17話 密会危機
★17 密会危機
王族専用図書館に入ったワタシたちは密会場所に急いだ。
人気のない図書館の最奥。
そこでワタシたちは――。
「エンリオ様、これはどういうつつつつもりで……」
「それは君のほうがよく知ってるんじゃないかな?」
本棚を背に追い詰められている十代中頃の少女を見つけた。
柔らかな琥珀色の髪をふんわりと肩にかけ、胸の前で本を大事そうに抱えたその風貌は本好きのご令嬢という感じだが――着ているのは紺色の騎士服。もちろん帯剣もしている。雰囲気には合っていないが仕方がない。
彼女は騎士だから。
少女を追い詰めているのは白い騎士服を着た二十代前半と思しき見慣れた聖騎士様だ。
光源は天井に近い高い小窓から差し込む光のみ……。そんななか、かえって男の金の髪は輝いていた。胸にぶら下げている新緑色の宝石も、薄い闇のなかいつもより若干強く光っているように感じられた。
一方の少女は顔が真っ赤で、必死に整った顔の聖騎士から視線をそらしている。
ご丁寧なことにあの野郎は少女の顔のすぐ横の本に片手をつき、彼女を見下ろしていた。いわゆる壁ドンというやつだ。……本棚ドン?
ぎっしり本が詰まった本棚と本棚のあいだの狭い通路での出来事であり、ワタシたちはそこに入ろうとしていたところだった。
つまり、ワタシたちは彼らを本棚の角の陰から見ていることになる。
「なに――」
声を上げそうになったアスタフェルの口を慌てて手で塞ぎ、ワタシは慌ててアスタフェルを押して近くの別の通路に逃げ込んだ。
アスタフェルはそれでも少女を気にしていて、ちらちらとその方向を見ながら声をひそめた。
「あれは助けたほうがいいやつだぞ」
「ワタシだって助けたいよ!」
ワタシもひそひそと返す。
「でもワタシが出ていったらかえってユスティアが危ないことになる。エンリオはワタシの名前を引き出そうとしてるんだから」
「では、あれが」
「そう。あれが情報提供者のユスティア。司書騎士なんだ。で、詰め寄ってるのがエンリオ」
「司書騎士……?」
「王族専用の司書さんだ。貴族の子女がなるから騎士位を授けられる」
そのとき、ワタシの言葉を裏付けるようなエンリオの声がした。
「罪の告白をするのなら私はこれ以上にない逸材だと思うよ。これでも神官でもあるんだ」
「な、なんのことなのかさっぱりです。人違いなさってるんだと思います……」
アスタフェルが本棚の向こうを見やる。
「相手がエンリオならサクッと殺してしまうのがよかろう」
「そうしたいけどね、ユスティアと一緒のときは駄目だ。迷惑がかかる。それにこんなところでやったら大惨事だ。周り見てご覧、全部本なんだよ」
ひそひそ話すワタシたちにとは関係なく、エンリオが話を続けた。
「私の知り合いの……そうさ、この世で一番親しい女性がね、アーク殿下に付き纏ってるんだ。しかも何故か殿下の行動を正確に読んでいる。最初は占いでもしているのかと思った。さすがによく当たるものだ、と。それでね、その占いをもっと確実に当たるようにする方法を思いついたんだけど、聞きたいかい?」
「別に……聞かなくてもいいかと……」
「内通者に情報をもらえば絶対に外れない占いなんか簡単だ。そう思わないかい、ユスティア?」
「し、知りません」
アスタフェルは静かに言った。
「やはり助けてくる。俺は面が割れてないから、俺なら行っても大丈夫だろう」
「そうか……そうだな」
アスタフェルの言うとおりだ。むしろ最初からそうすべきだった。なんでそれに気づけなかったんだ、ワタシは……!
「シフォルゼノは慈悲深き方だ。王家への裏切りも許してくださるさ。聖妃様に取り次ぎを願ってもいい。ユスティア、君に正義感があるのなら、罪を告白し赦しを請うべきだ」
「アスタ、頼む」
「ああ」
アスタフェルが頷き、静かに歩き出した時だった。
パシンッ!
乾いた音がした。
頬を平手打ち……かな。
「す、すみません。でもっ、それはあなたが言っていい台詞ではないです。あなたは……、シフォルゼノは、ここでは部外者……なんです」
「……なるほど」
エンリオは喉の奥でくつくつと笑った。いつも澄ました顔しか見せない彼が、いったいどんな顔でこんな笑い方をしているのか……。
「君がどういうつもりなのかは分かったよ。仮にも騎士の君だ、この機に剣でたたっ斬られなかっただけでも良しとしよう」
ユスティアが怒って、その反応にエンリオが悟った。
さてはエンリオの奴わざとユスティアを焚き付けたな、性格悪い……。
ユスティアは何にキレた? そこに答えがあるはずだ。
などと考えていたら――。
「エンリオ様! ここにいらっしゃったんですか。……どうかなさいましたか?」
知らない青年の声が、エンリオとは反対側から聞こえてきた。