妄想実現サイトって本気ですか?
微笑む笑顔から、私は目が離せなかった。
黒目がちな瞳と、長い首に、広い肩幅。
少し長めの髪の毛はきっと猫っ毛で、色は飴色。
風に揺れてふわふわと踊っていた。
テレビで放送していた【リアルにいる王子様特集】で見た瞬間、私は松園朝陽さまに夢中になった。
「かっこいい……」
「鳳桜学院ね。超お金持ち学校だよ」
「お金は無いけど、あんな人と恋愛してみたいな」
「芸能人みたいなものでしょ」
私、薔薇苑桐子は、歌舞伎揚げをパリッと食べた。
親友の親友の本田琴美は鉛筆を手元で回しながら、いつも通り冷静だ。
芸能人みたいなものだけど、リアルな高校生だもん。
私は妄想を始めた。
同じクラスで一緒に役員……図書館で二人っきりとか、あり得るわけでしょ?
本格的に気になって、パソコンを立ち上げた。
鳳桜学院で検索をしていると、画面上部に広告が見えた。
「妄想実現サイト……?」
私は文字をクリックした。
サイトが開くと派手なピンク色の文字が目に入った。
大きく【あなたの妄想、実現させます】と書かれている。
スレッドはない昔懐かしのBBSスタイル。
「見て琴美、面白いよ」
「あり得ない」
琴美はモニターを一瞥してノートの落書きに戻った。
まあそうなんだけどさあ……。
面白いじゃない、こういうの。
画面には【あなたの妄想を、かき込んでください。必ず実現します】と書かれていて、多数の書き込みが見える。
まあ半分以上が「妄想実現とか、バカじゃないの?」的なものだったけど。
私も笑って画面を閉じた。
でも、正直気になって仕方なかった。
なにより人の妄想に。
私は昔から小説や漫画、アニメが大好きで、いつも身近な事で妄想していた。
初恋の小学校の先生が、私のことを好きになって、二十四才差で恋愛?!
突然人の気持ちが聞こえるようになった私……中村くんが私を好きだって……え? でも本当は吸血鬼なの?!
グラウンドにうつる私の影……それは別世界への入り口で、影の世界で私は世界の支配者になる……。
妄想は多岐に渡って、それは私の将来の夢、漫画家にも繋がっている。
だから琴美が帰ってから、私は妄想実現サイトをこっそり立ち上げた。
「おお……意外とリアルなんだなあ」
そこに書かれていた内容は、クラスメイトの加藤くんが私を好きになって……とか、帰ってこなくなったお母さんが……とか、身近な物が多い。
もっと芸能人と恋愛したい! とか書かれてるかと思ったけど、みんな現実的だった。
私は小一時間、人の妄想を読んで楽しんだ。
「私なら……」
頭から離れない朝陽さまのことを思い出して、書き始める。
まずはお金かな。
宝くじが当らないと鳳桜学院には行けない。
金額は五億円くらい?
CMで聞いたことがある金額を書く。
そのお金を元にお父さんが起業。
起業しないと、五億なんて簡単に消えそうじゃない?
起業……なんだろ、食べ物?
どうせなら私が好きなもので。
ラーメン! ラーメンアイス! ラーメンのアイスじゃないよ? ラーメンに入れる専用にアイス。
この前、弟の伸吾が冗談で私のラーメンにアイスを落としたんだけど、食べたら美味しかったの……専用に甘すぎないの作ってくれないかな。
こってりラーメンに、あっさりバニラ……いや、以外とモナカ丸ごと?!
モナカ食べたい……あのカリッとした部分がラーメン汁吸ったら……意外と美味しくそう。
このアイスがバカ売れして、私は鳳桜学院に入学……初めての出会いで運命を感じて突然のキス! きゃあああ!
朝陽さまが委員長で、私が副委員長……私は彼を支え続けるわ……。
テストだって手を抜かない、私は朝陽さまが一位なら私は二位ね!
そして訪れる運命の時……サマーバケーション・パーティーで私は彼に告白されるの。
そこで彼にまとわりついていた性格最悪な婚約者は婚約解消! 私と彼は永遠の愛を誓うの……。
訪れる数々の試練に、ついに倒れるお父様と、話はクライマックスへ!
私はテンションそのままに書きまくって、椅子にもたれた。
「……飽きてきたな」
私はシナリオを見て言った。
とりあえずこれでいいじゃん?
私はその妄想をコピーして、妄想実現サイトにペーストして、書き込みボタンを押した。