表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

今日から学校と仕事、始まります。②莞

サンタクロースは苦労という名の頑張った時だけ来ると、子供に伝えてくれない

作者: 孤独

『竜彦。これ、プレゼント』



それが覚束ない子供時代に、母親からのプレゼントだった。


『12月24日はサンタが来る日。いつも、あなたが欲しがっていた物が届く日なの』

『え?かーちゃんからもらう形なのに?』

『サンタさんが家に来て、私から渡すように言われたの。細かい事は気にしない』


嘘もテキトー具合。いずれは面倒になる。

当時はただただ良い日と思い上がっていた。お菓子が普段よりも多く、ゲームしている時間も、遊びすぎている時間も、快く許してくれたものだ。


『サンタは1年間。あなたの事を見ているの。だから頑張ったかどうか、プレゼントを渡すか決めるの。頑張っていないのなら、プレゼントは届かない。よく覚えてね?』

『ふーん』


なんで、サンタがそんな事を把握できるのか。分からなかったが、目の前に待ち望んでいたプレゼントがあったらかぶりつき、1年に1回しか現れてくれない一般的なルールを言われても、覚えるわけもなく。

やがて、そいつの正体を知れば。あー、なるほどねってなる事もある。

でも、そんなルールが普通じゃないって、思い知る現実もある。


◇       ◇


そして、現在。相場竜彦も立派な男子高校生。

願いというより、悲痛に。


「彼女くれぇぇーーーー!!」



という大絶叫で、親友と一緒にこの時期。虚しく集まっている。


「母親に彼女にやってもらえば?」

「ふざけんな!ババアだぞ、あれ!舟、お前は悔しくねぇのかよ!!」

「ジョークに決まってんだろ」


高校生活に部活に、バイトと大忙しにしときながらも。やはりこの記念日は隙間を寄越す。特に夜過ぎても良いように、翌日のお昼まで予定は入れていない。

お酒だってバッチリいける。(未成年の飲酒は止めようね)


ぷはぁっ


「クリスマスデートスポットに、缶ビール。野郎が2人……虚しいーーー!!」

「坂倉の奴は迎ちゃんと秘密のデート。四葉も川中さんと良い感じと聞く」

「くそーーー!なんで!モテるんだよ!?」

「イケメンのステータスは強いな。だが、相場。なんで俺達がこんな夜、悲しみの約束をしたか。忘れたか?」

「言うな。ふざけんな!お前と一緒に過ごした事実をふっ飛ばしたい!!」

「馬鹿野郎!すぐに終わるさ!最近のステータスは金なんだよ!どれだけバイトをし、要らない古本を集めてメルカリで売ってきた!?溜まった財源、合わせて30万円以上!!」


この日、俺達は出会い系をするといったろう!!


「あ、やばい奴じゃないぞ。クリスマスに暇な男女が集まって、飲み食いしようってだけだ。そのはずだ。俺も初めてだからドキドキしてる」

「かっこよくもねぇのに、服装だけはおしゃれしやがって」


出会うまでに互いに出会い系に1万ずつ振込み。違反があれば、催促状なりを出すという。

そこからあとは時間まで、各々自由とのこと。


「年上らしいが、同い年設定にしちまった」

「そうでもなきゃ、酒も飲めねぇ……!お、舟。もしかして、あの2人じゃないか?」


男2人の待ち合わせと同じく、女2人も待ち合わせての合流。


「あ、もしかして。相場くんと舟くんかしら?」

「お待たせしてごめんなさい。私が衛口えぐち、彼女が尻沢しりざわ

「こ、こ、こちらこそ!よろしく!俺は舟で」

「俺が相場です!!」


2人とも社会人らしく。高校生にはない、大人っぽさ。オフィスの受付嬢雰囲気がたまらない。こんな2人に彼氏がおらず、こんなところにやってきてくれるなんて、大興奮する男性2人。それとは違い、熱くなりながらも心は落ち着く女性2人。


「さ、さっそく行きましょうか。良い感じの、店。とっているんで!」


やべぇ、俺達、大学生とか嘘ついてるけどさ。

外見は俺の中100点満点中87点の高得点!!これ、お付き合いまでいけないか!?

連絡先ゲットしてぇ。


「今日は時間まで楽しみましょう!」


いやー。これ絶対、良いクリスマスになるわ。思い出作るぞ。

出会い系最高ーーー!!


「ええ、そうしましょう」


うわぁー。やっぱりこいつ等、高校生だわ。どーする?尻沢?

一旦、割り勘の飯で。カラオケ連れ込む流れのAパターン?


「寒いから温かいところで、学生達の話がしたいね」


それが良いわね。私から誘ってあげる。

私達が出会い系と繫がってたとも知らなそうだし、金もそんなに持ってなさそうだしね。長い付き合いは無用よ。偽の連絡先を伝えましょう。



「私達も学生だったな。ちょっと前まで」


こいつ等が財布を失くした時の面。

バッチリ、撮ってあげよー。めっちゃウケるのよね。

こんな大事な日にさー!起こったらさぁ。笑いがもう止まらない。超メシウマ。



興奮の男性に対し、冷ややかな女性。誰もがそうというわけでもないし、悪意があるというわけでもない。そもそも男性達のペースの時は楽しいものだった。カラオケだって、3,4曲。酔った勢いと熱くなっている感情のまま、大盛り上がり。


相場と舟は、喜んで、踊ったクリスマスだった。



◇        ◇



「か、金がない……」

「お、お前もかよ」



朝になって気付いた時。

必死に貯めた金は一瞬で無くなったどころか、キャッシュカードも盗られ。女性達も消えていた。


「連絡先に繋がんねぇぞ!!」

「こっちもだ!……店の領収書もねぇし。やべぇぞ!金、完全に盗られてる!」



そんな簡単に吹っ飛ぶわけが無い。完全に全部やられた男達。

とんでもない悪女達とからんだ末にこのオチ。全てそうなるわけではないが、そーいう事例もあるものだ。よくよく思えば、高校生が頑張ってそんなサイトを使ったのも悪い。

楽しんだ夜から、絶望の朝となった2人。



これからまだまだ金を使うイベントがあったりするものの、それどころじゃなくなるほどだ。


情けなく、金もないため。家族に事情を説明し、迎えに来てもらう事に。嫌な事にカラオケの使用料金もこっちが全額。一文無しの自分達は出る事すらできない。めっちゃ危険な状態。



キーーーーッ



「あの、ここにアホ竜彦と馬鹿虎太郎がいるって、連絡があったんですけど」

「ああ。もしかして、その件。ご足労、どうも」



凄くむなしそうな顔で相場の母親がやってくる。どーいう面して会えば良いのか、分かったもんじゃない。気分は最悪な時だ。


「か、カーチャン……」

「ご、ご無沙汰してます」

「まだ体が無事なだけ良いわよ」

「ごめん」


ショックを受けすぎて、元気がないどころじゃないのも分かる。

タクシーに乗せるまでただただ暗く、謝るだけの息子とその友達。


「ふぅー」


なんてことをしてくれる。って怒鳴りたいところもある。でも、今はそんな言葉じゃない。あとでいくらでも冷やかせる笑い話になる。

息子がそんな事になっているから大袈裟過ぎるくらい、金を降ろして来ていた事を思い出す。



「竜彦」

「お、……な、なんでしょうか」


袋もなんもなく。現生で、タクシー運転手含め、全員、驚いた。


「遅いけど、サンタからのプレゼント。”来年”のね」


その額は財布に入っていた額よりも少ないけれど、精一杯の金だった。


「あんたが頑張ったからこーいう嫌な目にも合ってるの。サンタはちゃーんと見てるから、来年は良い彼女を作りなさい」

「…………カーチャン……。……ごめん、ありがとう。必ず、返す……絶対に……!」

「泣くな。馬鹿。どーでもいいし。舟くんにも、ちょっとあげる。あんまりないけどね」


女のありがたさというより、家族のありがたさより。

人と人が繫がる温かさを知れた、大切な一日になった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ