小学一年生編〜〜 第ニ話 結婚して〜〜!!
案の定俺は熱を出して寝込んだ。
実家ではずっと眠っていたから家族と大して話してない。
翌朝、すっかり元気になった俺は意気揚々と懐かしの通学班の元へ向かった。
今は無きひろみ薬局の前、そこが俺たちの通学班の集合場所。
ツバ付きの黄色い帽子をかぶり、薄っぺらい教科書を入れたランドセルを背負って、俺は歩き出す。
「行ってきまーす」
「行ってらっしゃい!!」
うん。本当に懐かしいやり取りだ。今やほとんど会話もない状態だもんな。
通学班で一年生ってのはヤケに心配されるんだよな。
今も六年生のお姉ちゃんに手を繋がれてる。窓に映った俺超可愛い。
懐かしの通学路、昔は随分と殺風景なところだったんだな。土の上を歩き、川の横を通って俺は学校へと向かう。
今はもうコンクリートで埋め立てられた場所を進んだ。
桜舞い散る校門を潜り抜け、俺は下駄箱まで歩いく。
おおほりの上靴を履いてから【つきの】のところに靴が入ってないか確認してしまう。
この癖は俺の最初の小学生時代から直ってない。気になる人の靴があるかないかは気になってしまうものだ。嬉しいことに月野はすでに学校に来ていた。
クラスに入ると皆んな一斉に俺の所に来て、
「おおほりさんだいじょーぶだった?」
「きのーはね! こんなことしたんだよ!」
って一生懸命に教えてくれる。小さい子って純粋で良いよな、俺も小さい頃に戻りたい。戻ってんだ……。
「そーなんだ、ありがとう!」
俺も出来る限り幼い喋りと笑顔を作り出しそれに答えた。かなりぎこちない物になってると思う。
俺が子どもたちに囲まれて机に行けないでいると懐かしい声が聞こえた。実際には懐かしい声と似ている声色だが、誰が間違えようか、何年も思い続けた人の声を間違えるものか。
「わたしも休んじゃった! たける君、一緒に教えてもらおう!」
そう、月野輝夜だ。未だに忘れない、腰まで伸ばされた髪、白人ハーフのような出で立ち、透き通るような瞳を。
「あ……うん」
またやってしまった。この素っ気ない感じ、昔っから俺は女の子に弱いのだ直ぐに顔が赤くなってしまう。
そんな俺を無視するように月野は俺の手を引っ張って机へと連れて行く。
「こっち来て私たちに教えて!」
彼女は元気よくさっき寄ってたかってきた子たちを呼んだ。
――――――――――
その子たちによる訳のわからない説明を受け終わった俺たち。
「あの……誘ってくれてありがとう」
俺はどうしても俯いてしまう、顔を直視出来ない。つーか何に誘って貰ったんでしょうね、訳が分からない。なに言っちゃってんだ。
「え? 全然へーきだよ!」
月野は二へーっと笑い全力でピースサインをかまして来た。
その元気さにつられて、ようやく月野の方を直視出来た。その笑顔はあまりに可憐で、美しくて、涙が溢れそうになった。
「どうしたの、大丈夫?」
「あぁ、平気平気だいじょーぶ!」
慌てて取り繕い平然を装った。
過去、俺がしてしまった罪は重い。そんな俺が彼女から再び笑顔を貰う資格があるのだろうか。
――――――――――
時は朝の会。
「きりーつ! れーい! ちゃくせーき!」
教室に響き渡るおばちゃん先生の声。相変わらず甘ったるい。
「はい、じゃあカグヤちゃんとたけるくんはアサガオ植えに行こっか」
座るやいなやおばちゃん先生は俺たちの元へやって来てそう言った。全てが記憶通り。
俺と月野は席をたち、種を貰って廊下へと出た。
「みんな少しの間待っててねー!」
それと同時に先生も出てきて、
「じゃあ着いてきて」
俺たちは先生に着いて行く。
その間、月野は俺の顔をジロジロと舐め回すように見てきた。
「たける君てヒーローみたいだよね」
「え……。いやそんなやつじゃ」
いや、俺はそんな奴じゃない。俺は誰かを救うどころか傷つけるクズだ。
「そんなことないのにな」
月野は窓から空を眺めて何かを思い出すように呟いた。
「私、たける君のお嫁さんに慣れたらいいな」
そんな風に、小さい声で、俺の記憶とは多少違う形でプロポーズされた。
「えへ、何でもないよ! 気にしないで」
俺が困っていると月野は舌を出して笑い先生の隣へ行ってしまった。
俺が知っている過去のプロポーズは花を植えている時に
「たけるくんってかっちょいいよね! けっこんしてぇぇぇぇぇ!!」
みたいな感じだった、それにその日はずっと追いかけ回されて、俺がずっと逃げてたら下校際に『離婚よ!』なんて叫んで泣いて帰ってた。
だけど、今回は種を植えている時に話したのはクラスの子のことだし、教室で追いかけ回される事もなかった、勿論離婚よ! なんて言われない。
どうやら俺の知ってる過去と多少のズレがあるらしい。
ただ、気掛かりなのは今日一日月野が浮かない顔をしていた事だ。