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1 「4月某日のプリンス様」

作中で扱うミュージカルは基本、天美オリジナルの話になります。

ミュージカルは著作権が難しいので(泣)

もしくは、著作権が切れている文学作品を扱うことになります。


春も麗、四月に入り日差しは日々暖かくなっていく。昔の中国の詩人も言っていたが、この心地よい陽気では夢の国から帰りづらくなるのもしょうがない。そう、春眠暁を覚えず、だ。


万里は悠紀生の部屋でコーヒーを入れる用意をしながら悠紀生を見つめた。

昨日は夜が遅かったのか、珍しくソファーで眠っている。今日、彼がオフならばこのまま寝かせてあげたいところだ。

しかし、今日の彼にはそんな暇などない。今日は悠紀生が主演のミュージカル、『ウェディング・ロマンサー』の公演初日の三日前。つまり……



「悠紀ちゃん、ゆきちゃーん!! 今日から劇場入りでしょ? そろそろ起きないといけないんじゃないの? 怒られても知らないよ?」


「……あれぇ? 万里ちゃん? なんでいるの?」


「何でいるのとは御挨拶だよね、昨日夜中にいつもの(・・・・)無くなったから『補充お願い!』って言ってきたのは誰だったっけ?」


「ごめん、万里ちゃん。怒っちゃやだ。」



そうなのだ。今日は「劇場入り」、つまり役者が実際に公演する劇場に初めて足を踏み入れる日になる。

ここから公演の初日まではセットも本番通りに稽古する最終調整の大事な三日間だ。

昨日の稽古終わり、夜中にも関わらず悠紀生は万里の携帯に電話し、いかにも申し訳ないと言わんばかりの声色で頼みごとをしてきたのだ。







*************





「……んぅ?もしもし?」


「あ、ごめん。万里ちゃん。もしかして寝てたかな?」


「ううん、寝かけてた。」


「あー、ごめんね。」


「いいの、悠紀ちゃん珍しいね、夜中に。どうしたの?」


「えーと、起こしたところ大変言いづらいんだけど……万里ちゃんから貰ったぬか漬け、もうなくなっちゃった。」


「えっ?!この前タッパいっぱい持っていったばっかりじゃん。」


「そうなんだよねー。でも稽古場で椅子の上に置いて、ついそのままにして稽古してたら………いつの間にか無くなってた。」


「……………」


「……ヒロイン役の夕香さんが美味しかったって!」


「……………」


「演出の加賀美さんも良い味してるって!」


「……………」


「………………ごめん。もうなくなっちゃったんだけど、万里ちゃんのぬか漬け、皆欲しいって言ってるから僕のぶんと余分にもうすこし増やして持ってきてもらえないかなーー?って……………………………駄目かな?」







*************





悠紀生曰く、本当なら自分が貰いに行くべきところだけど、いよいよ本番も近いから家に寄ってモノを貰いに行く時間がない。でもないと困る(主に悠紀生が)。

悪いんだけど持ってきてくれない?ということだった。

悠紀生も万里が断らないことを知っててお願いをするんだからたちが悪い。

その上、朝からこのご挨拶。万里は悠紀生の言葉に少しばかり不満を覚えたが、今日までの彼のスケジュールを考えれば仕方がないのかもしれない。


昨日は朝から早起きをして、出演が決まってる次回作の記者会見の打ち合わせ。そのまま記者会見でインタビューを受け、一緒に記者の前で歌唱披露をし、そのまま雑誌のインタビュー。夕方には途中から「ウェディング・ロマンサー」の稽古に参加していたはずだ。昨日の電話の時間を考えると昨夜の稽古は相当遅くまでかかったらしい。

その後のことは、部屋の様子と悠紀生の現状から察するに、ベットにたどり着く前に力尽きた、が正解だろう。

万里はテーブルの上に広がっている悠紀生のスケジュール帳を眺めた。

今月は1日から30日までスケジュールが真っ黒だ。

「ウェディング・ロマンサー」は地方公演も打つ大きな公演だから月後半からは大阪にしばらく滞在し、来月頭は福岡に行くらしい。

よし、お土産は福岡の美味しいものを頼もう。



「悠紀ちゃーん、寝てても良いけど時間に間に合うの?スケジュール帳には『11時劇場入り』って書いてあるよ?」


「んー、今何時?」











「今はね、10時。」












ドスンッ!!……ドタドタドタドタ……ガサガサ……



嗚呼、後ろを向いていても手に取るように分かる。

万里は含み笑いをしながら先ほどの音を反芻した。

恐らく、ソファーから落ちて、クローゼットまで走り、どうやら今は着替えてる最中みたいだ。


「起こしてくれてありがとっ!万里ちゃん!!時間無いからいってくるね!」


「え?でも悠紀ちゃん」


「母さんたちには今日から暫くは事務所のマンションで過ごすって言っておいてくれる?」


「良いけど、でも悠紀ちゃん」


「ごめんね、時間無いからまた今度ゆっくり聞くね!」


「いや、私は良いんだけど 」


「コーヒーありがと!ご馳走さまです。いってきまーす!」


「え?あ、うん。行ってらっしゃい」


悠紀生はソファーの横に放っていた鞄を取り上げ、脱兎のごとき勢いで部屋を出ていった。

しかし、彼は肝心なものを忘れている。




















「…………行っちゃった。ぬか漬け置いて。」


さて、どうするべきか。






東宝ミュージカルがお好きな方なら「ウェディング・ロマンサー」の元ネタミュージカルはお分かりになられると思います(笑)



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