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Capriccio  作者: 若かりし柚木
第1部
3/21

楽な仕事

<街>

 ヴァレリアとティムは街の外れに来ていた。乗り合いの馬車で少し遠出をしなければならなくなったのだ。

 二人共怪しげな裏の仕事に手を染めているが、昼の仕事も真面目にこなしていた。ヴァレリアはレストランで調理場に立っているし、ティムはちょっとした軽食の屋台を出している。しかし今日はそれも休みだ。

「眠いなぁ」

 ティムは先程から欠伸ばかりしている。隣を歩くヴァレリアはごく簡潔に聞いた。

「寝たのか?」

「うん。たっぷり寝たはずだけど、何でだろ?」

 不思議がる様子もお気楽そのものだ。緊張感の欠片もないティムだが、仕事となると豹変するのだから驚きだ、とヴァレリアは思う。

「まぁいいよね、馬車で寝られるし!」

 裏社会の人間にあるまじき不用心な台詞だ。

「今回の仕事は何か地味だよなぁ」

「だな」

 朝、サンドイッチを作っていたティムの所に仲介屋の男がやってきて、いつものように依頼を告げていったと言うのだが、珍しく血の匂いのしない内容だった。

「俺らに頼むような仕事じゃないよなー。物好きな依頼人もいたもんだ」

「確かにな。馬鹿馬鹿しい依頼だ、要は宝探しみたいなものだろう?」

「そうだよ。そのわりに仲介のおっちゃん、大分緊張した顔してたな。いつもより楽そうな仕事なのに変だよね」

「楽な仕事、か」

「ヴァレリアはこういう仕事は嫌いだろ?」

 ティムは言ってしまってから、少し慌てたようにちらりと彼女を見た。

 ヴァレリアはため息まじりに答える。

「さあな。面倒臭くない仕事が好きだ」

「面倒臭くない、か。じゃあ殺すのと殴り倒すのとどっちが面倒?」

 ヴァレリアの歩みが一瞬止まった。ティムはどんな顔でこんな言葉を口にしているのだろうか。見たいような気もしたが、彼が歩みを止めなかったので見ることはできなかった。見られたくなかったのだろう、とヴァレリアは判断した。

「いいよ、答えなくて。愚問だ、でしょ?」

 彼女の答えを待たずに、ティムは間延びした声で言った。先を歩くティムの表情は推し量ることしかできないが、普段通りのへらりとした笑みを浮かべているのか、あるいは――。

「俺はぁ」

「言うな」

 ヴァレリアは遮った。彼の声音が、彼の表情を容易に想像させたからだった。

「へえ、聞きたくないわけ?」

 次に発されたティムの声は心なしか掠れていた。

「聞きたくない。特にお前の口からはな」

「はぁ? 意味わかんね」

「あの辺の馬車だな。さっさと乗ってって片付けるか」

 ヴァレリアはすたすたと足を速めた。途中で本を読みながら歩いている少女を追い越した彼女の耳に、ついてくるティムの軽やかとは言えない足音が響いた。

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