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32話 魔女の献身の先にあるもの

★ 魔女の献身の先にあるもの


「確か一年ほど前でしたかしら、この街に新しい魔女が住み着いたと聞きました。それがジャンザさんだったとは知りませんでしたが……」


 つい口ごもってしまったワタシにかわり、夫人がアスタフェルの疑問に答えていた。


「では前任の魔女とやらはどこに行ったんだ?」

「死んだよ」


 ワタシがきっぱりと答えた。これは夫人に話させるような内容じゃない。ワタシたち魔女の話だ。


「だから魔女の家が空いてたんだ。ワタシはそこに住み着いた。旅をしているより薬草の研究に集中しやすいからね。前任さんは魔力を惜しみなく使う魔女だったみたいで、ずいぶん街の人たちに慕われてたみたいだ。それで早死にしちゃ世話ないけどさ」

「どういうことだ、それは」

「知らないのか? 魔女は魔力を使いすぎて早死にするのが運命なんだ」

「それは、お前も、なのか。ジャンザ……」

「そうならないよう頑張ってるところだ」


 でもこの驚きよう、本当に知らなかったらしい。まあ魔界の魔王じゃ人の世のことなんか知らなくたって仕方はない。逆にワタシだって、魔界には魔物がいっぱいいるくらいしか知らないし。


「魔女さんたちの献身には、本当に頭が下がります」


 後ろで夫人がしんみり言うのが聞こえる。

 夫人もだ。頭が下がるという感謝を口にするだけで、それをおかしいとは思っていない。魔女というのは魔力を人々のために使って早死にするものなのだと、その常識を疑ってもいない。

 ワタシはそれを、壊したい。


「ジャンザさん、気になっていたのですが……。アリアネディア様は……」

「随分前に亡くなりました。魔力の使いすぎで。魔女によくある死因です」

「そうですか……。いい方でしたのに、残念です……」


 夫人の消沈した声が、背後からした。


「奥様、さきほどからのお話ですと、師匠とお知り合いのようで……というかワタシのことも知っていらっしゃるようですが。大変失礼かと存じますが、ワタシはいつ奥様とお会いしたのでしょうか?」

「十年くらい前かしら。この歳になるとついこの間みたいな気になるけれど……」

「ワタシが七歳の時ということですね」

「アリアネディア様が屋敷に来てくださって、その時の女の子がこんなに大きくなって。アリアネディア様も……。やはり十年というのは長い年月なのですね」

「そうでしたか」


 師匠は一つのところにとどまることをしない、旅の魔女だった。いろいろな人と関わるのが好きだから、と言っていたっけ。

 旅の間に貴族の屋敷に招かれることも何度もあった。夫人もそのなかの一人だろう。


「主人が大の犬好きでね、それで犬を見ていただいたわ。でもわたくし……あの時、おかしくなっていてね。本当にあなた方には助けられたのよ」


 婦人の言葉に興味が引きつけられた。

 さらりと言ってのけたが、こんな上品な女性が自らを『おかしくなっていた』と称するなんて……。


「何があったというのだ、そなたにそのような言葉を使わせるような何が」

「すみません奥様、こいつアホなので丁寧な言葉遣いとか知らないんです。許してあげてくださいませんか」

「まあ……そんなふうには見えないのに」


 心底驚いたような夫人の声。そりゃ魔王だけあってアスタフェルは見た目だけなら上品だし威厳たっぷりだし美しいし……これでアホだと言われてもにわかには信じられないだろう。ワタシもそうだった。


「ちょっと待て俺だって丁寧な言葉遣いくらいちゃんとできるから。……エベリン夫人、その時なにがあなたにあったというのか?」


 丁寧か? これ。


「当時、わたくしは猫を飼っていました」


 夫人はアスタフェルの言葉遣いを受け流してくれる決意をしてくれたようだった。


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