朝食2
レイドルートの瞳がさらに細められる。
突き刺さる視線に、リオルは目線を外したいのに外すことができない。
…よくわからないけど、とにかくなんだかまずい。
「あの…行ったのは管轄の役場ですし、危ないところには行ってないし、…それにいざとなったらザインに守ってもらうし」
しどろもどろに弁解するが、兄の表情は固いままである。
おもむろにレイドルードは近くにあったリオルの手を取り、目線は外さないまま、手の甲を口元に付ける。
リオルは青ざめていたはずの顔に血が急激に登って行くのを感じた。
…とってもまずい!
「あ、あにうえ…」
.「…次はないよ…?」
リオルの柔らかい手のすぐ向こうにある、射抜くような視線を受け、それでなくともビクビクしていた彼女の心臓は跳ね上がった。
硬直する彼女をよそに、レイドルードは、差し出された形となった彼女の手の人差し指を持ち上げ、…指先をゆっくりと口に含んだ。その情景が恐ろしく艶かしい。
今更ながらに兄が一人の男性であることを自覚させられる。
軽く甘噛みされた時、リオルはえもしれない感覚が身体を突き抜ける感触がした。
「っっ…」
堪らず声が漏れる。するとレイドルードは満足したかのように、口端をわずかに持ち上げた。
その後、レイドルードは何故か楽しそうに、私室へ引き上げて行った。
残されたリオルは、なんとか火照った顔を戻そうと一生懸命首を振っていた…。
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「申し訳ありません、レイドルート様。弟にはきつく言っておきます」
レイドルートの執務室で、入室するなり、美貌の侍女は頭を下げた。
対する部屋の主は、目を通していた書状を傍らに置き、ふんわりと侍女に微笑んだ。
「君を責めるつもりはないけどね。寧ろ僕の不在中に妹の面倒をよく見ていてくれたことに、感謝しているし、ねえマイリカ」
侍女ーマイリカはふう、とため息をつく。
その色気大放出気味の胡散臭い笑顔で、数々のご婦人方はどうにかなっても、自分自身の妹にまで被害を及ぼすのはどうか、と言いたい気持ちを抑え、自分もニッコリと微笑む。
「ありがたいお言葉ですわ。ですが、リオル様は私共の手がほとんど必要ない位、身の回りのことはご自分でされるので、私がお役に立てることはそこまでありませんけれども…」
リオルは、ほっとけない雰囲気を醸し出しつつも、結構一人でなんでもやってしまう。
今ではレイドルートの仕事の一部を任され、今回の外出もその一環だった。
ザインはリオルの乳兄弟でもあり、幼い頃からリオルを護るための特殊教育を受けているため、主に護衛が主任務となっている。
その彼が、リオルについているのは当たり前といえば当たり前なのだが…。
「王宮内で、王太子達と話していた時にリオルの話題が出てね」
突然硬い声になった主人の声に、マイリカははっとする。
「王太子様ですか…」
とりあえずここで一旦区切らせていただきます。