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Capriccio  作者: 若かりし柚木
第2部
19/21

厨房

「へえ、アンズリーて言うんだ」

 カタリーナがエプロンを腰に巻きながら、彼女らしくもない無機質な声で呟いた。キーラたちの声が聞こえたらしい。ヴァレリアとティムは何も言わなかった。

 次に口を開いた時、カタリーナの声はいつも通り弾んでいた。

「さあて、何を作りましょ?」

 ティムが目を輝かせて、

「パスタがいい!」

と挙手して発言した。ヴァレリアは相変わらず子供っぽいな、と思うが反対はしない。

「うーん、具材は……タコとかイカがあるね」

 カタリーナが厨房の隅に置かれた冷蔵箱――氷を入れるタイプの食料保存箱だ――を開けて言う。

「じゃあティム、レモン絞っといて」

 カタリーナは絞り器と皿を彼に手渡し、自分はスパゲッティの量を量り始めた。ヴァレリアはパセリとにんにくを手早く刻んでいく。

「そういや、今日はアンズリーが来てばたばたしてすっかり忘れてたけど、依頼されてた仕事の方はどうなった?」

 カタリーナが聞いてくる。ヴァレリアは手を休めることなく答えた。

「失敗だ」

「だな。馬車に乗ってたら、シュバルツ邸に着く前にあの子が御者に因縁付けられた。明日は別の仕事だから、また今度出直しだなぁ」

「ふぅん」

 カタリーナは今ひとつ腑に落ちない、という表情だった。

 疑問を抱いているのはヴァレリアも同じだった。

 アンズリーはなぜ追われているのか? 誰が追っているのか? 思い巡らせながら、ヴァレリアは湯を沸騰させ、塩を軽く振ってスパゲッティを茹で始める。

 あのごろつきの言っていたことを信じるのなら、追っているのは金持ちなのだろう。少なくとも馬車十数台を用意でき、十数人のごろつきを雇える程度の経済力はあるのだろう。

 なぜ彼女がその金持ちに追われているのか?

 これは今考えても無駄だろう。彼女のことをもっと知らなければ、理由などわかりっこない。彼女が何者なのか、知らなければ。

 ――知りたいかどうかは別にして。

「うわぁ! ヴァレリア、吹き零れてるっ!」

 ティムが叫んだ。ヴァレリアははっと覚醒する。

「ああ、何かぼんやりしてたみたいだ」

「しっかりしてくれよ、シェフさん」

 言いながら、カタリーナは火を緩める。気がつくと魚介類は茹で上がり、パセリとにんにくも炒め終わっている。カタリーナを見ると、にやっと笑ってピースサインを向けてきた。

 ヴァレリアはレモンをかけた魚介類を、にんにく、パセリと合わせて炒め始めた。

「明日はみんな出かけるみたいね」

 カタリーナが皿を七つ並べて置いた。

「みんな?」

「うん。あんたら二人は仕事だし、アレンも今日もらった依頼を片付けたいらしいよ。キーラは情報買いに街へ行くんだって」

「シリルは?」

「さあ、あいつは金がなくなるまで仕事しないつもりなんだろ……。でも、急に出かけるからな、あいつ」

 スパゲッティと魚介類が絡まり合う。にんにくの香りがふわりと広がった。

「じゃあ、あの子の面倒はカタリーナに頼んでいいのか?」

 ティムがフォークを手に尋ねる。

「そうねぇ。明日はここにずっといるから、大丈夫だと思う。しかしアンズリーのことだけど、さすがに何もさせずに置いとくのは気が引けるなあ……。ちょっとは仕事してもらおっか」

「仕事させるって、むやみに客に顔見せるのは危ないだろ」

「ま、それはあたしもいることだし大丈夫だって」

 ティムはスパゲッティを七つの皿に分け終えた。

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