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12話 結婚するか、死ぬか、選べ

★12 結婚するか、死ぬか、選べ


「それなんだけど……」

「やはり王子が気になるのか?」


 ワタシの顔色を見て悟ったのだろう、アスタフェルはすぐにそう言った。


「いや……ってオマエなんでそのことを」


 なんかさっきから本筋ではないが気になる情報をぽろぽろぶち込んでくる奴だ。


「寝言で言っていたぞ。王子様と結婚する! と乙女みたいなことを。どうなんだ、ジャンザ!」


 うわ、寝言って。自分の意識の範疇外でそんなことを言ってしまい、なおかつそれを聞かれるなんて。恥ずかしいったらない。


「おっ、オマエ、それは誰にも言うなよ?」


 王子の耳に入れば警戒されて近づけなくなってしまう。


「俺の嫁になると誓えばその約束は守ろう」


 そこに持ってくか……。


「その前に。求婚してきたということは、ワタシを殺すことはもう諦めたんだな?」


 とりあえず身の安全を確認しておかないと。


「俺を選び、生涯に渡り俺のそばにいると誓うのならば、命だけは助けてやる」

「ワタシがオマエを受け入れなければ、オマエはワタシを殺す、ということでいいか?」

「よいぞ」


 彼は軽く頷いた。

 結婚か、死か。なかなかに選びがいがある選択肢だ。


「何故ワタシなんだ? オマエは風の魔王だ。女なんか選び放題だろう。ワタシより女らしい、胸も魔力も大きい女の魔物だっているだろう、オマエの治める地にも」

「でかい胸の良さは認める。だが俺は少年のような平らな胸も好きだ! だいたいオマエの胸はちゃんと柔らかかった。まだまだ大きくなるぞ」

「そんなお為ごかしを。いや………………え? 触った?」

「ちょっと」


 彼は人差し指と親指で何かを摘むように隙間を作った。


「オマエ……!」

「違うからな。ベッドに寝かすと時に偶然、ちょこっと触れただけだ。あとは本当に何もしていない」

「……まあいい、信じよう」


 こんな話を延々とするのは非生産的だし趣味じゃない。さっさと流すことにした。


「だが、ワタシと結婚したいのならば、なんでワタシを殺そうとしたのかくらいは話しておけよ。でないと怖くて結婚なんかできないぞ」


 いいながら、これはもしかしたら使えるかも? なんて考えていた。

 さっきはあまりにも唐突で呆然として我に返ってしまったが、考えようによっては王子と結婚するよりもたやすく野望を達成できるかもしれない。


 奴は風の魔王だ。魔王の妃なんて、いかにも権力を持っていそうではないか。権力的にいえば王子の嫁よりはるかに大きい。なにせ神話にすら出て来る存在の、妻である。


 魔王の妃となって、それでどうしたら魔力の入っていない薬をこの世界に広めることができるのかはすぐには思いつかないが。権力だけは凄そうだ。


 ただ、理由による。

 ワタシがこいつに殺されかけたのは厳然たる事実だ。またあんなことが起こるかもしれない結婚生活など、身が持たない。


 しばらく……、アスタフェルはワタシを黙って見つめていた。

 ワタシは待った。

 やがて彼は口を開く。


「敵勢力にそう簡単に情報を与えるほど、風の魔王は愚かではないぞ」

「なるほどワタシはオマエの敵勢力なのか。ということは、シフォルゼノの関係者……?」


 風の魔王アスタフェルの敵といえば風の神シフォルゼノと相場が決まっているが……。


 ワタシは別にシフォルゼノの信徒ではないし、どちらかといえばワタシ自身にとってシフォルゼノは敵である。

 魔女と聖なる神は折り合いが悪いし、なんといってもあのムカつく聖騎士エンリオはシフォルゼノ教団に所属するシフォルゼノの聖騎士なのだから。


 ワタシは自分の出自を知らない。捨て子で、師匠に拾われた身だから。


 ということは、捨てられる前のワタシがシフォルゼノ教団の重要人物の娘だった……とかいうことだろうか。

 巫女かなにかの家の生まれということか? だったらせめて、エンリオより地位が上の家柄だといいのだが。


「お前、怖い」


 片言での、魔王の返答だった。


「なるほど正解か」

「…………」


 ムスッとなり、黙り込むアスタフェル。


「オマエが口を滑らせるのが悪いんだろうが」


 それから、手を唇に当てもごもごと考える。


「……ワタシを殺すつもりなのもそれだな。ワタシはオマエにとってとても都合の悪い、シフォルゼノ教団の『何か』なんだ。風の魔王が名を知るほどの、ワタシをすぐに殺すことが重要なほどの、魔王本人がお出ましするほどの『何か』、それがワタシか。オマエのいう結婚がどういったものを意味するのか分からないが、ワタシを魔界に連れて行くのだとしたら……、幽閉でもする気か?」


 さらにムスッとしたアスタフェルを、ワタシは睨みつける。


「オマエ……、ワタシが何者なのか知ってるんだよな。それ結婚したら教えてくれるの?」


 奴はじっと、探るようにワタシを見つめた。

 整った顔立ちは魔王の姿ならいざしらず、人間の姿を取ると美しすぎて存在自体が浮いていた。


 そういうところが甘いと思う。

 角や羽を隠したところで、これでは目立って仕方がないではないか。

 しかも着ているのは前が開いた紺色の衣を帯で締めるという異国風の服。

 それともこれは、風の魔王ここにあり、という魔王の矜持なのだろうか。


「……知れば、お前は俺のもとを去るだろう」

「教えないってこと?」

「お前を失いたくない」

「失うも何も、オマエのものになったつもりはないよ」


 交渉は決裂――そんな雰囲気が漂う。


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