王家の娘が一方的に婚約破棄を言い渡してきたのですが、身に覚えがありません
争いごとに巻き込まれるのはまっぴら嫌だった。幼稚園生の時に同じクラスの子とケンカしそうになった時も、中学生の時にヤンキーに絡まれた時も、いつも自分が謝ることで場を収めてきた。相手が悪いのが明白だとしても、である。それが最善の方法だとずっと思っていた。…今自分がいる場所が、城の中だと気がつくまでは。
こんな所に入った覚えがない。そもそも、我が国に城なんてあったか?そんな考えが頭の中をぐるぐる回る。すると突然、城内の静寂は破られた。
「林信吾!その場に跪け!」
甲高い女性の声だ。と同時に無数の兵士が玉座を担いで現れた。玉座に乗っている幼く見える女性が先ほどの声の主だろう。本能的に何かに巻き込まれているのだろうということはわかった。謝る準備は出来ている。しかしそれが何なのかがわからない。そんなことを思いながら跪いていると、女性は口を開いた。
「信吾、今日をもってお前との婚約を破棄する!」
「…はい?」
信吾はそれしか言葉が出てこなかった。
「以上。まあ、これから好きに暮らせ。」
「待って待って待って!何のことですか!こんな所に来た覚えもないですし、婚約なんて結んだ覚えもありません!第一、貴方は誰なのですか!」
「覚えていないのか?」少し悲しそうな顔をする女性に対し、申し訳ないなと思いながら言葉を返す。
「はい…。婚約を破棄することは構いません。経緯だけでも教えて貰えないでしょうか?」
「それは出来ない。知らないことは、知らないままの方が良いこともある。今まで、楽しかったよ。」
そう告げると女性を乗せた玉座は去ろうとした。
「いや、待ってくださいよ!僕と貴方の関係くらい教えてくれても良いじゃないですか!それに、ここにどうやって来たかも覚えてないですし…わからないことだらけなんですよ!」
「うるさい!もう終わったことなんだ。もう、二度と。」
その言葉を聞きながら、兵士が僕の腕を掴みどこかへと連れて行く。あの女性は誰なんだ、知り合いなのか?仮にそうだったとして、僕に何の用が?そんなことを考えながら連れられていると、突然腕を離され窓から城の外に投げ出された。
落下していく体。もう死ぬんだなと思いながら、ふと昔のことを思い出していた。幼い頃、よく遊んでいたのに別れも告げぬままどこかへ消え、二度と会うことがなかった女の子がいたことを。あの女性はそうなのか…?疑問を確信に変えるにためにも、まだここでは終われないんだ。