小学三年生編〜 第三話 いつまでも、白雪林檎は幸せの意味を知らない-2
日曜日の正午、俺は早速野獣の森公園までやって来た。
「いよーう! タケルも来てたの? 私もさ、今来たんだよね!」
俺が野獣の森公園の入り口で突っ立っていると、不意に後ろから声が聞こえてきた。
「よう。なんだ白雪来てたのか」
「なんでい、なんでそんなに冷めてんの! せっかく林檎ちゃんが来てやったというのに」
言うなり、白雪はわざとらしくため息を吐き、両手を顔の横に持ってきてヒラヒラと振り、やれやれだぜと呟く。こいつ何様のつもりだ。
「んじゃ一緒に回るか」
そうして俺と白雪は野獣の森公園へと入っていく。
野獣の森公園とは名前の通り森になっていて、木々が茂っていて薄暗い。その森の中には無数の動植物が生息しているため、森の周りにはいくつもの監視小屋が整備されている。
「いやはや、野獣の森ってやっぱ不気味だねぇ〜。こんなとこで事件起きないと良いね」
白雪がそう呟く。今が初夏だからだろうか、白雪の額から汗が浮き出ていた。
「中々十分に怪しい場所だよな、今事件起こったらどうしよう……ところで、白雪は事件について知ってるんだよな。なんでわざわざ俺について来るんだ?」
今日の白雪の雰囲気がいつもと違くて、時折見せる不安そうな表情が気になって、そう聞いてしまった。
もしかしたら、昔の事件を気にして俺と接しているのかもしれない。
「いやー……やっぱそれはさ、幸せを祈ってるからかなぁ……」
白雪は顔を伏せて小声で言った。心なしか彼女の手が震えている気がする。
「だいたい、幸せってなんなんだよ。昔の事を気にしてやってくれてるってんなら……悪いけど帰ってくれ」
「そんな事はないよ。ただ、ただ私は……」
そこまで言って彼女は黙ってしまう。あぁ、恐らく俺が凄まじく怖い顔してたんだろうな。彼女の視線は地面へと泳ぎ、そこで留まってしまう。
そうだ、実際に月野の事を本気で心配しているのなら【幸せ】だとか無視して俺に全てを教えてくれるはずなんだ。それなのに彼女は俺に真実を教えようとしない。
これは本気で月野を救おうとしていないからなんじゃないのか、罪の意識から仕方なくやってるだけなんじゃないのか?
次第に俺の中で疑惑の念が増幅してゆく。
そして、それが遂に言葉になってしまう。
「優しさで嫌々やってんならさっさと辞めてくれ。こっちは本気なんだ」
「そんな、そんな事言わないでよ。そんなんじゃ……」
ジワリと白雪の瞼に雫が貯まる。
フワッと、森の木々を踊らすかの如く風が吹いた。
その瞬間―――彼女の瞳から、何か大事な感情を育てるかのように、一粒の光が落ちた。
「もういい! 今日は帰る! でもこれだけは忘れないで、輝夜は助ける!」
白雪はそう怒鳴った後、物凄いスピードで走って帰っていった。途中、業者のおっさんにぶつかって謝っているのがやけに印象に残った。
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白雪が帰ってから数時間、一向に手掛かりは見つからない。
「そろそろ、なんか閃いてもいい頃なのにな」
額に滲む汗をぬぐいながら、俺は一人呟く。
白雪の情報なんぞ知るかい、自分の力だけで助けてみせる。
空は紅に染まり始め、そろそろ活動限界といったところだ。
「日が暗くなって来たな」
「荷物はこっちに運べよ」
すると、俺の前を業者さん二人が歩いて行った。こんなクソ暑い中、あくせく働いてご苦労さんって感じだ。
二人は小屋までたどり着くとそこで荷物を下ろす。
「ここなら大丈夫だろ」
「まぁ、周りからも目立たないような場所だもんな」
彼らがいる小屋はこの野獣の森公園の監視塔の中で最もボロく誰も使いそうのない小屋だ。
「太陽の動き的にちょうど影に包まれる時間帯だしな」
「ヘマするなよ」
ツナギを来た業者さん達は何やら怪しい話を繰り返している。まるで何か事件を起こすかのように入念にチェックをしている。
「電波と足は大丈夫か?」
「電波は大丈夫だ、移動手段も整えてある。まさかこんな所で隠れているとは思うまい」
俺の中で心が叫んでいる、こいつらパターン青だ。