安息地
京弥一行が集落について2週間が過ぎていた。
この集落には人口が約40人程住んでいる、有翼人に見つかれば即移動せねばならないので家などもテントの様な簡易的なつくりだ。
集落の周りを上空から見つからない様に結界が施されていて、結界の維持に使う魔法力はそれほど多大な力は使わず下人であっても死には至らない。
その集落の一角で毎日の様に鍛錬に励む京弥と可憐がいた。
「はぁ、はぁ・・どうだった。今のは?」
地面にドサッと倒れこむ京弥が可憐に問いかけた。京弥の身体はあざだらけになっていて顔にも複数の切傷があった。
「そうですね~。飲み込みはとても早いですがまだまだですね!」
そう言ってニコリと華麗に微笑む可憐がいた。
可憐の格闘技術は有翼人、獣人の軍人にも引けを劣らぬ格闘技術を持っており、幼い頃から召喚士として抜群の才能を持つ姉を守る為にその技術と魔法のスキルをみがいていた。
京弥の肉体は普通の人間と変わらぬ身体能力だった。
運動センスは高めだった為に飲み込みは早かったがこの世界で生き抜く為には物足りない身体能力だ。
その為、圧倒的ともいえる魔法力をどう使用していくかが京弥の課題であった。
魔法は使用者の属性とイメージ、そして魔法力で形成される物であり、型など決まった詠唱などはない。魔法を使用すると陣が空間から生まれそこから魔法が発動される。
火属性の使用者ならば殺戮行為に使用する際は陣から火炎放射が放射され敵を焼き尽くす、その熱量や炎の大きさが魔法力によって決まる。
イメージ力と精神力が高い使用者であるならばそれを投下型爆弾や地雷などに使用する事が出来る。
京弥の集落についてからの主な日々は身体変化の確認と身体強化、そして魔法の基礎知識と精神力とイメージ力の強化であった。身体強化は可憐が、魔法の基礎知識は玲が担当して残りの時間で世界情勢などを学んでいた。
「さてと、今日は魔法発動の基礎知識を玲に教わるんだったな・・。イメージって言っても中々難しいんだよな」
「京弥様ならすぐに覚えられますよ!なにせあの膨大だった魔法力を一瞬で隠してしまうのですから!」
「そうは言っても隠そうとして隠した訳じゃないんだよ、あの時は自分の精神を落ち着かせようとして色々考えての副作用みたいなもんだ。それに魔法の鍛錬って言っても無駄な魔法は使えないからな・・まぁでものんびりは出来ないからな頑張るよ」
「はい!頑張って下さい!」
可憐の声援をうけ、玲の待つ結界が通常より多めに施されている一角に向かう。
玲はそこで今後着るであろう京弥の衣服や減摩のコートを見繕っていた。
その全てを魔法による刺繍で作る為に自分の魔法力を隠す事が出来なくなる為に結界を何重にも重ね、敵に感知されない様にしていた。
「今日は何を作ってるんだ?」
「・・京弥様、可憐との鍛錬は終わりですか?お疲れ様です。今日は肌着に魔法の刺繍をしている所です。」
「なんか・・・あれだな。嫁さんみたいだな」
「よ・・よ・・嫁!お・・おやめください。私などは分不相応です!京弥様に私のような者が・・」
「・・・まぁ気にするな。思った事を言っただけだ。でもな俺はまだこちらに来て日が浅いし、そんなに数多くの人と話をしたわけじゃないけど、皆自分を卑下しすぎだ。いいか、全ての命は全て対等であって上も下も無いと俺は思っている。人それぞれ考え方はあるだろうが、私のような者がなんて言うなよ」
「ですが・・・私は・・」
「俺の知る限りお前は強くて立派だよ。それに肉体が無かった頃に見えた玲の魂は綺麗だった」
玲は顔を真っ赤にして下を向いてしまった。
宿命、召喚士として生まれ多大な魔法力も持っている。下人の希望になるのは必然だった、その命を皆の為に使うのは当然と言わんばかりのプレッシャーの中生きてきた。
立派などと褒められたのは生まれて初めての経験で玲は戸惑いを隠せなかった。
「さ・・さて始めましょうか!今日は魔法力と精神力による具現化をお教えします!」
「・・・了解。」
訓練を始めてから約2週間で京弥は魔法発動に対する基礎知識を覚えていた。
魔法で戦う者はまずは敵の攻撃を防ぐ為にまず防御対策をする。
だが全身に防御を施すのは集中力と精神力を多大に使う為に腕なら腕、頭なら頭と瞬時に防御する場所を変えるのが優れた軍人の戦い方であった。
それが行えない者は魔法力が込められた軍服や鎧を身に纏い戦う。
京弥はこの2週間で知った事は肉体は今までいた世界と同じである事、つまり油断すればすぐ死に至る。生存する為には魔法による肉体の強化、防御力の向上だった。
そしてこの2週間で魔法力による肉体の強化は成功していた。常人なら何年とかかる工程を2週間で覚えてしまった事に玲や可憐は驚きを隠せなかった。
ただ常時発動する事は魔法力の高い京弥にも不可能なので油断は禁物だがとりあえず自分の身は自分で守る事ができると京弥は安心した。
この集落には年配者がいない。
集落というよりかは下人自体に年配者はあまりいない。理由はそれだけ長生きができないのだ。集落を離れれば森には魔獣が溢れ、町に行けば下僕や奴隷として扱われる、その様な種に長生きなどできるはずも無い。
圧倒的に人口が少なく、そして力も弱い。
この様な状況で京弥は何が出来るか考えていた。集落について1ヶ月が過ぎようとしていたある日、京弥は玲と可憐に話があると呼び寄せていた。
「ここに来てからそろそろ1ヶ月だ。まず第一の課題だった自分の事は自分で守れる力はある程度だが得たつもりだ。それに世界情勢についても少しは分かってきたつもりでいる。それで聞いてみたかったのだが玲や可憐に今後のプランとか下人の奴隷解放や自由を手に入れる為に何をする!みたいのってあるのか?」
「・・・えっと・・申し訳ございません。私はとにかく白き魂の召喚を最優先に考えていたので、何をどうするなのど詳細なプランなどを考えた事はありません・・ごめんなさい」
「いやいや、謝る事じゃない。聞いてみたかっただけだ」
「私は、京弥様の圧倒的な力で皆を導き、有翼人や獣人を倒す!がプランです!」
「うーん。倒すって殺すって事か?仮に、はむかう者全て絶滅させてどうするんだ?」
「えっ?えっと・・それは・・・」
「俺がこの魔法力使って大量虐殺して敵を脅えさせ奴隷を解放しろ!!って行動したら敵さん簡単に開放してくれるかね?戦争ってそんな単純な物じゃないだろう。それに俺の最大の願いは最初と何も変わらない、元の世界に帰るだ。だからそんな行為をして得た自由で俺がいなくなった後どうするんだ?」
「それじゃあ駄目なんだ。あくまで今いるお前達がお前達の力によって自由と平等を手に入れないと意味が無い。その為には何が必要か分かるか?」
「えっと・・・申し訳ございません。私にはわかりかねます」
「まずは拠り所として宗教的に神として俺の存在・・救世主か・・それが媒体として団体をつくる。そして国をつくり力、つまり軍隊をつくる。そこからだなまずは。だがまずは軍隊つくろうにも力の差は歴然じゃ人は集まらない。各地にいる奴隷や集落に隠れている皆にきっかけとなる力を見せないと行けない。それが何かを最近ずっと考えているんだがどーしたものかとなぁ・・」
玲と可憐が目を輝かせながら話を聞いていた。
今までこの兄弟の周りには未来を話す、今後どうするかを話す者などいなかった。
未来を託す者しかいなかった。白き魂を召喚して私達に祝福を!が皆の願い、それだけを聞かされてきた二人にとって京弥の話は楽しかった。
「それでな・・考えたんだが、今の俺なら簡単に有翼人にもばれないと思うから有翼人の町や都市に行ってみたいんだ。武器や文化や生きた情報が欲しい、それを見てまた考えていきたいんだがどうだろう?」
「私は・・・京弥様の行く所全てに着いていきます。危なくなったら命を賭して京弥様の盾となります」
「私もお姉さまと気持ちは一緒です。ですがお姉さま死なせませんよ!私が守るんですから!」
「盾とか守るとか・・本来なら男の俺の台詞なんだがな・・まぁ了解。じゃあ旅の準備だな!」
その日の夜に集落の皆にここを離れると伝えて旅の準備を始めだした。
これからいわば潜入するのだ、あまり仰々しいのは得策ではないと護衛をしてくれた神官達に説得をするとしぶしぶだが納得してもらい三人での行動になった。玲や可憐は準備に忙しそうだが京弥は特にやる事もなく集落で子供達と話をしていた。
「ねーねー直ぐにもどってくるの?」
「そうだな~二週間ぐらいかな、俺がいないと寂しいか?」
「寂しくなんかないもん!お兄ちゃんが心配なんだよ!」
おいおい子供に心配されてるぞ俺・・と京弥は苦笑いをした。まぁそれだけ白い魂を持った者を皆心待ちにしていて、やっと現れた希望を亡くしたくないのかと思った。
「そうだな!皆に心配かけちゃいけないからな!元気にすぐ戻ってくるぞ!」
「約束だよ。お兄ちゃん!」
「あーー、僕も約束したい!指きりー!」
子供達に囲まれ談話をして少し寂しくなった。皆元気でいるだろうか?母さんや彼女は悲しんでないだろうか?俺は帰れるのかな・・・?京弥は空を見上げた。
「なんかこっちきてから空ばかり見上げてるなぁ。俺はこんなにも弱い人間だったのかな・・?くそったれ」
「どーしたのお兄ちゃん?泣いてるの?」
「・・泣いてないよ。そん心配そうな顔するな、俺がお前達が皆笑える世界をつくってやるからな」
「・・うん!」
明日この集落を出発する。そして俺はこの日からもう軽々しく約束などしないと誓った。




