『RⅠ.1』転生先の雇用条件と不合格者の処遇【みんなが望む事】
・・・最近、人々の中でウワサになっている
運動・文化系に特化し注目された有望な若者達が、TVやネットその他新聞などで日々伝えられる
その全てが、15歳から30歳のある程度、地の出来た者が死んで
記憶を持ったまま生まれ変わったからではないかと
普通に考えれば皆、自分の中の”社会的な面”に「そんなの努力しなかった奴の僻み」と一蹴するだろう
だがこのウワサには「その面のほうが脳みそお花畑」とする記事もまとめられていた
抜粋すると”鋭利な刃物に文字を刻み上空に投げそれを頭で受け止める”となる
つまり狂気的な自殺である。
これを試みた者には確かに意味のある事かもしれないが
遺体を見た親族や警察、遺体処理・検死官は変死体以外の意見は早々に浮かばないだろう
「ははっ つまんねぇ記事」
男がスマホゲーム片手にまとめサイトを見ている
厚い遮光カーテンに埃塗れの家具、ゴミ袋の山で足の踏み場もない床に蠢くカサカサ音
黄ばんだシーツ、テーブルの上にあるヨーグルトなどの腐った発酵食品
仕事をやめてから10年以上になる、派遣社員であることが唯一の心の支えであり
現在は貯金を崩しながら生きている、因みに現在生活保護申請中である
今日は、偶の仕事の休みに連載小説をコンビニ立ち読みしにいく
家に置いて行ったAM8時を指すスマホゲームの通知機能で
ネット上の友達に「バフシフト交代よろしく (改行)AM10時にまた戻ります」と書かれた文がある
「はぁ今日も仕事疲れたぁ、つか役所の奴早く金よこせよっ!」
コンビニの手前、横断歩道で叫ぶ男を見た通行人が不審がる
ブラウンのズボンに黒いコート、白い帽子その隙間から見える色白で無精髭の身長150cmの男
通報・・・ではなく、ネットに晒すならこんな情報が書かれるだろう
コンビに店内に人が入った通知音がする
その音が終わるよりも早く雑誌コーナーから小説を取り読み始める手に取った小説雑誌は文字量が多い様だ
最初の数ページは10分以上かけて次のページをめくる
そして少しずつ片膝が揺れ雑誌にシワが寄り始め、次の瞬間雑誌がビリビリに破れる
「あ”あ”!つ”っまんねぇっ! 活字使いすぎ改行しろやっ!」
破損した本について店員が止めようとする前に、ばつがわるくなったのかその場を立ち去ろうとする
「ちょっと、あんた待てよ」
「あ?っんだよっ! さわんな」
善意に感化され止めようとした客の腕を振り払おうとした手が止めた者の顔にぶつかり
それを防犯カメラで捉えられている事を確認したのか寝技を掛け拘束しようとするが
先ほど自分で破損させた本を相手の目にぶつけ、足蹴にして逃げる
「ってえ!まてやコラァッ!」
怒りに満ちた客の声と顔を心の中で”偽善”として笑い走って家に急ぐ
帰路の終わりについた所で受給の可・不可の確認が今日までであることを思い出す
今の位置からちょうど直ぐ曲がった場所にある役所に行くことにした
入り口に入った彼の頭に「不可」と言い渡される予想などない
「肩痛っ!ちょうどいいやあいつの事、役所にチクるか」
「あ、おねぇさんお金頂戴、あと捕まえて欲しい奴いんだけど」
「は?」
いきなり来た怪しい男の発言に窓口の女係員は、呆気にとられた
「いや、は?じゃ無くて今日金くれる約束でしょ?」
「ええーと、申込書よろしいですか?」
「え?申込書?そっちに渡したきりだけど」
「それですと、受給は不可になります」
「は?意味わかんない金に困ってる奴はここで金くれるんでしょ?」
「早くしてよ退職金だけじゃやってらんないんだからさ」
「いえ、ですから不可となった方には下の階で再就職を・・・」
「わかんないかな、こっちは働きたくないのっ」
「んで、ここは金くれるとこでしょ?さっさと寄こせよ」
また空気が悪くなり後ろから顔の堀が深い目がギョロっとした
コワモテの上司のような人が来ると怖くなったのか声が小さくなる
「すいませんうちの担当が何かしましたでしょうか?」
「なっなんでもないです。ただ、保護を受けたいんです」
「ああ、不可ということなので下で再就職のご案内を受けてください」
「・・・ぇぁぅでっ、はいわかりました」
同じ「不可」の言葉を体格の良い男に言われ怖気づき役所の外に出るとモニュメントの上に表示された
時計がAM10時をさしていた、この時間はスマホゲームの仕事をする約束の時間だがポケットを見て
家においてきたことを思い出す、急いで帰路に立つと遠くに自分の家の前にいる警察官が目に止まる
幾ら「不可」という言葉が思いつかなかった彼もこの時は思い出した器物損壊と暴行容疑
間違いなく自分が捕まる立場にいることを、だが彼はまだ脳みそお花畑だったのかもしれない
自分の家に入らなければ家主だと思われないと考えたのだろう、重い足取りで警察官に近づく
「あのー、ここでなにかあったんですか?」
「近所の人?この家の人知らない?本破ってお客さんの目にケガ負わせっちゃたんだけど」
「・・・」
「お兄ーさん、どうしたの?」
「それは、早く捕まるといいですね」
「私は食料品買って行かないといけないので、これで失礼します」
「はい」
少しずつ足早になって行き急旋回して路地に身を隠し、出そうな声を押し殺して自己保身の葛藤をする
『何でバレたっ!?』『捕まったら何年だ』『臭い飯ってどんなだろ』『カースト的にどの辺?』
そうしているうちに右手から禁断症状の赤い発疹が出てきたそれにも気づかず第一声
「あ”あ”っ、スマホやりてえぇっ!あれなきゃし”ぬ”ぅっ!」
つい声が出てしまったことに気づき身を更に潜める
20分程度たった後、一方車線から入ってきた警察車両が自分の目前を通過し家の前に止まった
『2台目?』
車から出てきた警官の声に耳を立てる
「先輩、容疑者の背格好分かりましたよ」
「こいつ!さっきみたぞ、まだ近くにいるはずだ探せ!」
「はい!」
「やべっ」
ガサッという音と自分で発してしまった声をどうしようかと無意味な事を考え立ち竦んでしまった
すると捜索を指揮した警官が訂正し、ほかの警官も返事をする。
「やっぱり待て、あいつ食料品買いに行くとって言っていた」
「車に乗れ!この近くにはあのコンビニ以外モールは1軒しかない!」
「はい!」
また、息を潜めて警察車両をやり過ごせた事に安堵したのも束の間、赤い発疹が痒みに変わり
息もし辛くなってきた
「あぁ、早くスマホ、スマホやりたい」
「あ、そっか今なら警官いないじゃん」
現状を軽く見た上で自分の家のに進入した跡を余すことなく残しながら座り込んで
バッテリーの少ないスマホを充電しゲームをする
欲求を満たし発疹が治まってきた頃、徐々に考えが理性を取り戻す
「よっしゃレベル900行った、これで今月もトップ10保持!」
「これもう、あいつらいなくてもいいんじゃねシフト制ダルいし」
「・・・あ、あれ」
「そうだ、俺が捕まったらこいつら俺の上行くんじゃね?」
「そうだな、あいつらのアカウント知ってるし消すか」
「消去完了♪これで5年はトップにこれないな」
「あれ?これって自主前提でやったんじゃないよな?いやありえねーわ」
「とりあえず逃げるか」
家を出ると目の前にいる警官とぶつかりそうになる
「誰?お前」
「この家の家主さんですか?」
「近所の者です旅に出るからペットを見てて欲しいって頼まれたんですよ」
理性を取り戻すと大抵こういう嘘はスラッとでてくる
「この家ペット禁止ですよね?」
が出てくるのはすぐにバレる嘘ばかりだ
そしていつもしてしまう、状況が悪くなると物を相手に投げる癖が出た
今回はスマホをほおった5年も使い込んだ物さえ自分の気持ちの方が優先だっだ
そして今回は怒りの声が聞こえない
その瞬間、目を瞑りモールと逆方向に走りだした、ただ走った
理性と欲求がごちゃ混ぜになった脳内に発狂しながら自分が今日一日でやった犯罪に
”殺人”が加わった事は絶対に考えないように後ろは向かず発狂し走った
犯罪が自分にレッテルを貼る前に”どう終わりにするか”考える
飛び降り・首吊り・飛び込み・腹切り・首切り
・・・「首切り?」
「ああ、そうか鋭利な刃物だったな」
ゴミ捨て場を3、4つと回ったそうして錆びた出刃包丁をみつけ文字を必死に思い出し
模写しながら完全に諦めの意志をそれに向けた
転生したかったワケじゃない、このまま自堕落な生活を続けたかったわけじゃない
混ざり合ってしまった理性か欲求かどちらかを捨てたかったんだ
死は恐れている、欲求が勝ってしまった場合又同じことが起きるのではとも恐れている。
これまで色んなことをギリギリまでやってこなかった自分が記憶を持ったままどこか遠くに行ったとして
そこでは、”何故人の為になる事を”『仕事』をしなくてはいけないかを見つけられるのか
「教えてくれる人は、納得させてくれる人は、守りたい、その為に我慢する」果たしてそんな気持ちを
抱ける環境に身を置かせてもらえるだろうか
それだけが自分の脳裏に過り続けた
だけど「それがダメだ」と、裏ずけられるのは「今現在の自堕落な自分の記憶だけだから」
そう思って右手の物を上に投げる
たぶん生まれ変わった俺は今の俺に問いたくなるだろう
『罪を贖うべきだったとは?』『何でそんな奴に次の人生を望む資格があった?』と
でも思うそれが人だから
間違えてしまったら許してもらえるまで謝る
奪い、壊してしまったらそれに見合う物を返す
時間は巻き戻せないが次に繋げる事はできるだが死人が後悔を伝えるのと
やってしまった後で生きている相手から伝わるのとでは受け止め方も違うのでは
前者も後者もどちらが正しいと誰が言えるのだろうか
俺はいや、もしかしたら私は、
それを転生した自分に問い導き出したい 死者か生者か石橋にするならどちらが正解か
自然の法則に従い冷たく錆び付いたそれは、薄い白板を的確に貫き死者を生み出した