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3 「Always With You」


久我は良いこと思い付いたと言わんばかりの表情で万里に向かって微笑んだ。


「いやいや久我さん、いきなり『ウェディング・ロマンサー』見たくない?って言われても…………どうしようっていうんですか?」


「実は丁度一時間後に、衣装付きで通し稽古なんだよ。一応ゲネプロは明日ってことになってるけど、ほとんど本番みたいなもんだしさ。」


「え、でもまだ初日明けてないのに良いんですか?」


「いいのいいの!演出の加賀美さんには俺から言っとくよ。」


「え、いや、でもですね」


「よっし、そうと決まったら加賀美さんとこに頼みに行こう!」


「ええ?いや、久我さんちょっと待って」


「♪♪♪~~~」


(人の話を聞けーーーー!!!)





そんなこんなで一時間後の今、万里は何故か皇国劇場のだだっ広い客席のど真ん中に、一人で座っている。


まぁ、客席の前方には演出の加賀美や、演出助手の人などもいるので本当に一人と言う訳ではなかったが。



(『ウェディング・ロマンサー』かぁ………。確かに面白そうなミュージカルだったから、早めに観に行きたいなーとは思ってたんだけど。)



今回、悠紀生が主演を演じるミュージカル、

『ウェディング・ロマンサー』は、本場・ブロードウェイミュージカルのラブコメディーだ。


元々が80年代のアメリカ映画なだけあって、

まさにアメリカン!って感じのミュージカルになっている。


主人公はビリーという青年。

幼なじみのマリーにずっと片思いしているのだがその彼女がもうすぐ結婚してしまう……というところから物語が始まる。


借金のかた(・・)に金持ちに嫁ぐという彼女の結婚を止める為、結婚式場に乗り込むまではいいのだが、そこで他の新郎新婦達まで巻き込んでの大騒動に発展してしまう。

途中からビリーに片思いするカレンが乗り込んできたり、マリーのおばあちゃんが出てきたりで事態はどんどんとんでもない方向に!

絶体絶命のピンチにもなるが、最後は式場中のカップルを味方にしての大作戦を決行し、ビリーとマリーは結ばれて、めでたしめでたし。

最後はハッピーエンドで終わる春の公演にぴったりのミュージカルだ。


今回は劇中で死ぬ人がいないし、心の底からの悪人もいない。ハムレット宜しく、死ぬほどのたうち回りながら、悩みの果てに死ぬような役どころではないので、今回は役作りでそんなに苦しむことがなく、悠紀生も気負うことなく楽しんでるようだった。

共演者には先輩と慕ってる久我もいるので、稽古期間から悠紀生が随分楽しそうにしていたのを万里は覚えている。




(悠紀ちゃんに、「万里ちゃん好みの演目だから観においで」って言われてはいたけど、当分は無理そうだなーって思ってた所だったんだけどなぁ。)




まさか、こんな反則ぎみの方法で一番に観れることになるとは思いもしなかった。


万里は『ウェディング・ロマンサー』のミュージカルナンバー(劇中曲)である「Always with you 」を鼻唄で歌いながら舞台を眺めた。


この曲はここ最近、悠紀生がずっと口ずさんでいた曲だ。


ビリーがマリーに愛を告白する、最後の大事なシーンの曲で、このミュージカルを象徴する曲と言っても良い。


ー 何もないけど、愛だけあげる。いつも一緒に生きていこう。 ー


そんなメッセージが込められた曲だ。

ここ1ヶ月、ふと気がつくと悠紀生はいつもこの曲を歌っていた。

気になった万里は、いつだったか何でこの曲をそんなに歌っているのか、聞いたことがあった。




「うーん………僕が、ビリーに一番共感できる曲だから、かな。」




悠紀生はそう言って、意味深に微笑んで部屋を後にしたので、結局のところ理由はよく分からないままだ。


悠紀生には、誰か愛を告げたい相手でもいるのだろうか。



万里はちくりと傷んだ胸の奥に気づかない振りをして、そのまま「Always with you」の鼻唄を歌い続けた。












*************





一方、その頃。



「ゆーーきーーちゃん♪良いこと聞きたくない?」


「久我さん……どうしたんですか。なんかさっきからテンション高いですよね。まだ初日は明けてませんよ?お客さんいませんから。」


悠紀生は絡み付こうとする久我をあしらいながら、舞台袖に移動する。

この後すぐに通し稽古だ。


「良いのかなー?そんなこと言って。今日は客席にスペシャルゲストが来てるんだぜ。」


「スペシャルゲスト??」


「これ、なーんだ♪」


久我はしてやったりと言わんばかりの顔で紙袋を掲げて見せた。


「え?あ、これ?!」


まさか。

悠紀生は紙袋の中身を覗いた。想像通りのものが入っていたことと、その事がもたらす事実に、悠紀生の顔があっけにとられる。


「そ、今日はお前のお姫様がご観劇さ。」



万里が来ている。


悠紀生は楽屋廊下から見えない客席を扇いだ。









次は悠紀生視点になります。

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