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44話 攻める王子

★ 攻める王子


 王子の見せた一瞬の何かを訝しむワタシの横で、アスタフェルが腕組みを解いた。


「我らの仲を認めるとはなかなかお前は筋がいいな。砂糖菓子がごとき繊細で甘く溶けて混じり合う二人のせいっ」


 ワタシは彼の脇腹に手刀の切っ先を突き刺した。


「すみません王子様、ちょっと失礼致します」


 とアスタフェルの首っ玉に自分の腕を引っ掛けて、奴の頭を引き寄せた。

 半身だけで後ろを向き、こそこそと喋る。


「オマエさ、ワタシの計画を認めてくれたよな?」

「みっ、認めるって?」


 すぐ近くの空色の瞳が急な接近に動揺していた。白く美しい顔がさっと赤くなる。

 ……こういう素直なところは、正直にいうと、可愛い。


「ワタシがどんな選択をしようと、野望を叶えようと、オマエはワタシから離れない、と。言ったよな? 協力するって言ったよな?」

「協力するとまでは言っていないような」

「じゃあ……」


 ワタシは凄みをきかせるため、奴の顔に更に顔を近づけた。

 ビクッとして逃げようとする魔王の首っ玉を力で抑える。


「ここに来る前、真の名をもってオマエに命じたことは忘れてないよな?」


 彼は澄んだ空色の瞳で不可思議そうにワタシを見つめ返した。あまりにも純粋なその瞳に吸い込まれそうになる。

 ……って、そんなこといってられない。

 こいつ忘れてる。


「ワタシを一人残すっていうあれだ」


 彼の瞳にはっきりとした光が宿った。


「お前に命じられたことを忘れるわけないだろう。常に頭にあったぞよ」

「……言葉遣い変になってる。嘘つくときはもうちょっと隠せよ」


 思わずため息をつきつつ、アスタフェルを放した。

 ワタシは王子に向き直り、こほんと咳払いを一つする。


「あー、すみません王子様。やはりこいつの言葉遣いが気になって。まったく王子様になんていう口の聞き方を……」


 などと嘘も方便なことをいうワタシに、王子は微笑んでみせた。


「いえ、大丈夫ですよ。最初は面食らいましたが、慣れればどうということはありません。それにジャンザさんの大切な人ですし」

「大切ではないですね」

「酷い。俺はお前を大切におもっ――」


 半眼で睨むと、風の魔王は言いよどんだ。


「思って……思うんだが……本来の俺は……ジャンザは……それには……」

「ふふっ、こんなに仲がいいところを見せつけられるとやはり妬けますね。でも僕とジャンザさんてそこそこ古い知り合いなんです。また前みたいに頻繁に会いたいなあ。ね、アフェルさん?」


 アフェル、というのはアスタフェルの人間としての通り名である。もちろん王子にもこの名で紹介している。

 この王子の言い分、最近彼と会えなかったのはアスタが邪魔しているから……とでも思ったのだろうか。まあ半分くらいは当たりか。

 それにしても王子様、なんか怖いくらいにっこにこだ。


「う……む、まあ……。ジャンザはお前を随分買っているしな……第一関門は通してやってもいいかな……」

「本当ですか? 嬉しいな。あなた方の仲に割り入れるなんて。アフェルさんの公認ってことですよね」

「まあ、そういうことになるな」


 彼は虚ろな瞳で頷いた。


 第一関門突破、公認の仲、か。

 ワタシが望んだこと……。アスタフェルに押し付けたこと。

 覚悟をもって……。それをアスタフェルも受け入れてくれた。


 なのに王子を現実に前に据えてみると、なんだか胸の奥が、痒い。なんだこれ。

 ちくちくして、痒くて、変な感じ。

 覚悟が足りないのかな。アスタフェルにはあれだけ大見得きったっていうのに。恥ずかしい。


 もう一度、覚悟を。

 ワタシは師匠の仇をとるんだ。そのために王子様と結婚して、権力を持つんだ……。


 気を抜いたら王子様の前で胸を掻きむしりそうで、ワタシは膝の上でぎゅっと拳を握った。

 そんなワタシの隣で、アスタフェルはローテーブルから紅茶のカップをとり、一口のんだ。

 ゆっくりと、受け皿にカップを戻す。


「アーク王子、お前の覚悟を聞こう」

「なんでしょう?」

「お前は……足裏マッサージの激痛に耐えられるか」

「なにいってんのオマエ」

「俺は耐えきった。この魔王……いや俺が、泣いて懇願しても止めてくれなかった愛の激痛……。王子よ、お前に耐えきることができるか!」

「すみません王子様。おい、アフェル?」

「あの痛みに耐えることかなうというならば、俺はお前を認めようと思う。それがジャンザという女の(さが)を受け入れるというコフッ」


 ワタシはついにアスタの脇腹に手刀の切っ先を入れその口を封じた。

 彼の思わぬ言葉に素になってしまい、胸の痒みはもう引いている。


「黙れアホ。だいたいなにが激痛に耐えただよ。本気で泣き叫んでたくせに」

「だがお前は止めなかっただろう。お前の気が済むまで俺はお前が与えてくれる激痛に耐えたぞ。最後には気持ちよくなったしな」

「そりゃマッサージで悪いところを治せば気持ちよくもなるさ。痛くてもあれはマッサージ、体の悪いところを治す施術なんだからな。足裏にはいろいろな内臓と繋がった――まあいいや。なあアフェル。オマエ確か王子様に用事があるんだよな? いい加減実行してくれないかな」


 立てている計画はこうだ。

 アスタフェルが王子を連れ出し、ワタシが王子の飲み物に惚れ薬……というか、正体はただの強力な勃起薬だが、それを仕込む、と。

 結局整体の魔女が残したノートが見つからなくて、急遽作った作戦だったのだが……王子の尻のトラブルがもう解決済みである今、この単純な作戦に賭けるしかない。


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