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彼女の憂鬱。  作者: sige
1/7

はじまり

…えっと…。


目覚めた目の前には、もう少しで吐息が触れ合いそうなくらい近くに、とてもよく見知った顔が存在している。わたし、リオルが知る限りでは、最も秀麗で、優雅な青年の顔。濃い碧の瞳にそれを縁取る長めの睫毛。真っ直ぐな鼻梁と艶やかな口元。そして、自分を見つめる熱を込めた眼差し。

そう、まるで最愛の恋人に向けるような。

ここで、通常なら、棚ぼたな状況に内心歓喜し、潤んだ瞳で青年を見つめ返しでもするんだろう。私だって、恋愛にのひとつや二つ、経験はないことはない。(……全部こういったシチュエーションにさえもならずに終わったけど。)

…でも、今のこの状況は、根本的におかしいと気づく。



「…あ、兄上?」


怖々尋ねると、目の前の美形は、目元を緩め、そして蕩けるような笑みで答えた。



「おはよう、リオル」


そしてそのまま、目覚めたばかりの妹の頬に、艶やかな唇を寄せキスをする。



「今日は一緒に朝食をとろう。料理長にリオルの好きなヴィシソワーズを頼んでおいたからね」


食べ物の誘惑に無意識で頷いたリオルを満足そうに眺めると、青年は颯爽と部屋から出て行った。


一方、残された妹は、決して目覚めからくる頭の鈍さだけではない、強制的に思考を真っ白にさせられる出来事に、動けずにいる。



ーいまの、なに?

まず、兄上が肉親とはいえ、仮にも女である私の寝室まで来るって初めてだし、なんだ、あの近距離は。

で、最後のが極めつけで意味わからない。

…親愛のキス、今ほっぺただけじゃなかったような…違うとこもかすって行ったような…

なに…?

…これってまだ夢の中だったっけ?ああ、それならそうと…

自己完結させようとしていたリオルに、無情にも別の声が飛んだ。



「おはようございます、リオル様。レイドルート様が昨晩遅くにお帰りになられて、リオル様と御朝食を御一緒されるとのことです。お支度にまいりました」



凛とした声が寝室に響く。リオル専属侍女のマイリカだ。

先ほどの一連の出来事が、夢の中ではなかったことに、リオルはますます冷や汗を流すことになった。


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