魔女狩り
ローゼンハイム領地は治安が良く奴隷制度に対してもローゼンハイム候は反対派である為に、人が通る道に奴隷の死体や魔獣の死骸がある事はない。
他の領地の奴隷制度推奨派の貴族などは奴隷を遊び半分で殺害したり魔獣狩りの餌にするので死骸や人骨が道にあるのは珍しい事ではない。
京弥自身も召喚された土地がローゼンハイム領地だった事もあり、まだ奴隷の悲惨な状況を目にはしていない。
異世界であろうが京弥が元いた世界だろうと弱者の命など強者にとっては無価値に等しい。自分の裁量で生き死にを決められる命を消す事などに殺した者は何も感じない。
戦争時において敵を殺す、奴隷を殺す事などただ自分の部屋に入ってきた蚊を殺す事と何も変わらない。意味も無いけどただ嫌だから殺す。それが現実だ。
ブラックを永続的か一時的かは京弥しだいだが仲間にする事に成功した京弥は、可憐とニックと合流して今後の話をしていた。
「2週間後に武器工場を襲撃するですか・・・。分かりました。
恐らくブラックが見取り図や逃げ道など襲撃に必要な物は全て用意してくれるでしょう。
なら俺は襲撃に役に立ちそうな仲間を集めて来るとします。
また10日後に合流しましょう!」
ニックはこの世界に希望が見えてくるのかもしれないと期待している様子だった。新しい何かを発見した子供の様に目を輝かせている。
「そうだな。戦力が必要にはなると思う。
だが命を無駄にはしたくない。出来うるかぎり楽に勝って楽に逃げよう。
それが利口な戦いだ。」
京弥がそう言うとニックはニコリと笑い「はい!」と大きく返事をして去っていった。
京弥の意向で一度集落に戻ろうと決まり徒歩で帰るより馬車をアイルークで調達しようと決まった。
可憐が馬車を用意してくるとアイルークに向かって数時間後・・。
「京弥さーーーん!おまたせっす!」
時計塔の近くの椅子に座っていた京弥と玲に向かって聞きなれた声が聞こえてきた。
「これからはニックさんの変わりに僕がお供するっす!御者ならお任せっす!得意っす!よくやるっす!」
騒々しい。大丈夫か?こいつが御者で?と頭をかく京弥を見て玲が微笑んでいる。
「大丈夫ですよ。少し賑やかですがランナーは馬の扱いは一流ですよ。それにグレイさんも得意って言ってますから心配ない・・です!」
「自分で得意って言う奴は得てしてたいした事が無いのが相場だけどな・・。まぁでも俺はまだ馬には乗れないからな仕方がないな。グレイ頼んだよ」
「大船に乗った気持ちっす!まかしてくださいっす!」
「沈没船じゃないと祈ってるよ」
馬車に乗り込み集落に向かう。少し揺れるが歩くよりかは数段早い。これなら早く着きそうだと京弥は安心した。
京弥は少し疲れていたのか馬車の中で睡魔に襲われ眠りについた。
味覚、触覚を抜いた五感に魔法力を施し精神力を使っていた京弥は想像以上に疲労しており深い睡眠についた。
「ぐっすり寝ていますね。こんなに深く寝ているのは始めて見ます」
可憐が京弥の顔を下から不思議そうに覗きこむように見ている。
「そんなにまじまじと見ては失礼じゃないかしら?」
「あれ?でもお姉さまだって京弥様の寝顔ずっと見てませんでした?」
「えっ?それは・・・その・・」
「あれ・・・?。冗談だったのに、ふふふふ」
玲は顔を真っ赤にして下を向いてしまった。その姿をみて可憐が嬉しそうに微笑んでいる。
それから数時間は玲や可憐にとっても休息だった。
有翼人の町に訪れると言う事はいつ戦いになってもおかしくはない状況だった。現にアイルークは警備状況は警戒態勢だった。
京弥の存在はもちろん召喚士の存在を見破られてはすぐに戦いに発展してしまう為に常に臨戦態勢だったのだ。
玲も可憐も京弥に続いて仮眠をとった。
「!!!!」
京弥が急に起きた。声が聞こえた。
「・・・・お兄ちゃ・・・痛・・・助け・・・」
京弥は立ち上がり馬車から顔を出した。御者していたグレイが急に京弥が顔を出したので手綱をしぼってしまい馬車が揺れている。
「どうしたっすか!?まだ集落じゃないっす!」
「・・・声が・・後どれくらいなんだ!?」
「うーん・・ここから急いでも30分くらいっす!」
京弥は深呼吸というより匂いを嗅ぐ為に深く鼻から息を吸う。
「知ってるぞこの匂い・・・人が焼ける匂い・・血の匂い・・俺は知ってるぞ!!」
京弥が興奮状態に入った事を察知して玲が傍によってきた。
「どうしました?私にも可憐にも何も聞こえませんが・・なにか聞こえたのですか?」
「あの子達の声が・・・行かないと・・。
玲!すまない。俺は行くぞ!」
そう言うと京弥の身体全体の血管が白く光始めた。全体の光は薄いが、足から脹脛にかけて強く発光している。
「いったい何が・・・?京弥様?」
十代にしては何事にも動じない強い精神を持っている玲であったが何が起きたか理解出来ずに京弥を見ている。
「可憐!玲を頼んだぞ!」
そう言い放つと京弥は光の如く集落方向、正確には助けを求めた声が聞こえた方向に消えていった。
馬車で30分かかる道のりを数秒で目的地についた京弥が目にしたのは、今まで見た事のない風景だった。
首の無い死体、首をつられた死体。何かの拷問をうけた様にみえる肉片が飛び散った死体。
その全てがこの世界にきて始めて出来た知人の死体だった。
皆、救世主と京弥を崇め、希望を見出していた人達。
声をまったく出さずに一歩一歩前進して周りを見ている京弥。怒りや絶望など振り切ってしまいまるでそこには何も無いかのようにスタスタ歩く。
(俺のせいか?俺がここに来たから襲撃されたのか?)
まだ死体の血は乾いていなく、匂いも血の匂いしかしていない。死んで間もないと京弥は判断して「なら敵はまだ近くにいるのか」と聴覚をフルに集中した。
「あぁぁ・・・お・・に・・・ぃ・・」
目をカッ!!と見開き声の聞こえた方に走る京弥。子供の声だった。
集落を出る時に約束をした、ゆびきりをした少年。
民家のドアをバン!と開け声のするほうに駆け寄るとそこには子供が椅子に縄でくくりつけられていた。
椅子に座った状態で耳は切り刻まれ、目をくり抜かれ、手と足の指がつぶされていた。
必死に冷静に心を保とうとしていた京弥だったが、プチっと何かが弾けた。
「・・・・おに・・・お・・・」
かすかに聞こえる声に京弥はゆっくりと近づいた。
子供の前まで京弥がきた刹那、子供の身体が赤く発光し即様爆発した。
その民家が消滅するほどの大きな爆発だった。
「隊長、集落に仕掛けた人間地雷に何かがひっかかりました。」
「まだ下人がいたのか?それとも魔女か?確認しにいくぞ!」
魔女狩り部隊。有翼人による特殊部隊。
10名の小隊で全員が有翼人の兵士の中でも優秀な兵士。
魔女狩り部隊は薄気味悪い仮面をつけ黒い戦闘服に身を包み、魔女を殺す為ならどんな非道な事でもする。
そんな部隊が京弥の反応が消えた周辺捜査をしていた。魔女狩り部隊だからこそ結界に守られた集落でも簡単に見破り、集落を壊滅させた。
魔女狩り部隊が、爆発があった民家の周りを無言でジェスチャーのみで取り囲む。
部隊の一人が火と煙の中の状況を確認しようと近づくとその瞬間、胴と足が分断された。肉体が2等分になった。
分断された胴の頭を掴み地面に叩きつけた煙からでてきたマントに身を包んだ男、京弥だった。
部隊はすかさず戦闘態勢にはいり京弥に発砲した。
京弥はその全てをよけ一番近くにいた兵士の心臓を一突きでえぐりとった。その手の血管がまるで刻印のように白く発光している。
京弥の身体は減摩のマントに覆われているがその隙間から見える顔は目の付近の血管が白く発光そして肘から手の先の血管と太ももから足の指先までの血管が刻印の様に白く発光している。
「違うな・・・こうじゃない・・・あの子は目が・・・」
小さい声でぶつぶつと喋る京弥。その周りを部隊の4人が近接攻撃そして残りの4人が中距離から狙撃をし始めた。
だがそのことごとくを京弥はかわした。背後に目がついているかのように近距離攻撃を全ていなし、また一人の兵士の顔を掴み地面に叩きつけた。
そして目に爪を突き立てた。ズブ・・ズブッッと目に爪を突き刺していく京弥。
ここまで悲鳴1つあげなかった兵士だったがここで叫び声をあげた。
「ぐがががぁぁぁぁ」
悲鳴にものともせずもう1つの目を潰す京弥。潰し終えるとそのままトマトを潰すが如く頭を地面に叩きつけた。
さすがの異常事態に隊長らしき男が声をあげた。
「なんだ貴様は!?・・・まさか・・これが光の戦士か?・・・幼子じゃないのか?」
「幼子?今回は大人だったみたいだぜ。残念だったなそしてお前達はここで死ぬんだ」
「・・・・くっ!死ぬのは貴様だ!各員一斉攻撃。こいつはここで始末しないと災いになるぞ!」
魔女狩り部隊は一斉に京弥に近接攻撃を仕掛けた。エリート部隊なだけあり正確に京弥の肉体を破壊しにいくが、どれも今の京弥には無駄だった。
視覚と聴覚に施された魔法力によりその全てがスローに見え、身体その物が魔法力によって剣となった京弥には近接攻撃など無意味に等しかった。
一人・・・また一人その全ての敵の目を潰してからあるいは手と足を潰してから最後まで京弥を呼んでいた子供の痛みを味あわせて殺していく。
そして最後の一人になった。
「おまえがこの部隊長だな?」
「・・・貴様!!よくも私の部隊を!私の部下を!この下人風情がぁ!!!」
そう言って叫ぶ口を一瞬で間合いをつめ、塞ぐ京弥。
「うるせえよ。お前には役目があるんだ。俺の強さをお前の主に伝えろ。
そして国全体に知れ渡らせろ。神が如く力を持った戦士が下人の仲間になったとな。」
そう言いながら京弥は部隊長の頭に爪を突き立てた。ズブズブと頭に爪がめり込み爪が発光している。
「人間地雷のお返しだ。さぁ国にかえれ下衆が」
「あ・・あがぅぅぅ・・あ」
部隊長は千鳥足で歩きながら逃げていった。
そして京弥は民家が爆発した場所。子供の肉片がある場所に戻った。子供の肉片を集めていると玲達の乗った馬車が到着した。
「京弥様!!」
玲が駆け寄ると京弥は生気を失った悲しそうな顔で玲を見た。すると玲はニコリと笑い
「・・・京弥様。お顔に血がついていますよ。」
京弥の顔についた血を、ポケットにいれていた布で丁寧に拭く玲。何も聞かなかった。
その姿と集落を取り囲む死体をみればなにがあったかは一目瞭然だった。
「・・・玲。皆の死体を集めたいんだ。このままじゃ可哀相だ。身体を焼いてこの世界から開放してやらないと」
「・・・わかりました」玲はまた京弥の顔を見て微笑みながら言った。
玲と可憐とグレイは集落の死体を1つの場所に集め始めた。
誰が誰だか分からない死体ばかりだった。グレイはむせながら死体を集め、玲と可憐はまったく動じず死体を集めた。小さい頃から当たり前に見てきた光景かのように。
「うぅぅぅ。むごいっす。こんな殺し方ないっす。成仏するっすよ・・」
グレイが涙を浮かべ火をつけた。
玲と可憐は召喚の儀式の時のように祈りを捧げている。玲と可憐が祈りを捧げると燃え始めた死体から魂が抜け出す様に天に昇り始めた。
やがて集めた肉体は灰になり、そこに京弥は静かに歩み寄った。そして方膝を地面に着け灰を握りしめた。
「お前達の希望は俺が持っていく。お前達の魂は・・願いは・・必ず」
これ以上は言えなかった。約束や誓いを必ず守ると決めている京弥には安易に言葉には出来なかった。
だがこれで充分です。と天に昇る魂は言うかのように美しく昇天されていった。