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2 「皇国劇場へ行こう!」

天美は芸能関係者ではないので分からないことは予想で書いてます。

どこかおかしいとこがあってもそこは物語だと思ってご容赦をしていただけると嬉しいです。


あれから2時間後。


時は12時。日比谷周辺、皇国劇場前。

三日後に、ミュージカル「ウェディング・ロマンサー」の公演が始まるはずの場所だ。


万里は左手に見える皇居の堀池を眺め、そして荘厳にそびえ立つ劇場の正面玄関を睨み、ため息をついた。


(本当、何で来ちゃったんだろ?)


結局、気になって来てしまったのだ。悠紀生が共演者との人間関係を悪くしないように。と言ってしまえば聞こえが良いが、結局は万里が悠紀生に甘いだけだ。


取り敢えず、万里は地下街に降り、劇場の楽屋口の前に向かった。

皇国劇場の楽屋口は地下にあり、皇国劇場の地下街の通りを普通に歩いていると、楽屋口がひょっこり現れる。


万里は皇国劇場の楽屋口にたどり着くと、そのまま入らずに楽屋口の標識を見上げて唸りだした。


もしここで既に公演が始まっていたなら。

その日の公演が終わった後に、悠紀生の関係者として堂々と入って行けばいい。終演後に元共演者や友人が出演者の楽屋を訪れることはままあることだから。


ただし、それも公演が始まっていたなら、だ。


今日は「劇場入り」。悠紀生がこの日に何をしているのかなんて知ったことではないが、恐らく忙しいんだろうなというのは分かる。


(それもこれも悠紀ちゃんがぬか漬けを忘れるのが悪いっ!)


取り敢えず、皇国劇場まで来てみたは良いが、その後のことを何も考えてなかった。


ここは日々谷だ。少し歩けば銀座も近い。いっそのこと、ぬか漬けは放って置いて銀座でパンケーキを食べて帰るのもありかも知れない。

でも、悠紀生にぬか漬けを渡すなら今日しかないのも確かだ。


悩みだした万里はただ立ってもいられず、ぐるぐると楽屋口の前で回りだした。

端から見ると異様な光景だが、幸いなことに誰も見てはいない。

思いきって忍び込むか?と思ったその時、万里の背中に誰かがトントンと手をかけた。


「万里ちゃん……だよね?どうしたの?こんなとこでぐるぐる回って。」


「……あれ、久我さん?」


「お久し振りだな、万里ちゃん!」







*************







「助かりました、楽屋に入れて頂いて。」


「いやいや、大したことじゃないし。入りたかったら楽屋口でうろうろしてないで、悠紀に電話すれば良かったんじゃないか?」


(しまった、その手があったか。)



結局、たまたま他の仕事で劇場入りが遅かった彼に連れてもらい、楽屋に入ることが出来た。


万里は、隣に並んで歩く男をそっと見上げた。彼は今年で30代後半にさしかかるはずだが、全くそういう風には見えない。

顔を見つめると、視線に気づいていた彼にウインクで返事をされた。

気恥ずかしくなって慌てて前を向くが、今さら遅い。

隣でクツクツと肩を揺らして笑っているのが肩越しに伝わってきた。


(もー、この人も変わんないな。)





彼の名は、久我誠也(くがまさや)。彼もまたミュージカル俳優だ。

ただ彼の場合、その活動の幅はミュージカルに限らず、ストレートプレイ(普通の演劇のことだ)、ミュージシャン等、何でもありだ。


主役級の役をやることが多い悠紀生と違い、彼が演じるのは準主役級がほとんどだ。

人気がないとかそういうのではない、むしろ逆だ。

彼はどんな役でも自分色に染め上げてこなしてしまう。そう、どんな役でも、だ。

そんな彼は結構ドギツイ感じの役柄のオファーが多い。


悪役とか、濃いキャラのオカマとか、何かしらの神様だとか、ナイーブな青年とか(良い年して青年役をやるの?とか言ってはいけない)。


本人も心の底から楽しんでいるようだし、彼のファンもまた、そんな彼の演技を楽しんでいるようだ。




「しっかし、久しぶりだろ?万里ちゃん。最後に会ったのはいつだったっけ?」


「久我さんが最後に悠紀ちゃんと共演して以来なんで、一年ぶり位ですかね?」


「そっか、そんなになるか。相変わらず悠紀のお世話してんの?」


「今のこの現状を見られたらお分かりになると思います……。」


「ハハッ!お疲れさん。ところで何でわざわざここに来たの?初日がまだなの知ってるでしょ?」


万里は手に持った紙袋を無言で持ち上げた。

長い付き合いになる久我はそれだけで察してくれたらしい。

腹を抱えてケタケタと笑いだした。


「ホントにお疲れ様だね!万里ちゃん。なんか奢ったげようか?」


「いえ、お忙しいところにお時間は頂けません。それより!これ、悠紀ちゃんに渡しといてもらえます?」


「お安いご用だよ。また今度デートしようね♪」


「あー、ハイハイ。」


万里は久我にぬか漬けが入った紙袋を手渡し、振り返った。


「それでは、久我さんもこれから合流するんですよね?お忙しいとこありがとうございました!」


「え?万里ちゃん帰っちゃうの?せっかく来たんだしもう少し居なよ。」


「いや、そうは言いましても………公演も始まってないのに部外者が長居するわけにはいかないじゃないですか。」


「うーん、でもただ帰らせるのも面白くないし。」


(オイオイ。)


「お、そうだ。この後時間はある?」


あ、何か悪いことを思い付いた顔だ。

きっとろくでもないことを言い出す、それでも言い出したら聞かないのが彼だ。

万里は返事をするのを躊躇った。

なんだか悪い予感がする。


「え、ええ。まぁ、時間は大丈夫ですけど。」


久我は悪戯な笑顔を閃かせ、万里の手を取り囁いた。


「万里ちゃん、一足先に『ウェディング・ロマンサー』観てみたくない?」












「…………………へ?」





皇国劇場は、実在の場所を一文字いじっただけだったりします。

あの劇場は格調高くて、歴史があって、何より椅子がふかふかなので大好きです(笑)

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