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君のことを知りたいと思い始めたら、明日が動き出す

「ねえ、琴美、私の頭、臭い?」

「は?」

 中学校に向かう車の中で、私は琴美に向かって頭を差し出した。

「今日、朝陽さまに頭の匂いを嗅がれたんだけど」

「は?! 学校で何してるよのよ」

「臭い?」

「何よ、イヤよ、嗅ぎたくない」

「えー……お願いーー」

 私は頭を差し出す。

「もう……なんだかすごく嫌な気持ちよ」

 そう言いながら琴美は私の頭の匂いを嗅いでくれた。

「全然普通にシャンプーの匂い。ていうか、かすかに朝陽さまの香水の匂いがついてる。エロい」

「エ、エロ?!」

 私は叫ぶ。

「頭頂部の匂いでしょ? なんかエロくない?」

「え、どういう意味だと思う? 私全然意味が分からなくて、棒立ちだったんだけど」

「どういう状態よー? とりあえず、嫌いな人の匂いは嗅がないんじゃない?」

 琴美は飄々と言う。

「あり得ないよ~~」

 私は笑う。

 だって朝陽さまは凛子さま命なのだ。

 むしろそれが最近は安心できる材料になってきた。

「それより、持って来たの?」

「……何をですか?」

 琴美が窓の外を見ながら言う。

「お・み・や・げ、ですよ」

 私は一言ずつ区切りながら言う。

「持ってきたけど……」

 琴美は鞄から市販の蜂蜜を固めた飴を出す。

 近所のスーパーの袋に入ってままだ。

「はーん……琴美さん、他にも色々買いましたね」

「ぎく」

 琴美が言う。

「他にも色々買って? ラッピングとかしちゃって? やりすぎだと思って? これにしましたね?」

「名探偵コナーン!!」

 琴美は私の手からスーパーの袋を奪って、鞄の中に入れた。

「だって、どうしたら良いのか、考え過ぎちゃって」

「うんうん、良いと思うよ。とりあえず持っていって、無理そうだったら一緒に食べよう?」

「桐子ーー」

 涙目の琴美を見て、キャーーと笑う。

 琴美は耳まで赤くしながら、手鏡を出して髪型を直している。

 いつもクールな琴美が、こんなに可愛くなるなんて。

 こういう裏表なら、最高に素敵だ。


 車が中学校付近についた。

 車で乗り付けるのは悪いので、近くで駐めてもらう。

 降りようとする私を助手席に居たスティーブンが止めた。

「後ろをずっと着いてきている車がいます。確認してからお願いします」

 え? 着いてきていた車? 話に夢中で全く気が付いて無かった。

 駐めた駐車場から少し離れた場所に、窓ガラスまで黒い車が止まっている。

 なんだろう……。

 スティーブンがその車に近づいて、ドアをノックする。

 すると黒い車のドアが開いて朝陽さまが降りてきた。

「なんで?!」

 私は叫ぶ。

 スティーブンは頭を下げて、私の車のほうに誘導する。

「誘ったの?」

 琴美が言う。

「言わないよ!」

 私も琴美も車から降りる。

「朝陽さま?! なんで」

 私は歩きながら言う。

「桐子、スマホの電源を切っているだろう。俺からの連絡に出ないつもりか。契約違反だぞ」

 朝陽さまが言う。

「いやー……、最近電池が弱ってて……」

「最新のXperiaじゃないか。それにお前ほどメカオタクが電源が弱ったスマホを放置すると思えない」

 うぐー……、バレたか。

「すいませんでした……」

「勝手に動くな。俺の目が届く所に居ろ」

 朝陽さまが言う。

 オモチャが勝手に動いてすいませんねー。

 私はジト目で朝陽さまを見る。

「学校から着いてきてたんですか? 全く気が付きませんでした」

「桐子の制服にGPSを仕込んだ」

 朝陽さまが飄々と言う。

「はっ?! どこに?!」 

 私はクルクルと回って、服を確認する。

 ポケットに手を入れると、固い物を感じた。

 裏返して見ると、そこに布にめり込んだボタン型の何かがはめ込んである。

「これ!」

「我が社の最新作だ。壊すなよ」

「リアルタイム追跡型GPSロガーじゃないですか。この前ネットで見ました」

「お前……本当にメカオタクだな……」

「すごい。え、これも松園関係の会社で作ってるんですか」

「そうだけど」

 私はポケットをひっくり返して、マジマジと見る。

 直径3センチほどで、一見するとボタン電池に見える。

 まだ海外にしかない最新のものだ。

「えー、すごいなー、やっぱり軍関係ですか、資本は」

「全く知らない」

「自分の会社の事何も知らないんですね?! 勿体ない……じゃなくて、これ、いつの間につけたんですか」

「生徒会準備室で」

「あの時!」

 なんだろうと思ったら、私を抱きしめてそんな仕込みを……!

 私は外せないのか、指を入れる。

「無理に外すと110に通報されるぞ」

「そんな機能が」

「桐子が俺に興味ないのが悪い」

「だから、それは説明しましたよね?!」

「桐子が通った中学校は、あれ? ショボくて汚いな。廃校か?」

「だったら来なくていいのに」

「しかし田舎だな。本当にここは東京か? なんか土臭いな。空気が違う」

「東京です」

「案内しろよ、桐子の田舎中学校」

「帰ってください!」

 私は叫ぶ。

 背後でククク……と琴美が笑い出す。

「……朝陽さまって、本当に桐子の前じゃ別人ですね」

「君は全部知ってるんだろう、本田琴美。口も堅そうだし、信じてるよ」

 朝陽さまは薄く笑う。

「これが本性! これが本性!」

 私は朝陽さまの後ろから顔だけ出して言う。

「うるさい」

 朝陽さまが私の首根っこを掴む。

「いたたたた」

「……あはははは」

 琴美が笑う。

 笑い事じゃないよ、助けてよ!

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