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銀河鉄道の夜と、一緒に眠る時間

 片付けを済ませて、徒歩15分の所にある温泉施設に向かう。

 ここも宿泊者しか入れない施設で、24時間開いている。

 コンシェルジュも居て、電話をすれば送迎車も来るが、私も朝陽さまも歩きたい気分だった。

 歩道は脇に小さな光があり、施設までの道を照らしている。

 それはまるで天空に向かう線路のよう。


「銀河鉄道の夜みたい」

 私が呟くと、その手を朝陽さまが取った。

「お気をつけてご乗車ください」

 そして優しく微笑んだ。


 キャンプサイトから離れると、暗くなり、満点の星が見える。

 小さく虫が鳴く声が響く静かな夜。

 私たちの足音だけが響く。


 温泉は誰もいなくて、大きな風呂を独り占め。

 川に向かって作られた露天風呂からは、小さく光る緑……蛍が見えた。

 水のせせらぎと、舞う蛍を、私はボンヤリとみていた。


 着替えを済ませて、テントに戻る。

 炭は使い切りが基本なので、すべてたき火台のほうに移した。

 今は弱い光だけがテントを照らしている。

 二人で寝室の代わりの、仕切られた空間に入る。

 こんなに狭い空間に二人でいるのは初めてで、緊張で胸が痛い。

 朝陽さまは、そんなことより秘密基地感が楽しいようで、素早く寝袋の上に転がった。

「星が見える。桐子、ランプ暗くしよう?」

 その笑顔があまりに子どもで、私はランプを少し暗くして、朝陽さまの横に置かれた寝袋の上に転がった。

「……今日は本当に初体験ばかりだ」

「楽しいですか?」

 寝転がったまま、朝陽さまの方を見た。

「……メチャクチャ楽しい。また来たい」

 朝陽さまは星をみたまま、強く言った。

「良いですよ。でも、九月までに来るとなると、真夏ですね。虫が多くてイヤなんですよね……」

 実はキャンプにベストシーズンなのは、蚊が少ない六月、今時期だ。

「九月まで……な」

 朝陽さまが呟く。

 私たちの契約婚約が終わるまで、あと三ヶ月だ。

「……当初の予定より楽しめてて、私は嬉しいです」

 朝陽さまは星をみたまま動かない。

 私はボンヤリと星を見ていた。

 この時期だと夏の星座……はくちょうと、ヘラクレスくらいしか分からないな。

 昔の人が星をみて暦を考えた気持ちがよく分かる。

 毎日、ずっとこれを見ていたい気持ちが、よく分かる。

 朝陽さまが、突然ムクリと起き上がった。

「……この寝袋。二つ繋げられてるって書いてあった」

「え?」

「ほら、退いて」

「えーー?」

 朝陽さまは寝袋から下りて、チャックを全開にする。

 そして私も寝袋から下ろされた。同じようにチャックを全開にして、二つの寝袋を繋げると、巨大な寝袋になった。

「ほら、おいで?」

 朝陽さまは中に入って、私を待つ。

 こんな知恵いつの間に……。

「いつの間に説明書読んだんですか」

 私はジト目で見る。

「昼に干してる時に」

「ぐぬぬ……」

「何もしないから。約束する」

 入らないとさすがに寒くなってきた。

 私は渋々朝陽さまと同じ寝袋に入った。

「おいで」

 そのまま抱き寄せられる。

 清潔な石鹸の匂いと、私が好きな香水の……これは残り香だろうか。

 さっき付けたら、もっと匂うはず……。

「香水……なんだか教えてくださいよ……」

 私は抱き寄せられたまま、言う。

「俺がいるから、良いだろ?」

 朝陽さまが私の背中を柔らかく撫でる。

 もうすぐ居なくなるから聞いてるのに。

 少しだけ胸の奥が痛くなる。

 私はその痛みを飲み込んで、目を閉じた。

「今日は一日外に居たから、横になると気持ち良いですね……」

「マウンテンバイクは良かった。面白い建物も沢山見られたし」

 朝陽さまが私の頭の上で言う。

「朝陽さまって、建築物に結構興味ありますよね。ツリーハウスもコテージも楽しそうに見てらした」

 朝陽さまが、コホン……と軽く咳払いをした。

「……俺さ、桐子が船で言ってた松園の都市開発プロジェクト、ちょっと見せてもらったんだ」

「え?」

 私は胸元から頭を上げる。

 朝陽さまは、私から離れて、ゴロリと転がる。

「今は土壌を整えた。そこに何を作るかで、違う物を混ぜ込んで形成している作業をしてるんだけど、資料を見てたら面白かった」

「なるほど。大きな建物を建てる時と、公園として利用するときは、土壌から変えるんですね」

「埋め立て地だからな」

「面白いですね。もっと聞かせてください」

 私と朝陽さまは、寝袋に入ったまま、静かに会話を続けた。

「……松園には星の数ほど会社があるけど、俺はそっち関係の会社に行けたらと、思い始めた」

「良いですね」

 朝陽さまがコロリと転がってきて、私を静かに抱き寄せた。

「桐子のおかげ」

「いやいや、ほぼ何もしてませんよ」

 よく憶えてないが、オタクトーク炸裂させてただけな気がする。

 朝陽さまが私の背中に腕を回して、強く抱きしめる。

「桐子とツリーハウスに泊まりたい」

「作れば良いじゃないですか、都市計画で。副都心にツリーハウス」

「桐子と、あそこに泊まりたい」

「朝陽さま……」

 私は腕を朝陽さまに回して、背中をトン……トン……と撫でた。

 小さな子どもを諭すように、話さずに落ち着かせるように。

 あと三ヶ月で契約は終了だ。

 私と朝陽さまに来年は、ない。

「桐子」

 朝陽さまが、私の上に乗ってくる。

 上から完全に見下ろされる。

 飴色の髪の毛は、乾かしたばかりで、いつもと形が違う。

 ふにゃりとした髪の毛の奥に、私を見つめる瞳が見える。

「桐子と、来年もここに来たい」

 朝陽さまは、私を真っ直ぐに見下ろして言う。

 私は何も答えることが出来ない。

 朝陽さまは、私の腕を押さえつけたまま、キスをした。

 私はそれを受け入れた。イヤだと思わなかった。

 今までされたキスとは、全く違う。

 優しく、何度も私の唇を吸う。

 舌が私の唇を舐めて、口を開かせる。

 受け入れて、何度もキスをする。

「……桐子」

 朝陽さまが唇を離す。

「はい?」

 あまりに気持ちよくて、ボンヤリとしながら答える。

「桐子、どうしようもなく好き」

「……はい」

「もうお終いだなんて言わないで」

 私のその問いかけに、無言でキスをせがんだ。

 朝陽さまが再び私の唇にキスをする。

 何度もキスして、私たちはそのまま眠りについた。

 朝陽さまの香りに包まれて。



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