出会い (2)
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「あなたがこういう飲み会に参加するような人だと思わなかったから、驚いた。お酒、好きなの?」
そう言って、彼女は僕に話しかけてきた。
「あまり飲めないけれど、好きだよ。」
僕は気取ったように日本酒の注がれたおちょこを持って、静かに彼女に向けて掲げた。少し、酔っているのかもしれない。
「二十歳になったばかりなのに日本酒を飲むなんて、珍しい。」
「そういう君も、なかなか他の人が飲まなそうなグラスを持っているじゃないか。」
「わたしは芋焼酎。好きなの。ただしビールは飲めない。」
「それ、僕のことを珍しいって言える?」
僕がそう言うと、彼女は笑った。否定する気はないらしい。
「まぁ、誰が何を飲もうかは勝手だし、好みの問題よね。わたしたちはもう二十歳を越えている。」
「でもなんで芋焼酎が好きなの?」
「わたしを飲みに連れていってくれた先輩が、よくこれを飲んでいて、わたしも気に入ったから。」
「へぇ。」
僕は何も考えずに彼女の話を聞いていた。少しふわふわする。
「あなたはなんで日本酒を?」
「母がたまに飲んでいるから、家にあるんだ。」
「実家で暮らしているのね。」
彼女はグラスを傾けて芋焼酎を飲んだ。
「君は一人暮らしなの?」
「そう。田舎から通える大学なんて、わたしの頭では通えるようなところがほとんどないから。」
「一人暮らし、大変じゃない?」
僕は彼女を見ながら聞いた。
「最初は大変だった。わたし、怠け者だから実家でほとんど家事を手伝ったことがなくて。今はもう三年目だよ。だから初めの頃よりは要領はよくなったと思う。」
至って真面目な顔で自分は怠け者だと言い放つ彼女が、なんだか可笑しくて、僕は思わず声を出して笑ってしまった。
「何かおかしかった?」
急に笑った僕を彼女は不思議そうな顔で見た。
「いや、自分のことをそんなふうに真剣な顔で怠け者だって言ったことが、なんだか可笑しかった。」
「そうかな?でも実家で暮らしてるのに洗濯に炊事の基本的な家事を手伝わないなんて、怠け者でしょう?自分のことをちゃんとやらなくていい環境なんて、結果的に誰かの優しさに甘えてばっかりでろくな大人にはなれないなって思ったの。だからわたしは家を飛び出してきた。あなたは実家で暮らしているって言ったけれど、家事をちゃんとやる?」
「やっているよ。うちはみんな忙しいから、みんなそれぞれ助け合ってやっている。」
その答えを聞いて彼女は満足そうにうなずいた。
「さすがね。」
僕は家事をやることが幼い頃から当たり前のことに思っていたから、彼女にそう言ってもらえて少しうれしかった。
「そうやって助け合えるような関係を築くことができることは大切だと思う。例えそれが忙しさから来たものだとしても、相手を大切にできる気持ちを持てなかったら、続かない。」
彼女はしきりに感心して、グラスを傾けながら熱っぽく言った。もしかして、少し酔っているのか?僕はそんなふうに褒められ続けて恥ずかしくなった。
「そうかな。」
「絶対にそう。だって、嫌だと思っている人にそこまでの優しさや思いやりは持てない。もしできたとしても、密かに相手からの見返りを必ずどこかで求めている。それが得られなければ、いずれ不満が爆発する。」
僕は彼女の話に納得してうなずいた。確かに、それは一理あるかもしれない。
「だけど、たまにはちゃんとお互いに感謝し合った方がいいわ。そんなふうに昔から続けているのなら、家事を分担してこなすことが当たり前の習慣になっていると思う。でもそこで感謝されたら、自分の日頃の行いを見つめ直すことができる。そして、それを言ってくれた相手のことも、考えられるようになる。そしてまた、自分のために、相手のためにといい関係を続けられる一つの中間地点になる。」
そんなふうに彼女は話し続けた。彼女の言う通りだ。僕は自分の行動や家族がやってくれることが当たり前になっていた。そして少しふわふわする頭で、家族に一度感謝の気持ちを伝えてみようかという気になった。自分とは違う視点というのはなかなかに興味深い。
突然、彼女は僕の胸元を指差した。
「それ、お揃いだね。」
彼女はもう片方の手で自分のアクセサリーを持って、僕に見せて笑った。彼女と僕は偶然にも同じアクセサリーを身に着けていた。
そのアクセサリーは鍵の形をしたチャームに革ひもが結んであるネックレスだった。鍵のサイズは大人の小指くらい、ピアノの鍵によく似ていて、色は黄土色をしている。
「まさか男の人とお揃いになるとは思っていなかった。それ、どこで買ったの?」
「覚えていないな。雑貨屋だと思うけれど。」
「わたしはよく行く服屋で買ったんだよね。そんなに量産されているようには見えなかったから、意外。しかもそれ、元々ついていた紐が切れてしまって、新しく紐だけ買ったんだ。」
「この紐が?切れることなんてあるんだね。」
「もしかしたら店によっては紐の質が違うかもしれない。でもほら、この鍵、意外と重量があるでしょう?」
「うん。着けていて確かに重いなと思うときはあるね。」
「わたしはこの鍵、気に入っていてもう何年も着けているから、その重量に紐が耐え切れなかった。」
「切れた時、失くさなくてよかったね。」
「本当に。失くしたら絶対ショックだ。これ、この位置にあるの落ち着くよね。」
彼女は自分の胸の前に下がっている鍵をそっと左手で握ってつぶやいた。
「なんだか心の鍵を持ち歩いているみたいで。」
僕は少しぼんやりしながら、うつむいている彼女の姿を見ていた。ここでなんて答えたら彼女に気に入ってもらえるだろう。
「もし君がその鍵を失くしたときは、僕の持っている鍵で開くかな?」
うつむいていた彼女がはっと顔を上げる。その瞳が少し揺れ、そのあとでまたまっすぐに僕を見た。
「それは、わたしたち次第だと思う。」
それが、アカリと僕、ナオの出会いだった。