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小学三年生編〜 第一話 やはり、 大堀タケルは過去を振り返る

 あの日から数年たった今、俺たちは三年生になった。一昨年、去年と訪れたクラス替えで月野つきのと同じクラスになる事が出来ず、今年、念願叶ってやっとこさ月野と同じクラスになる事が出来たわけだ。


「こら! 月野さん! 今すぐそのトイレットペーパー外しなさい!」


「えー、今ほうれん草ごっこしてたのに……もう少しだけ」


 俺の思い人―――月野つきの輝夜かぐやは身体中にトイレットペーパーを巻いて友達の前でクネクネ踊っていた。どっちかと言うとミイラごっこだと思うんだけどね。


 この前までは一年生でまだ大したことなかったが、三年生に上がって来て段々と昔の月野に近づいて来たらしい。そう、何を隠そう月野輝夜は超ド級ハリケーンレベルのハチャメチャ系破天荒ガールなのである。


 そんな月野と同じクラスになれた訳なので、俺は今日も愛おしそうに月野を眺めていた。


 そんな時だった。


「あんたさ、今でも輝夜かぐやのこと好きなわけ?」


「そりゃあ勿論す……え?」


 輝夜というのは月野の事だ。そして、俺はこの【やり直し】後の人生で一度も月野を好きだと口外していない。


「いやだから、まだ輝夜ちゃんの事好きなの? って」


「いや、好きも何も俺元から……」


 そこまで言いかけた時、言葉が詰まる。過去の過ちが脳裏をよぎる。今俺が言おうとした事は俺の罪の事を考えるととてもじゃないが言って良い言葉ではない。


「続きは?」


 それでも、目の前にいる少女は続きを催促してくる。


「いや……その」


「言えない、言いたくないって事ね。じゃあまだ好きなんじゃない。それに私と同じだ。後悔してる」


「お前、まさか」


 俺はここまで知っているこの少女から俺と同じモノを感じ取った。


「そう、その【まさか】だよ」


 少女は一呼吸置いてから再び口を開く。


「私もタイムスリップして来た」


 ――――――――――――――――――


【やり直し】前、小学六年生時代―――タケルの罪―――全ての事件は始まった。


 今は給食の時間、給食当番が配膳台から盛ってもらった給食をせっせと運んでいる。


 大堀タケルは四つの席を四角形にくっ付ける作業が終わり机に突っ伏しているところだった。


「ねぇタケルって誰が好きなの?」


 そんなタケルの肩をトントンと叩き、顔を赤らめながら問う少女がいた。

 その少女の名は白雪林檎しらゆきりんご。肩あたりで髪を切りそろえ、活発なイメージが漂う少女だ。


「ん? いないよそんな人」


 タケルは起き上がり無愛想に答える。そして再び眠りにつこうとするが


「嘘だぁ、そんな事ないでしょ! いいじゃん教えてよ!」


 と林檎は引き下がるつもりはないらしい。


「いねぇってば!」


「小屋ちゃん? 宝ちゃん? 誰かなぁ〜」


 などと言う会話が給食の間中続き。


「うっそぉ! 輝夜かぐやちゃんなの! そうかそうか輝夜ちゃんかぁ」


「あぁもう面倒だなぁ。そうだよ月野つきのだよ」


 隠すのがかったるくなったタケルは月野の事が好きであるとあっさり自白。それが彼にとって運の尽きだった。


 翌日―――いつも通り学校へ向かって教室に入る。すると


「よぉタケルお前月野が好きなんだってな」


「あいつ元気いっぱいだもんなぁ、お前が好きになる理由分かるよ……クスッ」


 皆が皆、タケルが月野輝夜を好きだという事を知っていたのだ。犯人は当然、林檎だ。


 それからというもの、タケルは月野で散々からかわれた。


「今日は月! が綺麗だなぁこんな日は野! 原でも行きたいなぁ」


 と理科の時間に叫ばれクラス中で笑い者にされたり。


 その時月野は一組で、タケルは二組だったので、無理矢理一組に押し込まれたりした。


「よぉ! タケル。お前の嫁さん近くにいるぞぉ、連れてきてやろっか」


 一組の児童は盛大に笑い月野とタケルをバカにし始める。ただでさえ女の子が苦手なタケルに取ってこんな自体は地獄でしかなかった。


 そんな日々が数週間と続いたタケルと月野は昔でこそ良く話したものだが、今では一言も話さない仲になってしまった。


 そんなある日、タケルの下駄箱に一通の手紙が入っていた。


 送り人は月野輝夜その内容は


【大堀、話があります。放課後うさぎ小屋の前で待ってます】


 というもの。誰かがハメたのかと思ったタケルだったが、その日の放課後、うさぎ小屋まで向かうとそこには月野輝夜が立っていた。そよ風と共に長い髪が揺れている。


 太陽は傾き始めて月が顔を出そうとしている。


「よぉ月野、んで話ってなんだ」


「あの……さ、本当に私の事が好きなの?」


 その時間帯は夕焼け時で赤色が支配していた。だから、月野の顔が紅に染まって見えたのかもしれない。


「ん? いや、その、なんかな」


 タケルはその質問に対して答える事が出来ない。


「いや、私はさ。タケル君が私を好きって言ってくれて嬉しかったし、『タケルのお嫁さん近くにいるぞ』とか呼ばれるのまんざらでもないってゆうか……」


 その言葉を聞いてタケルは思ってしまう。


(こいつは今何て言いやがった、『タケルのお嫁さん近くにいるぞ』と言われるのが嬉しいだと? 俺はあんなに嫌だったのに、傷ついたのに、悩んだのに。ふざけてるふざけてやがる)


 そんな感情に支配されてしまう。


 目の前でタハハハと笑う彼女をこの瞬間心底憎いと感じてしまった。


 そして、


「フザッけんなよ! この性悪女! 俺がからかわれてるのが見てて楽しいか!? あぁ! クソ野郎!」


 そんな事を言ってしまった。その時、月野がどんな表情をしていたのかタケルは分からない何故なら、とてもじゃないが月野の顔を見られる状態ではなかったからだ。


「そっか、そうだよね。ごめん……」


 そのままタケルは踵を返し帰路へと向かう。その時タケルが分かった事は月野輝夜の声が震えていたことと、その日の夜空がとても輝いていた事だ。


 ――――――――――――


 翌日、冷静になったタケルはあの時の月野の言葉を思い出す。あの言葉の意味を履き違えていたとやっと気付く。


「月野に謝らないと」


 許してもらえるとは限らない。だけど、謝らないと気が済まない。許してもらえるといいな。そう思いながら彼は登校した。


 しかし、運命はそんなに優しくはない。


「ねぇ、月野さんって大堀がからかわれてるの見て楽しんでたんだってよ」

「何それ超酷くない。うち、あの人の事キライになったかも」


 教室に入るなりそんな会話が聞こえて来た。


「なぁ、月野ってそんな奴だったのか」


(違う、違うんだ。月野はそんな事を考えていない)


「私、昨日の帰り見ちゃってさぁ。タケルが月野に怒ってるところ」


 そう皆んなに話しているのは白雪しらゆき林檎りんごだ。林檎はタケルを見つけタケルに走り寄ってくる。


「タケル、大丈夫だった? 気付いてあげられなくてごめんね」


 タケルの胸に頬を当て林檎は涙ぐむ。この話は白雪林檎を介し瞬く間に学校中へと広がった。


 そして、その日から月野輝夜に対する虐めがスタートした。靴を隠され、悪口を言われ、無視され、机には落書き。俺のせいで始まった虐め。俺はそれを止める事が出来なかった。それどころか行動を起こす事すら出来なかった。俺はただ、ただただ見ていただけだった。


 そして、月野は卒業式の日に月野の元まで行った俺に対しぎこちない笑みを見せた。それ以来俺は月野にあっていない。


 俺はあの笑みの理由を苦しい形で知ることとなった。

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