プロローグ
俺にはやり直したい恋がいくつかある。高校に入った今。なぜあの時あんな事をしたんだろうと後悔している。
俺の時間は止まったままだ。女々しい男だよ。
いくら願っても、祈っても、あの日々は二度とやってはこない。
もう一度やり直せたらどんなに嬉しいか、失敗した恋を再スタートできたら、どんなに幸せか。
毎朝下り電車に揺られながらそんな事を考えていた。都会に越した彼女がホームに居ないかと覗いてみれば現実を見て涙する。
そんな日常をぶち壊したい。右隣りにいる人のイヤホンから音漏れてる失恋ソングと左隣でイチャラブしてるリア充どもが憎たらしい。なんだこのギャップ。
俺は電車に乗りながら、スマホを手に取りTwitterを開いた。どうしても彼女をフォローする気になれない。何度もフォローしようとしたが、彼女の俺をウザそうに見る顔が頭に浮かんでしまいフォロー出来ない。ちなみに彼女のツイートは鍵垢なので見れません。気になる。
電車が大きく揺れた。俺は吊り革を持つ手の力を強めて、Twitterを閉じる。彼女からフォローはこない。きっとそれは永遠にこないだろう。俺は彼女の気持ちを踏みにじったわけだし。
俺は検索エンジンに失恋系の言葉を思いつく限りで打ち込んだ。2ちゃんのスレでも見て傷の舐め合いでもしよう。そう思っての行動。
テキトーにスマホをタップしてそれらしい記事を探す。うわ〜〜失恋スレめっちゃあるな。
その中に一つ。一際目立つ掲示板があった。装飾的に目立つわけじゃなくて、なんと言うか、俺がスルー出来ない何かを放っていた。
そのスレタイはこうだ。【もう一度人生やり直してみませんか?】
人生にやり直しがきく。それってどうなんだろうか。
ただの釣りだろ、俺は大して期待せずにタップした。
ページが飛ぶ、その掲示板にはたった一言こう書かれていた。【過去に戻りたい方そんな人がたどり着く掲示板です。このURLをクリックして下さい。きっと過去に戻れるはずです】
明らかな釣り。なんか危ないサイトへ飛ばされる事は見えてる。
だけど、微かな希望が俺を動かしてしまう。どうかまた会えますように。心が叫んでる。
頭では押してはいけないと理解してる。けれど、でも、心が邪魔をする。胸の奥が俺を支配していた。
俺はそのURLをタップしてしまった。
ちくしょう、俺はどうかしてる。
何も起こらない。俺はやっちまったと肩を落とし、小さくため息を吐いた。流れ行く街を見ようとゆっくり顔をあげる。
直後、ブワッという風の轟音が鳴り響く。電車と電車がすれ違う音だ。
向かいの電車の中に見覚えのある顔があった。
「あれは……月野!!」
電車がげん台駅に停車し、俺は上り電車に乗ろうと走り出した。
その瞬間。激しいフラッシュが眼前に広がり俺の意識はフェードアウトした。