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1週間ぶりに腰掛けたパイプ椅子から天井を見上げると、前と変わらず張り巡らされた鉄骨にバレーボールが2個ほど挟まっていた。


体育館にひしめき合う生徒。

ステージ側から見て手前が1年。

私は1組女子なので先頭から2番目だ。

それから間隔を空けて2年と3年が座っている。

1クラスに40人が5クラス。

それが3学年だから……600人?

大の人混み嫌いだということを思い出し頭の中で首を振る。


周辺を見渡せば隣同士で和気あいあいと話す者、読書をする者、教師の目を盗んでスマホを操作する者がいる。

ザワザワザワと言葉に表現出来ないものが耳にこびりつく。

昔伯父に連れていかれたパチンコ店内の喧騒を希釈したような。

音という概念をなくした集合体が洪水となって私を飲み込んでいく錯覚に陥る。

テレパシーで交信できたら……なんて浅はかな想像をしてみたり。



気持ち悪い。



フォーーーーン

「はい。時間となりましたので始めさせていただきます。」



軽いハウリングのあとに指導担当らしき教師の発言が備え付けのスピーカーから流れる。

生徒全員口を閉ざし、その瞬間私の不快感がピタリとなくなる。


「ただいまより、新入生歓迎会を開催致します。まず始めに校長あいさつ。校長先生お願いします。」


よくある段取りの校長の話を斜め聞きしながら、この高校のことを改めて考える。


私立らしく外観と内装は綺麗で母親曰く「お城みたい」だそうだ。

いやいやいや、それは大袈裟すぎる。


中堅企業のサラリーマンの父とパートタイマーの母、2歳年下の妹という平凡を絵に描いたような家庭に育った私。

中学の空気を受け入れられない思いを引きずりながら、どうにかして通っていたが中2の秋に耐えきれなくて玄関で泣き叫んだ。

当時の担任と相談し保健室登校を許可してくれたが


「閉じこもっていても何もならないだろ?」


その言葉で教師が大嫌いになった。


所詮他人事なんだ。面倒ごとに背を向けたくなる人間。

もう信頼なんかしない。

そっちがその気ならとことん抗ってやる。


中3になり受験を意識し始めた6月、母親がこの高校の受験を勧めてきた。


スポーツ推薦と成績優秀者の特待制度。


運動はからかいの原因になるほどできないが、勉強はそこそこの成績をキープしていた。

だから努力をして2学期の中間テストからは全ての教科で学年1位になった。


別室で受けていたので周りからカンニングを疑われたが、保健医や監視役の教師もいたからそんなことできるわけないでしょ。

バカじゃないの。


そんなわけで無事入学金と施設維持費の免除を獲得した私は晴れて高校生となった。


地元から離れている点はもちろんだったが、部活は強制でないし何より物心つくころから夢だった職業にチカラを入れているところに魅力を感じている。


合格発表で掲示板に入試の成績も番号と合わせて張り出されていたが私の順位は2位だった。

苦手な社会と英語が95点で他は満点だったから、悔しさ半分諦め半分だった。


入学2日目に受けた小テストも2位で1位の人間はすっかり持て囃され私は蚊帳の外。



確か名前は……。




「続いて新入生お礼の言葉。1年生起立!」


いつの間にか淡々と進行しているのに気づき慌てて席を立つ。


「新入生代表 、1年1組真黒(まくろ) (あかし)。」


「はい。」


教師に呼ばれ通った声で返事をしたその男は、ステージ脇の階段を上り待機している校長と演台を挟んで対面する形をとる。


校長自らがマイクを生徒側に向ける様子は場違いながらクスリとしてしまう。


「真黒くん頑張ってー!」


制服の内ポケットから封筒を取り出す間、後ろの方で女子2人の声がした。

その声に驚くことなく落ち着いた様子で真黒くんは後ろを振り返り笑顔で手を振る。


「キャー!」


応援をした2人のみならず、一部の女子が歓声をあげた。

すぐさま教師がたしなめちょっとした騒動はおさまった。


彼は全てのタイミングを見透かしたように軽く咳払いをすると式辞を始めた。



そうだ。マクロ アカシだ。



勉強のみならず運動も学年歴代記録を塗り替える完璧人間。

だからといってクラス委員の推薦は「小学生か?」と内心突っ込んだが引き受けてしまう方も少しどうかと思う。

性格は明るく社交的で生徒のみならず教師にも人気がある。

内容は覚えていないけど私にも何度か話かけてきたっけ。

テレビを付けるたびに出演しているアイドル集団並みの顔立ちをしているものだから校内で1番のイケメンらしい。


「らしい」と曖昧なのは、ウワサ好きのクラスメイトが大声でベラベラ話していたのを聞いただけで事実か定かでないから。


「もう少し身長があれば最高だよねー!」


とさらに高望みしている様は呆れを通り越してある意味尊敬してしまう。

少女マンガのキャラクターのような位置づけに近いものだとしたら多少気持ちはわかるが。


まぁ、成績争い以外は関わらなそうだ。

向こうはそのつもりないんだろうけど。


私の思考がひと区切りし、意識を彼の背中に向ける。


「生徒一眼となって勉学や運動に励みますので3年間よろしくお願い致します。平成〇〇年4月15日 新入生代表、真黒 燈。」


用紙を封筒に入れて校長に両手で渡し、あらかじめ教わったのであろう動作で様々な方向に一礼する。

ステージの階段を降り自分が座っていた椅子の位置まで戻る。


注意されただけあって女子の声はしなくなったが視線は真黒くんに一直線だ。

名前順に並んでいるので必然的に私の前を通る。




---チッ。



ん?何か音がしたような。

まさか舌打ち?




誰?

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