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11話 魔王からの二度目の求婚

★11 魔王からの二度目の求婚


 気がついてみれば、家の中が片付いていた。

 埃だらけだった棚のガラス瓶も、髪の毛やパンくずや薬草の破片が散らばっていた木の床も。綺麗に掃除され、磨きぬかれ、輝いている。


 誰がやったって、目の前のこいつがやったとしか考えられない。


 家事、得意なんだね。

 いやいいことだよ。いいことだけどさ……。


 アスタフェルは二人分のスープの器とスプーン、パンを取る皿をテーブルに置くと、ワタシの席を引いて座らせてから向かいに座った。

 忘れていたのか、慌てたように頭の三角巾をとり、台所にかたしにいった。


 それから二人してテーブルに向かい合って座り、無言で美味しいスープを食べるという妙に気詰まりのする出来事も残り少しというスープ量になり、ワタシは言葉を発した。


「食事、ありがとう。助かったよ」

「どういたしまして。うまいか?」

「すごくうまいし……」


 ワタシはスープの器を見つめた。今日は、鶏と玉ねぎと豆のスープだ。

 こいつはワタシの命を狙っていたはずだ。身体も狙っていたはずだ。


 だが、何食か食べ続けたワタシには分かる。毒も、媚薬も、入っていない。ワタシの身体にはなんの変化もない。

 現実として、美味しいし、アスタフェルがワタシの身体のためを思って作ってくれたことが分かるスープだった。


 ただ、それを認めてしまうと、魔王の気遣いに気づいていると奴に告白してしまうことになるから。


「ワタシ、何日寝てたんだ?」


 だから、そんなふうに話をそらした。


「四日だな」


 あれだけ魔力を使ったのに四日で回復したのならなかなかの回復率といえる。やはりスープが効いたらしい。


「そうか……。その……ありがとうな。オマエが食事作ってくれたから、回復が早かったみたいだ」

「うむ、感謝しろ」


 なんとなくバツが悪くてもごもご言ってしまうワタシに、彼はにっこりと微笑み返した。


「でもなんでオマエここにいるんだよ? そんな気配なかったのに」

「留守がちにしたのは悪かった。この四日間薬の配達に忙しかったのだ。ずいぶん広範囲の客を相手にしているのだな」


「いやそうじゃなくて……え、薬の配達って?」

「四日前、町人が薬を求めて訪ねてきてな。この家の主人は寝ているというと、俺に薬の用意を頼めるかと言い出して、それで用意して……」

「えっ、オマエ薬草の知識なんてあるのか」


 こいつは魔王だ。魔女の知識など及びもつかない深遠なる薬草の知識があってもおかしくはない。それを教えてもらえれば……!


「そんなものはない。怪我や病気は魔法であっという間に治るからな」

「……あ、そう」


 浮かした腰を椅子に戻す。

 まあ、仕方がない。相手は魔王だ。

 魔力については魔女の凄まじいほどの上位版みたいなものだし、そりゃあ直接魔法を使って癒やすだろうよ。薬草なんか使う義理もない。魔王の魔力なら効き目も抜群だしな。


「薬の作り方は町人に教えてもらった。お前、作り方を教えているそうではないか」

「まあね」


 ……そう、ワタシは薬の作り方も教えている。

 でも作り方を教えはしても、みんな自分では作ろうとせずワタシのところに出来上がったものを買いに来る。

 そんなに手間がかかることはしていないのに自分で作るのは面倒臭がるのだ。


 でもこうしてその知識をもとにアスタフェルが調合できるだなんて、教えた甲斐はあったということだ。


「……ありがとう、アスタフェル。仕事まで手伝ってもらっちゃって」

「どうということはない。それから町人に薬を渡し、関係を訂正して、家の中を見て回って……汚れているのに気づき、掃除していたら帳面を見つけ、そこに記されていた仕事のことを読んでな。寝ている間の仕事は俺が引き受けようと。あ、ちゃんとお代はもらったからな」


 ああ、あれを見たのか。

 薬の配達は別に急がなくても良かったのだが……それでも配達してくれたのは助かる。


「そうか……ほんとありが……、関係を訂正って何?」

「あいつ俺を付き人だろうとぬかしたのだ。だから、付き人ではなく婚約者だと」

「おい」

「結婚しよう、ジャンザ」


 二度目の求婚は話の流れに合っていた。

 しかもしっかりとワタシの目を見て。アスタフェルの白い頬がほんのり紅潮していた。空色の澄んだ目も潤みがち。その目で……ワタシを真剣に見つめている。


 やっぱりこの話になるよなぁ。


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