サンタクロースは苦労という名の頑張った時だけ来ると、子供に伝えてくれない
『竜彦。これ、プレゼント』
それが覚束ない子供時代に、母親からのプレゼントだった。
『12月24日はサンタが来る日。いつも、あなたが欲しがっていた物が届く日なの』
『え?かーちゃんからもらう形なのに?』
『サンタさんが家に来て、私から渡すように言われたの。細かい事は気にしない』
嘘もテキトー具合。いずれは面倒になる。
当時はただただ良い日と思い上がっていた。お菓子が普段よりも多く、ゲームしている時間も、遊びすぎている時間も、快く許してくれたものだ。
『サンタは1年間。あなたの事を見ているの。だから頑張ったかどうか、プレゼントを渡すか決めるの。頑張っていないのなら、プレゼントは届かない。よく覚えてね?』
『ふーん』
なんで、サンタがそんな事を把握できるのか。分からなかったが、目の前に待ち望んでいたプレゼントがあったらかぶりつき、1年に1回しか現れてくれない一般的なルールを言われても、覚えるわけもなく。
やがて、そいつの正体を知れば。あー、なるほどねってなる事もある。
でも、そんなルールが普通じゃないって、思い知る現実もある。
◇ ◇
そして、現在。相場竜彦も立派な男子高校生。
願いというより、悲痛に。
「彼女くれぇぇーーーー!!」
という大絶叫で、親友と一緒にこの時期。虚しく集まっている。
「母親に彼女にやってもらえば?」
「ふざけんな!ババアだぞ、あれ!舟、お前は悔しくねぇのかよ!!」
「ジョークに決まってんだろ」
高校生活に部活に、バイトと大忙しにしときながらも。やはりこの記念日は隙間を寄越す。特に夜過ぎても良いように、翌日のお昼まで予定は入れていない。
お酒だってバッチリいける。(未成年の飲酒は止めようね)
ぷはぁっ
「クリスマスデートスポットに、缶ビール。野郎が2人……虚しいーーー!!」
「坂倉の奴は迎ちゃんと秘密のデート。四葉も川中さんと良い感じと聞く」
「くそーーー!なんで!モテるんだよ!?」
「イケメンのステータスは強いな。だが、相場。なんで俺達がこんな夜、悲しみの約束をしたか。忘れたか?」
「言うな。ふざけんな!お前と一緒に過ごした事実をふっ飛ばしたい!!」
「馬鹿野郎!すぐに終わるさ!最近のステータスは金なんだよ!どれだけバイトをし、要らない古本を集めてメルカリで売ってきた!?溜まった財源、合わせて30万円以上!!」
この日、俺達は出会い系をするといったろう!!
「あ、やばい奴じゃないぞ。クリスマスに暇な男女が集まって、飲み食いしようってだけだ。そのはずだ。俺も初めてだからドキドキしてる」
「かっこよくもねぇのに、服装だけはおしゃれしやがって」
出会うまでに互いに出会い系に1万ずつ振込み。違反があれば、催促状なりを出すという。
そこからあとは時間まで、各々自由とのこと。
「年上らしいが、同い年設定にしちまった」
「そうでもなきゃ、酒も飲めねぇ……!お、舟。もしかして、あの2人じゃないか?」
男2人の待ち合わせと同じく、女2人も待ち合わせての合流。
「あ、もしかして。相場くんと舟くんかしら?」
「お待たせしてごめんなさい。私が衛口、彼女が尻沢」
「こ、こ、こちらこそ!よろしく!俺は舟で」
「俺が相場です!!」
2人とも社会人らしく。高校生にはない、大人っぽさ。オフィスの受付嬢雰囲気がたまらない。こんな2人に彼氏がおらず、こんなところにやってきてくれるなんて、大興奮する男性2人。それとは違い、熱くなりながらも心は落ち着く女性2人。
「さ、さっそく行きましょうか。良い感じの、店。とっているんで!」
やべぇ、俺達、大学生とか嘘ついてるけどさ。
外見は俺の中100点満点中87点の高得点!!これ、お付き合いまでいけないか!?
連絡先ゲットしてぇ。
「今日は時間まで楽しみましょう!」
いやー。これ絶対、良いクリスマスになるわ。思い出作るぞ。
出会い系最高ーーー!!
「ええ、そうしましょう」
うわぁー。やっぱりこいつ等、高校生だわ。どーする?尻沢?
一旦、割り勘の飯で。カラオケ連れ込む流れのAパターン?
「寒いから温かいところで、学生達の話がしたいね」
それが良いわね。私から誘ってあげる。
私達が出会い系と繫がってたとも知らなそうだし、金もそんなに持ってなさそうだしね。長い付き合いは無用よ。偽の連絡先を伝えましょう。
「私達も学生だったな。ちょっと前まで」
こいつ等が財布を失くした時の面。
バッチリ、撮ってあげよー。めっちゃウケるのよね。
こんな大事な日にさー!起こったらさぁ。笑いがもう止まらない。超メシウマ。
興奮の男性に対し、冷ややかな女性。誰もがそうというわけでもないし、悪意があるというわけでもない。そもそも男性達のペースの時は楽しいものだった。カラオケだって、3,4曲。酔った勢いと熱くなっている感情のまま、大盛り上がり。
相場と舟は、喜んで、踊ったクリスマスだった。
◇ ◇
「か、金がない……」
「お、お前もかよ」
朝になって気付いた時。
必死に貯めた金は一瞬で無くなったどころか、キャッシュカードも盗られ。女性達も消えていた。
「連絡先に繋がんねぇぞ!!」
「こっちもだ!……店の領収書もねぇし。やべぇぞ!金、完全に盗られてる!」
そんな簡単に吹っ飛ぶわけが無い。完全に全部やられた男達。
とんでもない悪女達とからんだ末にこのオチ。全てそうなるわけではないが、そーいう事例もあるものだ。よくよく思えば、高校生が頑張ってそんなサイトを使ったのも悪い。
楽しんだ夜から、絶望の朝となった2人。
これからまだまだ金を使うイベントがあったりするものの、それどころじゃなくなるほどだ。
情けなく、金もないため。家族に事情を説明し、迎えに来てもらう事に。嫌な事にカラオケの使用料金もこっちが全額。一文無しの自分達は出る事すらできない。めっちゃ危険な状態。
キーーーーッ
「あの、ここにアホ竜彦と馬鹿虎太郎がいるって、連絡があったんですけど」
「ああ。もしかして、その件。ご足労、どうも」
凄くむなしそうな顔で相場の母親がやってくる。どーいう面して会えば良いのか、分かったもんじゃない。気分は最悪な時だ。
「か、カーチャン……」
「ご、ご無沙汰してます」
「まだ体が無事なだけ良いわよ」
「ごめん」
ショックを受けすぎて、元気がないどころじゃないのも分かる。
タクシーに乗せるまでただただ暗く、謝るだけの息子とその友達。
「ふぅー」
なんてことをしてくれる。って怒鳴りたいところもある。でも、今はそんな言葉じゃない。あとでいくらでも冷やかせる笑い話になる。
息子がそんな事になっているから大袈裟過ぎるくらい、金を降ろして来ていた事を思い出す。
「竜彦」
「お、……な、なんでしょうか」
袋もなんもなく。現生で、タクシー運転手含め、全員、驚いた。
「遅いけど、サンタからのプレゼント。”来年”のね」
その額は財布に入っていた額よりも少ないけれど、精一杯の金だった。
「あんたが頑張ったからこーいう嫌な目にも合ってるの。サンタはちゃーんと見てるから、来年は良い彼女を作りなさい」
「…………カーチャン……。……ごめん、ありがとう。必ず、返す……絶対に……!」
「泣くな。馬鹿。どーでもいいし。舟くんにも、ちょっとあげる。あんまりないけどね」
女のありがたさというより、家族のありがたさより。
人と人が繫がる温かさを知れた、大切な一日になった。




