小学三年生編〜 第二話 どうしても、大堀タケルは大切な事を思い出せない -2
「月野輝夜の命が危ない」
それは、かつて月野輝夜を虐めへと追い詰めた元凶の一人―――白雪林檎からもたらされた情報。
彼女曰く、この事件に関しては俺が気付き俺が動かないといけないらしい。
本当なら今すぐにでも動き出して、その事件を未然に防ぎたいのだが、あろうことか俺はその事件に関しての記憶が一ミリもない。
しかし、前の人生で彼女は三年生以降も生きていた。それでも、命が危ない。きっと彼女は死にかけたのだろう。今回、その事件で死なないとは限らない。なぜなら、今回の人生では前の人生と多少違うところがあるからだ。だから、死なないとは言い切れない。ちくしょう……いったいどういう事なんだ。
太陽がギンギラギンに輝くお昼時、今は学生達の楽園であり地獄でもあるの時間。そう、昼休みだ。特に俺なんかにとっては地獄でしかない。友達いないからな。
友達作らないって決めてるから……。はぁ……。
そんな昼休み、俺は校庭の隅っこの雑木林の中の丸太に腰掛けて休んでいた。ここは中々人が来ないので考え事をする時便利である。
俺は大きく息を吸い伸びをする。遠くではしゃいでる輝夜を横目で見ながらどうするべきか考える。
いっその事輝夜本人になんか直接聞いてみるか、いやでも何言ってんのこいつ。って変態さんになって終わりだろうし。うーむ……。
そんな風に難しい顔をしていた時である。
「やっほい! どしたのタケル君。梅干しみたいだよ」
「うわっ!! うわわっ!」
俺の上から顔が現れた。正しく目と鼻の先にいる少女は心底心配そうな顔をしている。木の枝に足を引っ掛けてコウモリみたくブラブラとしている。スカートが完全にめくれていて縞パンががっつり見えてる。
「あはははぁ!! めっちゃ驚いてる」
こんなアホな行動をする奴は一人しかいない。
「いきなりどうしたんだよ月野」
そう、月野輝夜だ。
「いや、なんかタケル君が凄い怖い顔してたからさ」
勢いをつけて、地面に着地した彼女は真剣な表情になる。輝夜はいつも他人の事ばかり心配するのだ。過去にとんでもない過ちを起こした俺に対してもだ。
「そのな……例えばの話だぞ、自分が命を懸けてでも守ろうとしていた人が命の危険に晒されるんだ。そして、命の危険に晒されることは分かってるけど、どうすれば助け出す事が出来るのか分からない。って状態になったら月野はどうする?」
俺がそう問いかけると、月野は少し顔を赤らめたかと思うと直ぐにもとに戻し話し始める。
「そうだなぁ……私なら、何があっても助け出す為にずっとその人にくっついてるかな。でも、その大切な人もタケル君の事が大切かもしれないよ」
「そっかぁ」
俺が訝しげに呟くと、月野は指をピッピのようにフリフリしてこう返す。
「でもでも、タケル君の助けを待ってるはずだよ」
その言葉を聞いた時、俺は何が起こっても彼女の命を救うと決意した。
「じゃねー……信じてるから」
そう言った後、彼女は友達の元まで駆けて行く。最後にボソッと呟いた。
それが妙に心残りだ。