ。確かに美味しそうだが……。


「キエエエエエエエエエエエエエエっっっ‼ 武原君のあーんだとぉぉぉぉおおぉおおおクソがぁああぁああぁああぁぁぁ羨ましいーーーーッッッ‼」

 

「ぎぃぃぃぃがががががががががががばばばばばばばばばば!!」


「ムッキィイイィイイィイイイキシャアアアァァァアアァァ!!」


「WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!」


 武原の俺への”あーん”に、客席から女子生徒達の嫉妬に満ち溢れた叫びが聞こえる。そんなに食べたいなら代わってほしい。俺はとっくに限界だし。


「てめえええええぇえ何ボサッとしてやがんだぁぁああぁああぁあああ!!!」


「武原君にあーんして貰っててどの分際で呆けてやがんだクズ野郎ーッ!!!」


「さっさと首を垂れて感謝の言葉を述べながら食えボケカスクズ野郎がォッッ!!!」


 食わなくても大ブーイングかよ。と、呆れている間にいつのまにか会場内は食えコールが鳴り響き始めていた。……食うしかないのか。


「どうしたの? 食べないのクズ君?」


「いや……食べたいんだけど……お腹がちょっと……」


「そうなんだ? でも勿体ないよー! こんなに美味しいもの、一緒に食べられないなんて! クズ君とは勝負してる最中だけど、オレ実は楽しいんだー!」


 屈託のない笑顔を見せる武原に、俺の良心は揺るいだ。

 他の生徒と同じように俺のことをクズ呼ばわりはしているが、武原はまさしく純粋無垢で人当たりの良い奴だ。だからこそ武原の言うクズというのは響きだけであって(・・・・・・・・)意味を含んでいない(・・・・・・・・・)

 こんな遊んで欲しい子犬のようにキラキラとした笑顔で見つめられたら、もう断ることなんて出来なかった。


「じゃあ……頂きます……」


「はいっ、どうぞ♪」


「……」


「どう? どうっ?」


「……美味しい……」


「だよね! ここ滅茶苦茶美味しいんだ~!」


 ”あーん”が実行され、怒号と歓声の入り混じった轟音が響きながらも、俺は口の中に迸る美味しさと武原との会話に意識を奪われていた。

 想像を超える美味しさだった。もうこれ以上食えないと思っていたがこの部分ならまだまだ食えそうな気さえもするくらいに。


「だけど、量が少ないんだよね~。もっともっと食べたいんだけどなぁ~。残りの部分時間かけて食べよーっと」


 しょぼんとした表情を見せる武原。

 しかしその時──俺の頭に一筋の光明が走る。

 頭に浮かんだのは圧倒的閃き。電流が全身を駆け巡り、勝利までの道筋が瞬時に組み立てられた。


「……あ、あの……武原君……」


「ん? なーに?」


「良かったら……僕の分、あげようか……?」


「えっホントに!?」


「うん……武原君がくれたし……お返しで」


「うわぁぁぁやったーーーっ!!! クズ君ありがとーーーっっっ!!!」


 武原はクリスマスプレゼントを貰った子どものように無邪気に喜ぶと、再び俺の了解を取った後に超美味い部分をケーキから取っていった。

 ──武原、いや……ShinGen(シンゲン)。ありがとう。勝負の勝ち負けじゃなく、自分の食欲を優先してくれて。


「あ、あれ? 武原君が……九頭竜のケーキから一部分を貰っていますが……これは良いんでしょうかね……?」


「はぁ……ケーキを純粋無垢な笑顔で食べる武原君……尊み深み……」


「……こいつはもう駄目だ。え、えーっと少々お待ち下さいませ! ルールを確認して参ります!」


 司会コンビも女子の方はともかく、男子は慌ただしい様子を見せ始める。

 それもそうだろう。何せ武原がしているのは、いや俺が武原にさせているのは普通に考えればルールに抵触する反則だからな。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、なんて論外だからな。


「……うわっ……どうしよ……!」


 あの焦り具合、やっぱりか。ルールブックには反則と書いてあったのだろう。

 そうなれば反則負けになるのは先に俺にあーんをしてきた武原の方になる。

 が、俺の連勝などさせたくないあちらからすれば武原を反則扱いには出来ない。そうなれば、俺を反則扱い出来ないのも道理だ。

 だが、このまま武原に食べさせ続けて俺のケーキを完食させてしまうと、流石にそれは見逃せないだろう。だからこそ、俺はケーキの残りの量で武原に勝たねばならないのだが……それも問題ない。


「あー美味しいぃいいいいいいいっ!! 幸せーーーーーっっっ!!」


 武原は滅茶苦茶美味し(・・・・・・・・・・)い部分を時間をかけて(・・・・・・・・・・)食べる癖がある(・・・・・・・)

 これはどんな料理を食べる時もそうだった。現に武原は派手にリアクションはしつつも、食べる速さは極端に落ちていた。


「え、えーっと……こちらで確認したところ、食べさせ合いは一方のみがやれば反則ですが……その……両者がやれば……反則とはなりません……」


 なんて見苦しいその場しのぎルール、だが言質は取った。

 あとは俺も終了時間まで可能な限り食べるのみ。

 ”日本一のアイドル”の底力を魅せてやる。唸れ、俺の胃袋と根性!






「タイムアッーーーープ‼ 両者共に食べるのはそこまでにしてくださーい‼」


 15分が経過し、大食い勝負は終了となった。

 テーブルには今度こそギブアップした俺とまだ食べていたいと駄々をこねる武原の姿。 

 それから……どちらの皿にも残ったケーキがあった。


「制限時間内にどちらも食べ切れていないので、ただいまからどちらがより多く食べたのかを計り、残りのグラム数の少ない方の勝利とします!」


 人事は尽くした。もう胃袋には何も入らない。気を抜くと吐きそうになるくらいに。

 後は……天命を待つのみだ。

 まず計量がなされたのは武原の方だ。

 皿を抜いて、あいつの皿に残っていたケーキの重さは260gだった。

 次は俺の番だ。

 死力を尽くし、知略を駆使し、苦心と苦労の末に辿り着いた勝ち筋。



 その結果は──252g。




「大食い勝負これにて決着ッ‼ 勝者は……九頭竜倫人ぉぉおぉおおぉおおぉおおおおおおッッッ!!!」




 司会の声が鳴り響き、静寂が訪れる会場。

 その直後、「勝負が終わったってことで、いただきまーーーす!!!!」と武原が残ったケーキを口に放り込んでいたのだった。

 





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― 新着の感想 ―
[良い点]  実のところ、テンション高めの語り口調一人称というのが苦手なのですが、本作は、なにも引っ掛かりなくここまで読了できました。  理由はもうただひとつ。単純に、面白いです。  先ず一話めの最後…
[一言] 次の勝負で勝利したら普通決着ですよね?九頭竜としては、残りの他のメンバーにも負けれないでしょうし。甘粕の負けは確定では?カスの本領発揮して無理やり勝ちにもっていくんでしょうが!
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