夕食
「完成っ!」
ティムが大声で叫び、カタリーナも笑顔で拍手した。ヴァレリアは黙々と皿をワゴンに載せ、テーブルの方へと向かった。
「おっ、にんにくのいい匂いがするね」
キーラが顔を綻ばせる。先程まで飲んでいた飲み物は空になっていた。
「魚介のスパゲッティじゃないか。久しぶりだね。ティムの提案かい?」
「うん」
ヴァレリアは皿を置き、かわりに空のコーヒーカップをワゴンに載せていく。
「おいしそうですね!」
アンズリーが目を輝かせた。
「おいしいよ、何せヴァレリアはこのレストランのシェフだからね」
キーラが請け合った。
「アレンはどこ行った?」
「ああ、奴は仕事だろうね。さっき出かけたところだ」
ティムの質問にシリルが淡々と答える。アンズリーが少々驚いているところを見ると、アレンはまた行き先も告げずに出て行ってしまったらしい。
カタリーナが全員分のオレンジジュースを器用に持って厨房から出てきた。
「あれえ、またあの子出かけちゃって! みんなで食べた方がおいしいのになあ」
カタリーナの台詞はまるで母親か何かのようで、ヴァレリアはおかしかった。
六人全員が席に着くと、カタリーナはこほんと一つ咳払いをした。
「えー、それでは、新たな住人に、乾杯!」
「かんぱーい」
シリルとヴァレリア以外は大声で唱和した。
「ではさっそく、いただきます!」
「いただきまーす」
「さっき言ってたんだけど、明日はティムとヴァレリアとキーラとアレンが仕事。だからアンズリーのことはあたしが護衛する」
「はい、ありがとうございます」
「シリルもいるんだろう? 明日も仕事はないんだろうし?」
キーラが棘を含んだ言い方をする。
「仕事がないとは聞き捨てならないね。ないわけじゃない、しないだけさ」
「どっちも同じだよ」
「まあまあ。シリルがいたって護衛には向いてないよ。ところでアンズリー、一日中何もしないのは暇すぎるよね? 何か手伝ってみる?」
「手伝う?」
アンズリーはきょとんとした。
「うん、ウェイトレスでもいいし、できるんなら料理人でもいいし」
「だったらピアノ弾きます! あの、私、ピアノ弾きで食べてたんです。ついこの前まで」
アンズリーがはにかむように笑みを浮かべる。カタリーナは眉間に皺を寄せた。
「ピアノかぁ……」
「ピアノなら二階の倉庫にあった!」
ティムが嬉しげに叫ぶ。ヴァレリアもそのピアノを思い出していた。グランドピアノではないので店内にも置くスペースはあるだろう。かなり年代物の品だったが、音は出たはずだ。
「え、あの骨董? 音出せるの、あれ」
カタリーナは眉間の皺を深くする。
「調律をしないと使えないだろうねぇ」
キーラがしたり顔で言うと、
「調律師ぐらいなら呼んで来られるさ、僕にまかせてくれ」
シリルが妙に乗り気で請け合った。
「へえ、珍しいなぁ、シリルが自分から動くなんて。まあいいか。じゃあ、アンズリー、明日出してみよう」
「はいっ」