護衛
「あ、あのっ、ありがとうございましたっ」
アンズリーは恐縮した。二人は何も言わずに前を歩いていく。馬車道を歩いて引き返すのはなかなかの重労働だったが、アンズリーは必死で追った。
「本当に私、何てお礼言ったらいいか、わかんないくらいで……」
アンズリーがそう言った時、突然ティムが振り返って言った。
「礼なんか言わなくていいよ」
「で、でもっ」
「けどもしよかったら、一緒に来ないか?」
そう言ったティムの顔を、ヴァレリアが胡乱な目で見た。
「え?」
アンズリーは驚いた。
「追われてるんだったら、俺らの所ほど安全な隠れ場所はないと思う。そうだ、本当に護衛してあげてもいいよ、ねぇ?」
「……そうだな」
「いいんですか」
「あんたこそ、いいのか? こんな奴ら信用して」
ヴァレリアが包帯をさすりながら苦笑いをする。
「こんな奴らだなんて……ティムさん、ヴァレリアさん、ありがとうございます!」
ティムはとたんに破顔した。そして嬉しそうにスキップでどんどん先に行ってしまった。
ヴァレリアはそんなティムにどこかやさしげな視線を向けている。
「なんか、ヴァレリアさんてお母さんみたい」
思わずそう口にするアンズリーに、ヴァレリアは少し鬱陶しげに眉を寄せてみせた。口角は緩い弧を描いている。
「お母さん、か。そんないいもんじゃない」
「……あの、何で助けて下さったんですか?」
ヴァレリアの顔から微かな笑みが消えた。
「――ティムは、助けないわけにはいかなかったんだろう」
「どういうことですか?」
「いずれわかる」
「じゃ、じゃあヴァレリアさんは何で?」
「何でだろうな」
ヴァレリアは無表情で、アンズリーには感情が読み取れなかった。
「あんたに助けてもらいたかったから、かもしれないな」
アンズリーは何も言えなかった。聞きたいことは山ほどあったが、ヴァレリアの顔が話は終わりだと言っていた。
「おーい、何してんだー! もうちょい早く歩けないのかぁ?」
遥か前方の黒い点が叫んでいる。
アンズリーとヴァレリアは顔を見合わせ、駆け出した。