楽な仕事
<街>
ヴァレリアとティムは街の外れに来ていた。乗り合いの馬車で少し遠出をしなければならなくなったのだ。
二人共怪しげな裏の仕事に手を染めているが、昼の仕事も真面目にこなしていた。ヴァレリアはレストランで調理場に立っているし、ティムはちょっとした軽食の屋台を出している。しかし今日はそれも休みだ。
「眠いなぁ」
ティムは先程から欠伸ばかりしている。隣を歩くヴァレリアはごく簡潔に聞いた。
「寝たのか?」
「うん。たっぷり寝たはずだけど、何でだろ?」
不思議がる様子もお気楽そのものだ。緊張感の欠片もないティムだが、仕事となると豹変するのだから驚きだ、とヴァレリアは思う。
「まぁいいよね、馬車で寝られるし!」
裏社会の人間にあるまじき不用心な台詞だ。
「今回の仕事は何か地味だよなぁ」
「だな」
朝、サンドイッチを作っていたティムの所に仲介屋の男がやってきて、いつものように依頼を告げていったと言うのだが、珍しく血の匂いのしない内容だった。
「俺らに頼むような仕事じゃないよなー。物好きな依頼人もいたもんだ」
「確かにな。馬鹿馬鹿しい依頼だ、要は宝探しみたいなものだろう?」
「そうだよ。そのわりに仲介のおっちゃん、大分緊張した顔してたな。いつもより楽そうな仕事なのに変だよね」
「楽な仕事、か」
「ヴァレリアはこういう仕事は嫌いだろ?」
ティムは言ってしまってから、少し慌てたようにちらりと彼女を見た。
ヴァレリアはため息まじりに答える。
「さあな。面倒臭くない仕事が好きだ」
「面倒臭くない、か。じゃあ殺すのと殴り倒すのとどっちが面倒?」
ヴァレリアの歩みが一瞬止まった。ティムはどんな顔でこんな言葉を口にしているのだろうか。見たいような気もしたが、彼が歩みを止めなかったので見ることはできなかった。見られたくなかったのだろう、とヴァレリアは判断した。
「いいよ、答えなくて。愚問だ、でしょ?」
彼女の答えを待たずに、ティムは間延びした声で言った。先を歩くティムの表情は推し量ることしかできないが、普段通りのへらりとした笑みを浮かべているのか、あるいは――。
「俺はぁ」
「言うな」
ヴァレリアは遮った。彼の声音が、彼の表情を容易に想像させたからだった。
「へえ、聞きたくないわけ?」
次に発されたティムの声は心なしか掠れていた。
「聞きたくない。特にお前の口からはな」
「はぁ? 意味わかんね」
「あの辺の馬車だな。さっさと乗ってって片付けるか」
ヴァレリアはすたすたと足を速めた。途中で本を読みながら歩いている少女を追い越した彼女の耳に、ついてくるティムの軽やかとは言えない足音が響いた。