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いつだって二つの顔

 鳳桜学院駅で降りて、琴美と別れる。

 駅から出た時点で、スーツ姿の人が私を見つける。

「薔薇苑さま、こちらへどうぞ」

 そして階段を降りて、地下へ連れて行かれた。

 地下にはひとつだけエレベーターがあり、スーツ姿の人がカードを入れると、電源が入り、私はそこに乗せられた。

 ボタンを押す必要もなく、ドアが閉じると同時に一気に加速する。

 かなり高く登った先で、止まった。

 ドアが開くと、前面が全て窓の空間が広がった。

 鳳桜学院に、巨大な森、それを囲むようなビル群が見渡させる。

 ワンフロア全てが、見渡せる巨大な部屋。

 大きなテラスに、気持ちよさそうなデッキ。

 こんな場所があるなんて、外から見ても分からなかった。

「おはよう」

 振向くと制服姿の朝陽さまが立っていた。

「おはようございます」

 私は答えた。

「はい、これ」

 朝陽さまは私の手を掴んで、掌にカードキーを渡した。

「これがあればいつでもここに来られるから」

「あ、要らないです」

 私は即答して、返した。

「ダメだよ、薔薇苑さんは、ここに来るんだ」

 朝陽さまは、机に腰掛けて微笑んだ。

 太陽に光に照らされて、その笑顔は丸く美しい……けど

「その笑顔、嘘っぽいんですど」

 私は言い切る。

「……薔薇苑さん、本当に俺の婚約者出来るの? もう契約期間だよね?」

「余裕ですよ。学校では、その薄い笑顔でニコニコしてれば良いんでしょう?」

「薄い……?」

 朝陽さまが顔を歪める。

 まだその顔のほうがリアルだわ。

「さ、学校に向かいましょう。遅刻しますよ」

 エレベーターに向かう私の背中に、温度を感じる。

 そのまま背中から腕が回ってきて、背後から抱きしめられた。

 そして体を回転させられて、壁側に押しつけられる。

「時間は、まだ大丈夫だよ?」

 朝陽さまの顔が近づいてくる。

 私は顔と顔の間に鞄を入れて、一気にしゃがむ。

 そして朝陽さまの腕を掴んで、背後にねじ上げた。

「いたたたた、何?!」

「護身術です。使えますね、この動き。さ、行きましょう」

 ありがとう、スティーブンさん。

 まずはこの動きを憶えましょうって、特訓してくれてありがとう。

 私が何から身を守りたいか、ちゃんと分かってる。

 私は朝陽さまを掴んだまま、エレベーターに乗った。

 その景色は完全に犯人を連れて行く刑事。

「いたたた、もう離してくれよ」

「一階についたら、離します」

 何されるか分かったもんじゃない。

 エレベーターが一階に着き、私は手を離して、外に出た。

「離しましたよ?」

 私は距離を取る。

 スティーブンが防御も攻撃も自分が選んだ距離感からだと言っていた。


「……分かってるだろな。ここからは人目に触れる」

 朝陽さまの目が私を睨む。

 その冷たい瞳を見ると、むしろ私は安心するようになった。

 こっちが素だろう、たぶん。


「分かってますよ。松園朝陽さまに恥なんてかかせません」

「じゃあ、ほら、手を繋ごう?」

 朝陽さまは、にっこり微笑んで手を差し出す。

「……くっ……」

 私は俯く。やりたくない……。

「婚約者だろ? 薔薇苑桐子」

 再び冷たい言葉が振ってくる。

「……分かりました」

 形勢逆転。

 要するに人前では、私は朝陽さまのオモチャって事か……。

 朝陽さまに手を差し出す。

 その左手の薬指に、朝陽さまが指輪を入れた。

「な……」 

 私は左手を見る。

 大きなダイヤモンドが光る指輪……これは

「婚約指輪。会場に置いて帰るなんて、酷いな」

「ああ……」

 そういえばそんなものを渡されていた。

 昔なら、きゃあああ朝陽さまから指輪貰ったわああとテンションも上がっただろうけど、今は犬の首輪に感じる。

「さ、行こう、桐子?」

 朝陽さまはニッコリ微笑んで、私の手を取った。

 私は手を繋ぐ。

 汗ひとつかいてない、サラリとした掌。

 なんだか掌ひとつ取っても、現実味がない男だ。

 私は微妙に引きずられるように歩き始めた。

 うう……男の人と初めて手を繋いで歩く相手が、契約婚約。

 どうしてこんなことになっちゃったの……。

 私の悲しみとは真逆に、朝陽さまはニコニコしている。

「ああ、楽しいな、久しぶりに本当に楽しい」

「何がですか」

 私は下から睨む。

「二人きりの時には俺の腕をねじ上げる桐子が、学校だと下僕な所」

「……本物のSですね」

「ああ、気持ち良い。それに……」

 すっ……と朝陽さまが私に耳元に寄ってくる。

「僕だって男だから、二人っきりの時も覚悟してね?」

「気功も習います」

「あはは! やっぱり桐子は面白い」

 朝陽さまは私の手をしっかりと握り、掌にキスをした。

 うぐぐぐぐぐぐ……、投げ飛ばしたい……。

 キャー……朝陽さまが薔薇苑さんと手を繋いで登校してるわ……、今キスしてた! 婚約したんでしよね?

 朝陽さまとホテルから出てくるの、見ました?! え? 朝から一緒に……?

 ざわめく通学路を、朝陽さまは嬉しそうに歩く。

 私が考えていたことは、たった一つだ。

 護身術をもっと極める必要がある。

 教室に戻り次第、スティーブンに今日のレッスンをお願いしよう。

 図書館で護身術の本を借りよう。


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